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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~2月6日

まるっと四ヶ月遅れで山崎誕生日。
遅れた最大の理由が、山桂本「テレスコヲプ」だったので山崎には特に謝りません(笑)。








「弱った………。」
 先日の大捕物のついでにずたぼろになったのが一つ。その後の潜入捜査で汚れたのが一つ。大雪でずぶ濡れになったのが三つ。洗濯しても、まだ乾いていない。
「弱った………。」
 再度呟く。手持ちのマフラーはもう残ってない。インフルエンザも蔓延するほどの大寒波の中、マフラーなしで過ごせってか。
 いや、もう一つある。あるにはあるのだけれど。
「………これ、使えねーよなぁ………。」
「どうした山崎。」
「うわぁはいぃっ!」
 背後から声を掛けられて飛び上がる。副長かまさか沖田ではないだろうな。
「どうしたんだ?」
 きょと、と首をかしげるのは、運の良いことに局長の近藤だった。考え得る限りの最良の巡り合わせに、天に感謝したくなる。
「いえ、急に声かけられて、びっくりしただけです。」
「そうか。」
 人の良い局長は、ガハハと豪快に笑う。何というか、ほっとする。
「で、どうしたんですか局長、俺に何か?」
 近藤直々に、一監察に過ぎない山崎へと指示が降りることは滅多にない。命令を下すのはたいてい土方だ。それとも土方の手にすら余る、幕府内々の政治的な何かが、と身構えた山崎だったが。
「いやー、お妙さんところ行こうと思ったら今夜ちょっととっつぁんに呼ばれちゃってさぁ。山崎代わりに行ってきてくれないかなぁ。」
「俺が、ですか?」
 思わず眉がハの字に下がる。スナック「すまいる」の女の子達はお妙に限らずレベルが高いが、さながらぼったくりバーのごとく搾り取られる可能性も高い。どうせ飲むならそういうのを心配しないで飲みたいというのが本音だ。まぁ、行くにはやぶさかではないのだが。
「頼むよー、山崎だったら俺にも変装できるだろっ? 監察の秘密七つ道具とかで。」
「てまさか、代わりに行けって松平長官のとこですかっ?」
「だめかな。」
「ダメに決まってますっ。やったら局長も俺も切腹モンですよっ。」
「そうかーやっぱりダメかーーー。」
 本気で、しょぼんと肩を落としている。行ったってどうせ殴られるか毟られるかなんだから、そこまで悩むこともないだろうに。
「何か、長官に顔合わせづらいことでもあるんですか?」
「だって、お妙さんに会いたいんだもーん。」
「だもんじゃありません。おとなしく長官ところに行ってくださいっ。」
 怒鳴って部屋から追い出す。肩を落とし、背中にどんよりと縦線まで背負った近藤は、半ば死人のような眼で振り返った。
「そうそう、そんな薄着で外出るなよー。風邪なんか引いちゃダメだからな。」
「はいはい判ってますよー。」
 ため息をついて答える。いい人なのだ、それは判ってる。隊を上げて土方いやトッシーの成仏に協力してしまうくらい。同時に、他の、平隊士に至るまでそのお節介焼きは発揮される。
「マフラーないなら俺の貸そうか? 力作だぞ力作!」
「いえいいです。」
 真っ赤なハート(アイラブお妙さんの文字入り)のマフラーは嫌すぎる。乙女でもないのに、なんで好きなひとのモチーフを入れたがるのだろう。近藤も、そしてアイツも。
「はぁ………。」
 近藤の立ち去った部屋で、たった一つ残ったマフラーを広げてみる。裏返しにすれば、目立たないだろうか。そう前向きに考えてみたが、つぶらな瞳の刺繍はせっかくのやる気すらきれいに奪い去っていった。


 危なかった。
 結局寒さにくじけて持ってきてしまったマフラーを、慌てて丸めて懐にしまい込む。もっこりした脇腹に沖田が眼を瞬かせたが、何も言わずに山崎の隣にならんだ。
「あー寒ぃなぁ。」
「そ、そーですね。」
「こりゃ、インフルエンザも流行るってもんだぜぃ。」
「そーですね。」
 沖田はマフラーと手袋をつけてはいるが、平然としたものだ。後ろでは、彼の直属の部下達が、寒さに耐えきれず押しくらまんじゅうをしている。
「寒くないんですか、沖田隊長。」
「熱いくらいだぜぃ、貼るホッカイロが。」
 とりあえずコメントに困る山崎の手から、双眼鏡が奪い取られた。元の持ち主の微妙な顔もスルーして、それを目に押し当てる。
「寒くねーのかアイツは。」
 ターゲットを覗き込む横顔が怖くて、山崎は裸眼では小さすぎるターゲットの方を向いた。
 さっきまで、自分も双眼鏡を覗いていたから知っている。この寒風吹きすさぶ夜に、奴もマフラーの他はいつもと変わらない服装で、キャバクラの呼び込みなんかやっている。
「似合わねー色のハッピなんか着ちゃってまぁ。」
 そう言う口端が吊り上がった。桂を発見するのは確か久しぶりの筈だ。そりゃ、沖田は楽しかろう。が。
 沖田と桂の間で何があったのか、うすうすとだが知っている身としては、この笑みの恐ろしいことといったら。
「いいかぃ、手はず通りにいくぜぃ。」
 押しくらまんじゅうで暖を取っていた一番隊の隊士たちは、隊長の命令に動いた。それぞれバズーカを持ち、散っていく。
 沖田が双眼鏡を突っ返し、懐から懐中時計を取り出した。握りしめながら、眼は桂から離さない。まっすぐ、瞬きすらせずに注がれるまなざしに、山崎はこっそりと視線を逸らし、懐中時計に目を落とした。。
 約十分後、彼らは桂を遠巻きに取り囲むように配置についた。時計の秒針が、頂点へと近づいていく。三、二、一。
「「「御用改めであーーるっ!」」」
 一斉に隊士達が桂の上下左右から躍り出て、バズーカの引き金を引いた。いきなりの爆発と爆音、上がる煙、そして特有の黒い隊服に道行く人たちがぎょっとした目で爆心地を見つめる。何事かと慌てて出てきたキャバクラの店主は、店の前の惨状にあたふたしている。
 そして同時に、沖田が刀を抜いて走り出した。
 桂はあの程度ではくたばらない。けれど、ほんの一瞬の隙はできるはず。そこを、沖田が追い詰める。
 大丈夫かな、と急に不安になった。そして、慌ててその思いを打ち消す。いや、心配になったのはどっちをだ。
 頭を振って、もう一度双眼鏡を手に当てた。そして眼を瞬かせる。
 沖田が、立ち止まっている。桂相手に躊躇うような沖田じゃない。むしろ、せっかくのチャンスだ。相手の動向が読めなかろうと、嬉々として飛び込んでいくだろう。なら、なぜ?
 答えは、すぐ後ろからもたらされた。
「まったく、無粋な連中だな。」
「………え、」
 振り返り、悲鳴を上げる前に細い手が口を塞いだ。至近距離に、髪を風に任せて白く美しい顔がある。ハッピをまとったままの体が半身になり、右手拳がぐっと引かれるのを目に捕らえた。口を押さえる左手を振り払って転げるように距離を取ったのは、必死さが生んだ幸運以外のなにものでもない。
「む、やるな。」
「ちょっ、桂ぁっ? なんでっ。」
「何でって、襲撃されたから逃げるまでだが。」
「でなんで、逃げるのに俺のとこ来るんだよぉっ?」
「包囲しようとする大勢の追っ手を相手に逃げ切る有効な手は、何だと思う。」
 自分から問うたくせに、山崎に考える時間も与えず桂は答えを口にした。持ち上げた口端が、どこか得意そうだ。
「目を、潰すことだ。」
「目。て、俺っ?」
「俺が穏健派に移行していたことを、喜ぶがよい。」
 そう告げる顔はいつもと変わらず淡々としていて、危うくもう一度握り拳を構えたのをスルーするところだった。慌てて距離を取ろうとする前に、逆に間合いを詰められる。
「何、痛みなど一瞬だ。当たり所が悪ければ、当分は飯も食えなくなるだろうが。」
「ちょ、普通の顔して言うセリフじゃないだろぉぉぉっ!?」
 襟もとを掴まれる。振り払おうと手首を掴む。ぎょっとするほど細い癖に、その手を振り解けない。右手を引いた桂の眼が、不意に瞬いた。
 視線が、はだけた制服の袷へと落とされる。
「まだ、持っていてくれたのか。」
 え、と桂の視線を追う。そこから、マフラーの黄色いくちばしがはみ出ていて、慌てて懐へと押し込む。
 そして、見上げた桂の顔に息を飲んだ。
 やわらかく細められたまなこも、小さくほころんだ口元も、小憎らしい追っ手或いはこれから殴ろうとする相手に普通向けるものではない。
 その、優しげな顔に思わず見惚れかけた瞬間。

「かーーーつらぁぁぁぁぁっ!!」

 明らかに苛立ちの混ざった声と共に、バズーカが撃ち込まれる。
 このところ、誕生日に悪いことが起こるというのは何かに取り憑かれてでもいるのだろうか。
 たった一人爆発に巻き込まれ、薄れ行く意識の中でぼんやりとそう思った。




    

by wakame81 | 2009-06-07 20:20 | 小説:星は何処  

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