人気ブログランキング | 話題のタグを見る

お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

~Melody of the Dusk~雨の欠片とまなうらの光:10~

夜勤&飲みから帰ってきました。アニメはまだ見れてません。EDだけ見ましたが。

ギンタマンオムニバス桂編、その2。結局4回に分かれそうです。






「てーか俺は、覚えてねぇし。」
 病室を訪れた沖田は、「悪いことをした」と告げた桂に、あっけらかんとそう言ってみせた。
「覚えてないって、思い出したがやないがか?」
 坂本が尋ねる。その隙に、神楽が坂本の手から「ヅラ専用そば饅頭(はるばる信州からお取り寄せ)」を奪う。
 ≪獣≫は確かに、沖田に降りたはずだった。現≪獣≫覚醒の影響かそれとも他の要因か、とにかく沖田の暴走に引きずられて記憶も取り戻した、そう思っていた。
「黙示録の戦いの直後、アンタが俺を殺そうとしたこととか、姉上が俺を引き取るのにめっちゃ反対したこととか、俺のことずっと警戒してて真選組に入っても見張ってたこととか、そんぐらいしか覚えてねぇでさ。」
 ご丁寧に指折り数えられる。その一つ一つが、桂の罪悪感を抉る。
「ま、それに比べたら、今まで俺のことずーっと黙って秘密にしてて、何度尋ねても教えることはないの一点張りでおかげでサリエルの野郎に聞かなきゃならなくなって挙げ句暴走なんてのは、大したことじゃねーですけどねぃ。」
「………そうだな。」
 小さく頷くと、沖田は眼を丸くした。
「あらら。大したことねえときやしたか。」
「大したことは、あるが。」
 ゆっくりと、肺の中の息を全部吐き出す。反動で身体の中に入ってきた空気は、湿っていて、とても冷たかった。今の自分には相応しい。
「俺は随分と、お前に酷いことをしてきたのだな。」
 今更のように思う。
 最初に向けた憎悪。それから生まれた罪悪感。それを取り繕おうとして、裏目に出て、ドツボにはまって、足掻くうちにそれは酷くなって。
「お前がいなければ、と、ずっと思っていたよ。」
 この子供が≪獣≫の魂を彼奴に押しつけなければ、自分は彼を失わずにすんだのだろうと。
「だから、お前を見捨てた。」
 真っ直ぐに、沖田を見つめる。
 顎が外れるかと思うほどそば饅頭を頬張っていた神楽も、命令されてお茶を淹れていた坂本も、黙って二人を見守る。
 沖田は半目で桂を見つめていたが、不意に神楽の手からそば饅頭を奪い取った。抗議の声を上げる神楽と彼女をなだめる坂本を尻目に、赤い何かを塗りたくったと思ったら、いきなりそれを桂の口に突っ込む。
「ぶへっっっ!」
 豆板醤だ。そばの香り高さも粒あんの品の良い甘さも全部辛みが押し流し、口の中が激痛で支配され、喉の奥にまでその刺激は達し、息もできずにむせこむ。
「げふっ、ぇふっっ………ぉきた、なにをっ………っ!」
「なーに神妙にしてんでぃ。」
 言葉を発すること自体が喉を刺す。痛みを和らげようと口を手で塞ぎながら顔を上げた。不機嫌そうな眼差しと、真っ向から見つめ合う。
「いっつも偉そうにしてやがったくせに、今更しおらしくしてんじゃねぇよ。そんなてめーなんざいたぶっても面白くねぇや。俺に謝りてーんなら、もっと尊大にしてろぃ。」
「それ…っでは、謝っ……ことに、ならんだろう………っ。」
「それに。」
 沖田は身を屈め、桂の顔を覗き込んだ。その茶の瞳が、言葉や態度と裏腹に、静かなものであることに桂は気づく。
「そんなん、ずっと前から知ってたさぁ。」
 俺んちで謝られた時から。
「………っ!」
 囁かれた言葉に、眼を丸くした。
 沖田の家を訪れたのは、一度だけだ。まだ幼い、名すら与えられたばかりの沖田が、声のない謝罪に気づいていたというのか。
「おき」
「んじゃなぁ、桂。もーちっと張りが出るようになったら、九年分いぢめ返してやらぁ。」
 一方的にそう言い、沖田は踵を返す。その手がドアノブを握る前に、ドアは開かれた。
「総悟? お前ここにいたのか。」
 現れた土方は沖田に目をやると部屋の中へ入り、ドアを閉める。すれ違いもう一度ドアを開こうとした沖田の襟首を掴み、「どこへ行くんだ」と引き留めた。
「俺ぁもう用事すんだんでさぁ。お邪魔虫は退散しやすんで、桂としっぽりでもずっぽりでも何でもしてくだせぇ。」
「ばっ、んなことするわけねーだろっ!」
「あっはっはー、ワシら空気?」
「仕方ないネ。さっきから私達、殆どしゃべってないアル。」
「いーからいろっ! お前にも関係あんだよっ!」
 沖田を引きずって桂の前に来ると、土方は手にしていた大きい封筒から長い紙を三枚取り出す。心電図にも似たそれを、桂の前に広げて見せた。
「昨日録らせてもらった、お前の左眼の霊波図だ。そんで、こっちが総悟が暴走したときの現場で計測したヤツと、≪獣≫が覚醒した国技館の地下でのヤツだ。見比べてみろ。」
 桂だけでなく、沖田も神楽も坂本も覗き込む。
 計測した状況もその時起こった現象も違うため、三枚の図線が描くのはバラバラの線だった。だが、ある一線だけ、完全に一致している。
「霊波線の一番根底にある、C線だ。これが、総悟、現≪獣≫、そしてお前の左眼と完全に一致している。」
 桂はそっと、左眼に触れた。眼帯と目蓋に守られたその眼球は、彼奴の。
 左眼の霊波図を録ることになったのは、新八の証言がきっかけだった。
 桂の顔の中で、その左眼だけが桂のモノではない異質さを放っている。それを聞いた土方が、左眼の由来を問い、その答えにふと思いついたことがあると検査したのだ。
「桂。お前それ、現≪獣≫の物だって言ったよな。」
 その通りだ。だから、彼奴の霊波をたどれるかもしれないと言われ、霊波図を録った。
「だったら不思議はねーでしょう。≪獣≫の魂の霊波が、俺みたいに桂にも染みついてるってことでさ。」
「………違う。」
 震える声で、否定する。
 信じたくはない事実が、そこにある。
「………この左眼は、晋助に≪獣≫が降りる前に、抉られたものだ。」
 ≪獣≫が触れたのは外側から。九年経った今も、抉った者の霊波がこびりついているわけがない。
 つまり。
「高杉晋助が、元から≪獣≫と同調した魂を持つってことアルか。」
 低い声で、神楽が断定する。

 ………晋助。

 祈るような想いでその名を呟き、桂は眼を閉じた。


 志村新八には一応話しといてやったが。
 立ち去り際の土方の言葉を、ぼんやりと思い出す。沖田は土方を待たずに退室し、神楽も見舞いの品を平らげたら出て行った。ただ一人残った坂本も、今は席を外している。
 少し時間おきゃぁ、アイツも落ち着くだろうよ。だがな、今の状態で謝るのだけはするな。
 枕に頭を預け、眼を閉じる。少し頭が痛い。外界からの刺激を遮る暗闇が、ほんの少し心地良い。
 このまま眼を閉じていれば、きっと眠れる。沈む身体が、それを欲している。
 ………だめだ。
 桂は頭を振って、身を起こした。自分がそれを、許してはいけない。他の誰もが、自分を責めてはくれないのだから。
 蒲団をめくり、足を降ろす。ちょうどベッド下にあったスリッパに足を遠し、立ち上がろうとしたところで左手が何かに引っ張られた。見ると、包帯で固定された手首から透明なチューブが伸び、それがベッド脇の点滴へと繋がっている。
 少し考えた後包帯を解き、腕に刺さっていた針を抜く。少し血が滴ったがそれを右手で押さえ、桂は病室を出た。


 左眼は眼帯に覆われているから、歩き方がどうもふわふわする。
 手すりに掴まりながら階段を下りたところで、自分がお通の病室を知らないことに気づいた。そもそも、この病院の間取りすら判らない。誰かに聞こうと、下りた先の廊下に出る。4人部屋の病室がそこには並んでいて、廊下には誰かの見舞いらしい私服の人たちが何人かいた。さすがに一般人は知らないだろうと看護婦を捜すと。
「失礼しますー。」
 きっぷの良い声をかけてストレッチャーを押した二人の看護婦が桂を追い越していった。あの、と声をかけようとしたが、聞こえない風で突き当たりのエレベーターに乗って行ってしまった。
「………さて。」
 こうなったら、病室の一つ一つを覗くしかないだろうか。病院の規模を知らない桂がそう考えたときだった。
「あの?」
 後ろから声をかけられ、振り向く。そこにいたのは、黒い髪を襟足で短く切りそろえた若い看護婦。
「どうしましたか? 今、先輩達に話しかけようとしてましたよね。」
 桂の様子を見て、声をかけてくれたらしい。気の利く看護婦に向き直り、口を開く。
「少し尋ねたいのだが、お通殿の病室は何処か?」
「はい?」
 看護婦は面食らったようだった。きょろきょろと周りを見回してから、顔を寄せ声を潜める。
「すみません、それは秘密なんですよ。」
「そうなのか。俺にも教えてはくれぬのか?」
「はい。」
 それでは、他の看護婦に聞いても無駄だろう。こうなったら、やはり一つ一つの病室を、と考えたところで、他にもう一人、謝らなくてはならない相手がいることを思い出す。
「では、近藤という者の病室は教えてもらえないか?」
「近藤………どちらの近藤さまですか?」
 尋ね返され、自分が近藤の下の名前を知らないことに気がつく。そういえば昔、ギンタが呼んでいたような気がするが、はて。
「近藤ゴリオ………じゃなくて、近藤芋雄………近藤チンポ?でもなくて、とにかくゴリラっぽい感じの名前だったような………。」
 首を傾げる。思い出そうとしても、あの外見ばかりが先に出てきてどうにも名前が思い出せない。
「そういえば、真選組の局長をしていたような。」
「あぁ! 近藤勲さまですね!」
 看護婦は手を叩いた。その口にされた名に、確かに憶えがある。
「そう、それだ。案内してはもらえないだろうか。」
「いいですよ。こちらです。」
 看護婦は、二つ返事で答えてくれた。案内されるままに階段を上りなおし、桂の病室とは反対側の廊下を進む。



                                  ~続く~

by wakame81 | 2008-07-05 01:40 | 小説:ギンタマン  

<< ~Melody of the ... ~Melody of the ... >>