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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~5月5日

一ヶ月と10日遅れで土方誕生日。なんか、方向性が予定とずれたような(爆)。
明日のジャンプに、もし仮に万が一党首が出てきたら、若布の中で土桂フラグが立つやもです。形になるのは遠い先ですが(爆)。






「あーーー………、だりぃ。」
 首を動かして肩をゴキゴキ鳴らしながら、生ったるい空気の中を歩く。晴天に恵まれた昨日ほど暑くもなく、けれど一ヶ月前ほど空気が冷えるわけでもない。夕方からは雨と聞いた。その先触れの、湿気った大気が体にまとわりつくようで気持ちが悪い。
 自分の誕生日、というものを、土方はあまり意識したことはない。自分が何かを期待する前に、人の良い近藤があれやこれやと気を回してくれるからだ。例えば朝からマヨネーズの量がいつもの三倍だったり、隊士達が灰皿を持って土方の周りをうろうろしてたり。
 もちろん、その中には、沖田のように悪意たっぷりなのも中にはある。だが、たいていのものには多少の打算と、何より自分への好意が判りやすく含まれていて。
 何というか。
「照れ臭いじゃねぇかよ………。」
 気持ちはありがたい。正直嬉しい。だが、それより先に立ってしまうこそばゆさが、未だ慣れずにこうして警らを言い訳に逃げてきてしまったわけだ。≪鬼の副長≫ともあろうものが情けない。
 街は祝日で、湿ったい空の下、子供は走り回り、お母さんは道の端をはみ出ながら立ち話をし、猫もあくびをしている。平和そのものだ。
 もう一度、肩を鳴らす。凝ってはいないがどうもしゃっきりしない。どこかで一服するかと辺りを見渡す。完全禁煙の七日間が過ぎても、どうも江戸の街は喫煙者に厳しい。しばらく歩いた後、小さな公園のベンチの側に錆びかけたタバコの灰皿を見つけた。
 長い間使われてないようだが、撤去されてないってことはここは禁煙ではないだろう。これまた古ぼけたベンチに腰を下ろし、タバコを取り出して火をつける。深く吸い込み、灰の奥まで煙を巡らせてゆっくりと吐き出す。旨い。
 立て続けに二本吸い、三本目に火をつけた。数人の子供が、すべり台やブランコで遊んでいるのをぼんやりと眺める。のどかな空気に、沖田ではないけれどこのままぼーっとしていたくなる。
「………まずいな。」
 このままだと本当にうたた寝してしまいそうだ。気持ちを覚ますための一服が、どうもスッキリしない。短くなったタバコを灰皿に押しつける。もう一本だけのつもりでケースに手を伸ばす、その前に消したばかりの吸い殻が地面に落ちた。
「こら。」げしっ。
 拾う前に後頭部を強く殴られた。星が目の周りをチカチカ回る。
「っってぇなぁオイ誰だこ、」
 飛びそうになる意識を後頭部ごと押さえて振り返り、怒鳴り声を途中で失った。
「子供の遊ぶ公園で煙草など吸いおって。副流煙が幼い肺を害したらどうする。それに、今ポイ捨てしたろう。喫煙者の最低限のマナーも守れぬようなら、煙草など吸うな芋侍が。」
「か……っ、桂ぁっ!?」
「かかつらじゃない、木圭だ。」
 漆黒の法衣に麻色の袈裟、かぶった編み笠はどう見ても僧だが、その笠の下から流れるように伸びた黒い髪が、彼がそうでないことを示している。左手が持ち上げた笠の奥からは強いまなざしが覗き、右手は錫杖を握っている。今土方を殴ったのはこれか。思わず腰を浮かし、刀に手を伸ばした土方を睨みつけたのは後ろの白ペンギンで、桂はむすっとしたまま公園の真ん中へ向かって歩き出す。
 立ち上がって後を追うと、ゴザと風呂敷を持った白ペンギンが道を阻もうとする。どうせコイツも指名手配の攘夷浪士、斬り捨てるかと抜きかけた時、「エリザベス」と低く柔らかい声音が白ペンギンを退らせた。
「てめっ、」
「何だ。」
「テロリストのくせに、よく俺の前に姿を現せたもんだなっ。ついでに護衛を下がらせて、余裕のつもりかっ?」
「言っただろう、テロリストじゃない僧侶だ。見て判らんか節穴め。それとエリザベスは護衛じゃない、ペットだ。」
「普通の坊さんは人を芋だの節穴だの言わねーよっ。」
「ポイ捨てした煙草をそのままにするような非常識な奴など、芋で充分だ。」
 態度はともかく言ってることは至極真っ当だったので、渋々土方は落とした吸い殻を灰皿に押し込む。その間に白ペンギンは公園の真ん中でゴザを敷き、桂はその側で子供達に取り囲まれていた。おそいだのなまぐさボーズだの口々に喚く子供達をむっつり顔で眺め、促してゴザに上がらせる。
 土方が改めて近づいたのは、白ペンギンが風呂敷から色とりどりの折り紙を取り出したあたりだった。
「何だこりゃ。」
 包装ビニールを剥がそうとされる束を横から奪い取ってしげしげと眺める。どこからどう見ても普通の折り紙だ。
「こら、勝手に上がるな。人の物を勝手に取るな。ちゃんとお邪魔しますと言え。」
「どこのままごとだよ。」
 眉をひそめるが、桂や白ペンギンだけでなく子供達までおじゃましますって言わないーと連呼された。イライラと頭を掻き毟って、低い声を絞り出す。
「………オジャマシマス。」
「やればできるではないか。」
「だから何のままごとだよ。」
 ずかずかと近づく土方を、桂は警戒するでもなく手を差し出した。
「折り紙を返せ。それが無くては何もできんではないか。」
「何するつもりだよ。」
「折り紙を折るに決まってるではないか。ちぎり絵は、今日のような風のある屋外では不向きだしな。」
「はぁ?」
「貴様、今日が何の日か判らんのか?」
 琥珀が細められ、筋の通った鼻がフンと鳴らされる。明らかにバカにした態度だが、真っ先に土方個人のことを思い浮かべてしまい返答が遅れた。口を開く前に、子供達が「こどもの日ー」と口々に答える。
「その通りだ。皆、かしこいな。どこぞの芋とは違って。」
「ばっ、今のはガキ共に譲ってやっただけだからなっ。」
「何だ、負け惜しみか。」
「ちげーよっ。」
「とにかく折り紙を返せ、今日が何の日かも判らない阿呆芋侍。」
「コイツを何に使うんだ。」
 子供が側にいることを忘れ、睨みつける。琥珀色の瞳はまっすぐに、土方の視線を受け止めた。
「子供達に、兜の折り方を教えるのだ。」
「かぶと?」
「子供の日、と言ったら兜だろう。だから返せ。」
 さぁ、と手がより近くに突きつけられる。その無防備な手を掴んで手錠をはめることは酷く簡単で、同時に途方もなく困難なことに思えた。おそらくその前に、桂は逃げるのだろう。少し躊躇った後、待て、と息と共に言葉を吐き出した。
「念のためだ、改めさせてもらうぞ。」
「構わんが、迅速にな。」
 桂の眼が再び細められる。さっきの蔑んだような笑みではなくそれは少しだけ柔らかくて、僅かに土方は狼狽える。
「何だ、早くしろ愚図芋侍。」
「愚図言うなっ。」
 ビニールを強引に剥がす。一枚いちまい、表も裏も手触りも匂いも細かく確かめていく。ほんの二、三枚で子供達はぶーぶー言い始め、桂もこっちはもう良いだろう、と検分の済んだ折り紙を取り返して配り始めた。
「よいか、ではもらった子達から始めるぞ。まずはこう折ってだな、」
 手本を示すように、自分も赤い折り紙を折り始める。十二枚目の折り紙を調べる手を止めて、その指を見つめた。角まできっちりと合わせて、丁寧な折り方だ。が。
「あれ、あれ?」
『桂さん違います、次の手順はこうです。』
 何だかだんだん怪しいオブジェになってきた赤い折り紙を主人から取り、白ペンギンが正しい手順を示す。もう一度桂の手に戻されたがまたすぐに折り方を間違い、ペットがまた修正する。何とかそれらしいものはできあがったが、子供達からはわかんなーいとの声が上がった。
『では、次は自分が教えます。』
「わーい、やったぁっ。」
 子供達の輪から弾き出された桂が、かすかに口を歪めている。と、きょとんと見ていた土方にずずいと体を寄せた。
「なっ、何だよっ?」
「検分は済んだのか。」
 むっつりとした顔で、桂は土方が手にしていた折り紙を奪い取った。
「あ、待ちやがれっ。」
「仕事が遅いぞ芋亀侍。いや、この呼称は亀梨殿に対して失礼だな。」
「誰だよ亀梨って!」
「竜宮城の亀さんだ。」
 意味が判らない。
 呆然とする土方に、桂が尚も催促を入れる。わかったよ、と舌打ちをして、残りの検分を再開させる。ちらちら、と横目で眺めていると、桂は白ペンギンに負けじと折り方を教えようとするがまた途中で間違い、教えるのを諦めたようだ。代わりに、もう完成させた子供を捕まえ、端午の節句について語っている。
「おい、それそんくらいの歳のガキにはまだ早ぇんじゃねぇのか。」
 話を聞いていた子があくびを噛み殺そうとしているのを見かねて、ついそう口を挟んでしまった。
「早いも何もあるか。子供の能力を見くびるなど、百年早いぞ。」
「それ、活用あってんのか?」
 最後の一枚を調べ終え、桂の手元に押しやる。桂はそれを、白ペンギンに手渡した。もう大体の子には行き渡っていたようで、余った折り紙は好きに折らせようということになった。桂に教えを受けていた子供も、ぱっとそっちへ飛びついている。
「大体、何だってこんなこと。」
 あ、と折り紙に群がる子達に手を伸ばしかけて結局下ろした桂に、そう尋ねる。
 折り紙に見せかけて密書をばらまこうというのでもない。桂の意図が、まったく読めない。
「子供達に、端午の節句の意味を教えようとしているだけだ。今は、ちゃんと正しい由来や意味を教える余裕のないお父さんお母さんも多いからな。」
「そんなん、教える必要あんのか?」
 桂の視線が、土方から子供達に向けられる。白い手が、ぎゅっと握りしめられた。
「天人の襲来以降、様々な文化がこの国に流れ込み、その中で日本古来の文化が意味を失い、形だけのものとなり、或いは丸ごと忘れ去られようとしている。勿論、時代と共に文化も移ろいゆくものだが、それでも語り継ぐことは大事だと思う。一度すべてが失われては、後から取り戻す事など不可能だからだ。」
 そのまなざしは遠く、そして微かだが確かに燃えていた。子供に向けるには厳しすぎる眼に戸惑い、そして桂の見ているのが子供達ではないことに気づく。
「………たかが、」
 行事じゃねぇかと口にする前に、鋭い琥珀が土方を射抜いた。
「たかが行事でも、これまで日本人の心を育ててきたものだ。」
「けどよ、」
「知る者が伝えねば、それらはあっという間に忘れ去られてしまう。ほんの、十年も経たない出来事すら、意図的に改ざんされ忘れ去られようとしているではないか。」
 低い声に、強いまなざしに、思わず気圧されそうになった。反射的に腰に手が伸びる。
 刀に手が届く前に、桂は顔を伏せた。白い顔が笠に隠れる。白ペンギンや子供達が、何事かとこちらを見ている。
「あぁ、驚かせてしまったな。すまない。」
 上げた顔も細められた眼も静かで、たった今の激しさは微塵も感じられなかった。続けておいでと促され、子供達はまた折り紙を始める。中には紙飛行機を飛ばしに駆け出す子達もいて、桂は小さく口元をゆるめてその光景を見ていた。
「………忘れさせない、為にか?」
「伝える為にだ。この国の文化を、歴史を、今の姿を。そして、真実を。」
 そしていつか、民意によってこの国を変えるために。
「………チッ。」
 穏やかな横顔から視線を引き剥がした。子供達は折ったものを手に、もうゴザから離れている。
「そういえば、職務怠慢か芋侍。」
 思い出したような言葉に、土方は息を大きく吐き出した。ダメだ、これだけじゃイライラを吐き出すことなんてできやしない。
「ガキのいるとこで刀振り回せるかよ。」
「そうか。」
 白ペンギンがゴザをたたむ。追い出されるように立ち上がった土方の側に、桂が立った。僅かに見上げてくる視線に、あれ、と思う。
 コイツ、俺より背が低かったっけか。
「場をわきまえた良い子には、ご褒美だ。」
 そう言うなり、何かが土方の口に突っ込まれた。吐き出す間もなくさくさくしたそれは口の中で砕け、のつのつした感触が喉に張り付く。と同時に。
「ぅぐへぇっ! っんだこれ辛あっ!」
「知らない人から無闇に食べ物をもらってはいかんぞ芋侍。」
 地面にのたうち回る土方に、そう声がかけられる。オメーが突っ込んだんだろうがっという言葉を叫びにする余裕もなく、喉を焼く辛さと戦っている間に桂と白ペンギンは姿を消した。
「………あんにゃろ……っ!」
 下手に水を飲むとそれが刺激になって激痛が増すことを、経験から知っている。覚えてやがれ、と声に出さずに毒づいて。
 自覚し始めたもう一つの想いを、心の奥底に閉じ込めた。




                                 ~Fin~

by wakame81 | 2009-06-14 20:59 | 小説:星は何処  

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