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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

~Melody of the Dusk~雨の欠片とまなうらの光:2~

土方オムニバス後編。
どうやら、私はキリの悪いところで終わるのが好きなようです(爆)。続きはギンタ編へ。






 こんな、雨の日だったと思う。

 真選組本部にミツバが顔を出したのは、本当に久しぶりだった。
 対妖魔特殊部隊とはいえ、メンバーの殆どは特別な力もない、一般人ばかりだった。ヒトを超える能力を持つ妖魔に対抗するために、隊員は皆厳しい訓練を受けた。その訓練に立ち会い、傷ついた者達を癒してくれたマドンナの久しぶりの来訪に、本部は浮かれた。
「てか、少し痩せたんじゃねぇのか?」
 騒ぐ隊士達を一喝し職務に戻らせた後、土方はそう問いかけた。
 線の細さは元からだったが、それが酷くなったように思う。顔色も、良くない。梅雨時の冷え込みで体調でも崩したか。
「あら本当? そうだったら嬉しいわ。」
「嬉しいって。」
「だって、そうしたら夏に色んなおしゃれができるもの。」
「まさかダイエットしてんのか?」
「女の子にそういうこと聞いちゃダメよ、十四朗さん。」
 口元に手を当てて笑う。その仕草も、柔らかい笑い声も、変わらない、のに。
(………遠い。)
 そう感じるのは、連れてきた弟が近藤とじゃれ合うのを見守る眼差しが、酷く優しいせいか。
「………おしゃれを見てほしい相手でも、できたのか?」
 そうでないといい。
 そう願いながら恐る恐るかけられた問いに、ミツバは眼を丸くし。そしてその唇は、柔らかく弧を描いた。
「まさか。こんな年増なんか、相手にする人いないわ。」
「年増言うような歳じゃねーだろ? そりゃ俺よりは年上だけどよ。」
「年上で悪かったですよーだ。」
 べーっと舌を出し、笑う。その姿が柔らかく、幼く。そしていとおしい。
「………ミツバ。」
 仕事を優先するがために押し隠してきた気持ちが、溢れそうだった。久しぶりにその姿を見たせいか。見違えるほどやせ衰えたその体の細さ故か。
 手のかかる弟が来年高校に上がり、ミツバに視線を余所に向ける余裕ができるだろうからか。
(守ってやりてぇ。)
 その想いは。
 口から溢れる前に、ミツバの微笑みによって止められた。
 少し困ったような、暖かいブラウンの眼差しが、土方を柔らかく見つめる。
「ごめんなさい。」
 静かに、けれどきっぱりとミツバは土方を拒絶した。
「今その言葉を聞いたら、きっと甘えてしまうから。」
 甘えてもらって、全然構わないのだけれど。その拒絶を受けても尚突き進むだけの勇気を、土方は持たなかった。


 今から思えば。
 あの時既に、ミツバは自分の死期を悟っていたように思う。
 もし仮に、自分とミツバが結ばれたとしても。遠からず彼女は逝き、土方は取り残されただろう。彼女の弟の保護者として。
 いちいち自分に嫌がらせをしてくるが、沖田一人を抱え込むことは別に苦痛じゃない。面倒ではあるだろうが。それくらいの甲斐性もないと思われたのかと、落ち込んだこともあったが。
「………総悟のこと、やっぱ知ってたのか………?」
 目を開けた。折れた≪村麻紗≫の鞘に、そっと手を置く。
 あの拒絶は、ただのコブ以上の重みを沖田が持つと知っていたからか。そのことを、自分にも打ち明けてくれなかったのか。同じ秘密を、桂や万事屋とは共有できたのに。
 聞きたい。
 彼女の真意を。
 土方は刀を掴み、立ち上がった。


「無理だよ。」
 見事なまでにぽっきりと折られた刀を一目見て、村田鉄子は首を振った。
 店の裏手の工房からは、槌をふるう強い音が響いてくる。壁を隔てているというのにその音は大きくて、小さな声はかき消されそうだった。
 浅草かっぱ橋商店街の奥にひっそりと店を構える村田堂。刃物取り扱いというのは店の表の姿で、神剣、霊刀を鍛え磨き上げ東京中の神社仏閣に献上しているという。≪鑑定士≫の異名を持つその若き店主は、渋い顔で土方を見上げた。
「多少の刃こぼれなら何とかなっただろうけどね。芯まで折られちゃ修復は兄者にでも無理だ。つぎ直しは強度を落とすし、溶かして打ち直すのはこの刀の霊力を損なう。」
「そうか………。」
 軽いため息をつく。その返答は、予想のついたことだった。ただ、元通りになれば、ミツバにもまた会えるんじゃないかと、少し期待してしまっただけで。
「それにしても。」
 鉄子は≪村麻紗≫を手に取った。心持ち、その頬が上気している。
「この刃紋、まさか≪村麻紗≫?」
「そういう名前らしいな。」
 ミツバの死後、形見分けとしてもらった刀だ。その時別の鑑定士に見てもらったときに、その名と悲しき輪廻の物語とやらを聞かされた。
「信じられない………本物をこの目で見られるなんて、思わなかった。」
 小さい呟きだったが、槌の音の中でも聞き取れた。鉄子はいぶかしげに見下ろす土方を余所に、その刃を見つめている。
「そんなに大層なものかよ?」
「当たり前だ。持ち主の魂を喰らい、悲劇を繰り返してきた伝説の妖刀だよ。あまりに荒唐無稽すぎて、眉つばものだって思われてたけど。」
「だろうなぁ。」
 魂を食われた者がへたれたオタクになるなんて、誰も信じないだろう。
「とにかく危険なものだから、とあるお寺が浄めて封印したって話だったんだ。」
「寺ぁ? 神社じゃなくてか?」
 祓う、と聞いてまず思い出すのは、神道の術者だ。桂という例が身近にいるからだろうが、それを抜きにしても、神道系呪術は「穢れを祓う」ことに重きを置いていると聞く。
 対して、寺と聞いて思い出すのはミツバの治癒祈祷、そして死者の霊を弔う姿勢だ。祓い清めと聞いてもピンと来ない。
「祓魔は神道が有名だけど、他の呪術にだってあるんだ。日蓮宗派なんかも有名だよ。あそこは、祈祷に木剣を使うから、刀の祓い清めに丁度良かったんじゃないかな。」
 日蓮宗派。
 その言葉に、土方は息を飲んだ。
「こいつを封じたって寺、どこか判らねぇか?」
「そこまでは知らないよ。」
 先ほどより大きいため息が、こぼれ落ちた。いや、確証がないだけで、きっとそうだ。
 その寺は、ミツバの実家だ。
「………こいつに喰われた者が、死んでも成仏できねぇってことはあるのか?」
「魂を喰われたから? そういう話はないけれど。ただ、話がないってことが事実とは限らないから。」
 死んだ者の魂が、ちゃんとあの世に逝けるのか。それを確かめる術はなく。

 けれど、土方は知っている。

「話を戻すけど、こいつをまた振るおうっていうのは無理だ。芯から折れたっていうのもそうだし、これほどの曰く付きの刀に霊的干渉を行うのは危険だ。申し訳ないけど、諦めてほしい。」
「………判った。」
「何なら、持ち主のいない神剣や霊刀がないか、聞いてみるよ。」
 よほど落ち込んだ顔をしてたのだろう、鉄子は不自然なほどに明るい声を上げた。けれどすぐに、その語尾がすぼむ。
「一から鍛え上げるのは、時間がかかるし。それに、名のある刀って大抵持ち主いるけど、使い手がいなくて倉に眠ってるなんてことはたまにあるし。」
「ま、無理はするなや。」
 大きく息を吐き出す。こういうときに、笑ってやれないのが悔しかった。
「異端科学の産物だって、あることはあるんだ。俺は殆ど使ったことねーから馴染みねぇけど。」
 手に馴染まなければ、使いこなすことはできない。最悪、獲物ナシで≪結社≫との決戦に挑むことになるかもしれない。けれど、それで怯む余裕はなかった。
「こいつの供養、任せていいか?」
「わかった、引き受ける。」
 鉄子の手から、もう一度≪村麻紗≫を受け取る。折れて重さが減ったというのに、それは変わらず手に馴染んだ。
 それはきっと、彼女のおかげだと。今更ながら気づかされた。


 雨は、だいぶ弱まっていた。相変わらず暗い空、まだ夕方には早い時間だったが厚い雲に光を遮られた街は、薄闇に飲まれつつある。
 だが、夜のうちには止むだろう。
 傘を広げながら、土方は駅へと急ぐ。一度本部へ戻って報告を受け、指示を出さなくてはいけない。あまりさぼっては、また伊東にねちねちを文句を言われる。
 けれど、もし時間があったら。今日のうちに、もう一度病院へ行きたい。
「面会時間は八時までだったか?」
 過ぎたらアレか、どうしても入れねーかと思案していたところ、派手な電子音が鳴り響いた。
「うぉ、やべっ。」
 着信音はトッシーのせいで例のアニメの主題歌のままだ。サビが鳴り出す前に慌ててケータイを開く。
「おぅ、山崎か、どうした?」
『大変です、副長っ!』
 この監察が慌てているのは珍しくないから、土方は鷹揚に電話に出た。それが一変したのは、報告を受けてからだった。
『沖田さんが、病院から姿をくらましましたっ!!』





                                 ~続く~

by wakame81 | 2008-06-20 22:51 | 小説:ギンタマン  

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