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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~10月10日

間に合いました。銀時誕生日。
晴れの特異日に横浜は夕方から小雨が降りましたが、これは属性雨男な幼馴染の介入とゆーことで。







 釜から吹き出していた湯気がだんだん落ち着いてきた。あたたかい、いい匂いが鼻をくすぐって、腹の虫を鳴かせる。昨日海で拾ってきた海藻をすまし汁の中に放り込みながら銀時は釜の火加減を確かめた。少し強い、もうちょっと落とさないと焦げつく。
「「銀時ーっ。」」
「おわっ。」
 灰をかぶせていると、後ろから声がした。家の奥から呼ぶ松陽の声じゃない、表からだ。
「おはよう銀時、早いなっ!」
「なんだ、まだねてるかと思った。」
 戸口に、朝の光を背にして小さな影が二つ立っている。後ろ頭でくくった髪がぴょんと跳ねて、その影も揺れた。
「早ぇのはおめーらだろっ。俺はこれからメシなんだぞ、とっとと帰れ。」
「何いってるんだよ。帰るわけないだろ。」
「晋助のいうとおりだ。帰ったら、今日のじゅぎょうに出れないじゃないか。」
「あーじゃぁどっか行け。銀さんは朝メシ作るんでいそがしいんですー。」
「わかった、行く。」
「先生は中にお出でか?」
 そう聞く晋助は、すでに草履を脱ぎかけていた。見つけた小太郎が、はしたないと小言を言う。
「あーそうだよ。どーせまだぼーっとしてんじゃ」「わかった。」
 銀時の言葉を最後まで聞かずに、幼なじみ二人はぱたぱたと奥へ走っていった。きっちり履き物はそろえていくあたりが、彼ららしい。
 武家を継ぐために養子になった小太郎や上士の家の跡取りとして生まれた晋助にこういう礼儀正しい所作を見ると、ただ坊ちゃんとして甘やかされてるだけじゃないんだと思う。どっかの馬の骨とは違う。家柄も立派な、世界の違う子供たち。
 それらが、毎朝競うように早く登塾しては銀時におはようを言う。もちろん早く来るのは師の松陽に会いたいためだし、ケンカだってたくさんしてるし、特に晋助は銀時につっかかることが多いけれど。
「なんだかなー。」
 こそばゆい感覚が鼻をむずむずさせる。ほじろうかでもメシの支度の途中だし、と頭を悩ませていた銀時は、釜から何やら香ばしい匂いが漂ってきたことに気づいて慌てて火を落とした。ふたを開けたいのを、いやまだ早いとこらえる。
「あーもう、おまえらが早くから来るから、焦がしちゃったじゃねーかよ。」
 いつもは朝メシ直後に来るくせに。
 二人がもう向こうへ行ってしまったことを承知でそう愚痴りながら、応えのないことがさびしいと思う。それがまたくすぐったくて、居心地悪くて。
「って寒っ。」
 一人ツッコミをしてみたけれど、そのこそばゆさは消えてはくれなかった。


「なんつーか、浮ついてるよなー。」
 メシだぞーっと松陽を呼びに行ったら、三人は慌てて銀時へと振り返った。その仕草があんまりにも怪しかったけれど追求する気にもなれなくて、そのときはそのままスルーしたけれど、いざ講義が始まって、それは目につきすぎた。
 さすがに、師の講義を受けながらよそ見をするような二人じゃない。晋助なんかガン見してるし。浮ついてるのはむしろ、教える側だ。
 教本を間違えて持ってくる。算術の授業の時にはそろばんを忘れる。読み聞かせるときにまるっと一ページ飛ばす。質問を出して考えさせようというのに自分で答えを言ってしまう。休んだ子の名を呼んで当てようとする。
「なーにを浮ついてんだかー。」
 確かに、空気はひんやりしているが今日は天気もよくて日なたはぽかぽかとあたたかい。山の柿はそろそろ色づいてきてるし、あけびもこの前見つけたのがいい感じになる頃だし、甘しょも収穫時だし、もう少ししたら栗も取れるだろう。だけど、なんかそういうのとは違う。
 あとは、まぁ米か。
「て、え。」
 まさか。
 浮かんだものに、それはないと思う。だいいち、松陽は忘れているはずだ。いや、言ったのは松陽自身だけれど。
 拾ってきた馬の骨を稲穂の海にたとえようだなんて。寒いにもほどがある。つーかない、それはない。
「銀時。」
「えっ。」
 呼ばれて飛び上がった。小太郎や晋助だけじゃない、教室中の子供たちの目が一斉にこっちを向いている。
「え、なに?」
「なにって、俳句ですよ。宿題の。やってきたんでしょう?」
 そう、小首をかしげる松陽に、そういえば昨日そんなこと言われてたと思い出す。山行ったり浜行ったりですっかり忘れてたけど。
「えーっと。」
 適当にひねり出そうと頭を掻く。こういう時の口から出まかせは得意だ。少なくとも、口げんかで晋助に負けたことはない。
「しぶ柿やー、あぁしぶ柿や、しぶ柿や。」
 教室中が、どっと沸いた。何が琴線にふれたのか小太郎は目を輝かせているし、晋助は呆れたような顔をしている。
「銀時。」
 松陽はにっこりと笑った。
「それは、芭蕉のパクリですよ。」
 バレた。普段ボケなのにこの時々見せる鋭さは何なんだろうと思いながら、銀時は舌を出した。


「つーか、アホだよな。」
 一日の講義が終わった後、いつものように裏の山を登りながらのことだった。あけびがそろそろだから見に行かないか、と誘ったのは小太郎だったのに、当の本人は来なくて、銀時は晋助と二人っきりだった。
 普段はそれなりに言葉遣いが丁寧な晋助も、銀時と二人っきりだと口調がはすっぱになる。小太郎や松陽の前では猫をかぶっていて、こっちが地なんじゃないかと、時々銀時は思う。
「アホってなんだよ。芭蕉だとよくてなんで銀さんじゃだめなんですかー。」
「バッカおまえ、芭蕉は松島の美しさにかんげきして、言葉もなくってあの句なんだぞ。おまえはしぶ柿見てかんどうとかしねーだろ。早く甘くなればいいってだけだろ。」
「ていうかさ、えらそうなこと言ってるけど前半松陽のうけうりだよね、この前授業で言ってたことだよね。」
 人のこと言えないじゃーんと笑う銀時のほっぺたを、晋助はつねろうと手を伸ばした。もちろん、素直にやられてやる銀時ではない。
「うるっせーな、そんだけ先生がイダイだってことだろっ?」
「だったら俺もそうでーす。、芭蕉がイダイだからパクったんですー。」
 殴りかかろうとする晋助をひらひらとよけて、山道を登る。晋助はムキになって銀時を追い、木の根っこに足をとられてこけた。
「あーらら、ダイジョブ? 晋ちゃん。」
「うるっせぇっ。」
 助け起こそうかと迷う間に晋助は体を起こした。そのまま立ち上がって、近づいてきていた銀時を殴る。
「うわ、めっちゃ痛ぇ。」
「こんくらいガマンしろっ。」
 晋助はなんだか不機嫌だった。また何か張り合おうとしてるのか、小太郎に何か言われたか、ぼんやりとだが心当たりはいくつかあって、銀時はいつものことだと受け流す。
「つかさ、ヅラどうしたんだろな。さそったのはアイツだってのに。」
 だから、何気なく話題を変えるつもりでそう言ったら、晋助はすごい顔で睨みつけてきた。
「なんだよ。」
「なんでもねーよっ。」
 するってーと、晋助が不機嫌なのは小太郎がいないからか。でもだったら、もっと判りやすく態度に出るだろう。じゃぁなんだ、と銀時が本気で考えようとしたとき。
 ふもとから、轟音があがった。なんだなんだと二人して見晴らしのいいところまで走る。そこで見たものに、銀時は絶句した。
「あ、あのバカ小太郎ーーーっ!!」
 晋助が絶叫する。
 松陽の私塾の屋根が吹っ飛んでいた。そこから溢れ出てくる白いモノが、壁まで伸し倒そうとしている。メキメキという音がここまで聞こえてきた。
「自分だとバレるからって俺にひきつけ役おしつけたくせにっ! なに先生のウチぶっこわしてんだぁっ!!」
「ひきつけ役?」
「あ。おーい、銀時、晋助ーーー。」
 銀時の呟きをかき消すように、家の前にいた松陽が手を振った。その後ろでは、小太郎が溢れ出る白いモノをキネで叩いている。
「もち米、こんなにいっぱい炊けたよーーー、たくさんあんころ餅作ってあげましょうねーーー。」
 言ってる意味が判らなく、ただ呆然としている銀時の目の前で、そう叫ぶ松陽と後ろの小太郎が白いモノに飲み込まれた。さすがにぎょっとする間もなく、白いモノは銀時と晋助めがけて競り上がってくる。
「うわっ、ちょ、やばくねっ!」
 慌ててきびすを返して走り出す。が、見る見るうちに白いモノは二人を飲み込もうと迫ってきた。べたついた米粒が銀時の足を取られる。ヤバイ、と思う頭とは別に、耳が晋助の悲鳴を捕らえた。
「だから俺はやだったんだよ、いくら銀時のたん生日だからって、手作りすることねーのにっ!」


「って何作ろうとしてたんだよっ!」


 跳ね起きた。
 目の前が薄暗い。あの白いもち米の津波に飲み込まれたか、と一瞬惑う。その割には息苦しくともなんともなかった。あたりを見回せば見たことのあるような部屋の中で、あれは夢かと息を吐き出す。
 何とはなしに、体の左側を見下ろす。銀時が体を起こしたせいでずり下がった布団から覗くのは、散らばる黒い髪と横を向いた白い顔。夢よりもずっと、頬や首筋に鋭さを増した姿。頭をぼりぼりと掻きながら、反対側に感じるぬくもりへと視線を移した。
「え、なんで神楽? 高杉じゃなくて?」
 口にしてからしまったと思う。
 そうだ。ここは松陽の私塾でもなく、戦時中の陣でもない。松陽を失い、坂本と出会う前の三人だけの閉じられた世界じゃない。
 坂本と別れ、仲間を失い、桂と高杉と離れて流れて流れ着いて、お登瀬や新八や神楽と出会い、そして再び廻りあって。道は分かたれたけれど、それでもまだ交わることもある。
「つーか、何この親子三人みたいな川の字。むしろ小? 小の字?」
 まさか、桂が神楽にいらんことを吹き込んだのだろうか。
 去年と同じく一日遅れでやってきた桂と、新八と神楽と二回戦とばかりに騒いで、神楽が泊まっていけとせびっていたことまでは思い出す。だからといって、これはないだろう。いや、桂がそこまで話すとは思えないから偶然なんだろうけれど。
 もう一度、左側に眠る幼馴染を見つめる。浅いときはちょっとのことでもすぐに目を覚ますバカは、今は銀時の隣で深く眠っている。
「おめーのせいだぞ。」
 髪の一房に指を絡めて引っ張った。起きる気配のない耳に、小さくささやく。
「あんな、夢見ちまったのは。」
 あのころのことを、あんな風に穏やかに。

 私はお前という種を植えよう
 六月の雨と、夏の太陽が十月の実りを育ててくれるから

「キモイこと言わないでくれる? もしそうだったら、銀さんヅラと高杉に育てられたようなもんじゃん。」
 それはサムイとぼやきながら、銀時の手は黒く真っ直ぐな髪と桃色のやわらかい髪を梳く。
 あの言葉は決して間違ってはいないことを、うちに秘めて隠しながら。




                        ~Fin~

by wakame81 | 2008-10-10 22:13 | 小説:星は何処  

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