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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

君想ふ唄~5月5日~

土方誕生日。むしろ子供の日スペシャルの疑い有り

この人達いつまでvsやってるんだろう………?






 恒道館の庭先に、大きな鯉のぼりが力なくぶら下がっている。雄々しいんだか情けないんだか判らないその姿を、土方は眉をひそめて見上げた
「………まさか、な。」
 本格的に義兄の座を狙いだした近藤が、自分のお古の鯉のぼりを持って志村邸に赴いたことは知っている。端から見ていた土方の読みだと、それは即座に突っ返されれば良い方で、破り捨てられるか燃やされるか燃えるゴミの日に出されるかが関の山だと思っていたのに。
「いや。あれが近藤さんのとは限らねーしな。」
 志村新八用の鯉のぼりくらい、この家にだってあるだろう。古い鯉のぼりなんて作りは大抵似通ったもので、近くで見るならともかく遠くから見上げるくらいでは細かな違いなど判るはずもない。
 だいたい、志村妙が換金できない近藤からの贈り物を素直に受け取るとは思えない。
 つい先ほども。近藤を捜して訪れた土方に、「さぁ、知らないわねぇ。畜生道にでも落ちたんじゃありません?」と笑顔で告げるような女なのだから。
「………さて、どこ行ったのやらうちの大将は。」
 視線を鯉のぼりから門へと戻した。
 志村妙の手によって地獄なり畜生道なりに叩き落とされたとしても、死体、じゃない身体はどこかにあるはずだ。落ち込んでどこかへ行ったか、それとも志村妙に、ゴミ収集車にでも放り込まれたか。
 ため息をつきながら門をくぐった。苛立ちを吐き出したくて、胸ポケットから煙草を取り出す。指で弾き出した一本をくわえようとして、口からぽとりと落とした。
「………な。」
「ちっ。」
 土方の姿を見た途端、それらは素早く踵を返した。黒く長い髪が、薄青の羽織が、ふわりとひるがえる。誘うかのように。
「………待ちやがれ、桂ぁぁぁっ!!」
 自失は一瞬。
 すぐさま我に返り、走り出す。が、既についた差を簡単に縮めさせるような生やさしい相手ではない。≪逃げの小太郎≫の二つ名は伊達ではない。桂のあのスピードについていけるのは、真選組では≪神速≫を誇る沖田くらいだ。土方には、己の勘と経験で先を読むくらいしか追いつく術はない。桂だけでなくその横を走る白ペンギンにすら差を縮められる気配がないというのはむかつくが。
 いや。
 距離は縮まることはないが、広がる様子もない。いずれ桂は土方を捲くために煙幕なりなんなりを使う。その前に、足を止めてやる。
 走りながら刀を抜く。そして左手の鞘を、思いっきり投げつけた。桂にではない、その隣の白ペンギンへ。
 白ペンギンが振り向き、プラカードを振り上げる。それが降ろされる前に桂の手刀が鞘を叩き落とした。その隙に距離を詰める。
 突き出した白刃を、桂は身をかがめてかわした。目標を失った刀と右腕が突き上げられた手に弾かれバランスを崩した隙に腹部を蹴られ、その反動で距離を取られる。
 痛みに身体を丸めている暇はなかった。無理矢理体勢を尚し、追いすがる。
「エリザベス、下がれ。」
 傍らの白ペンギンにそう告げ、横薙ぎの一閃を後ろに飛んでかわす。手を懐に忍ばせる暇など与えるつもりはない。返す刀を逆袈裟に振り上げる。
 桂はそれも避けた。振り下ろし、翻し、突き上げていく土方の連続攻撃を、すべて。左手に紙で包んだ花束らしきものを持ったまま、空手の右手で土方を牽制しながら。
 それでも少しずつ、土方は桂を道の端へと追い詰めていく。
 逃げれば逃げるほど、その逃げ道は塞がっていく。桂も気づいているはずだ、いずれ煙幕を使おうとするだろう。その前に。
 土方の蹴り飛ばした小石が桂の顔面へと跳ぶ。反射的にそれをはたき落とす、そこに隙を見出す。踏み込んで薙ぎ払われた刃を、桂は受けた。
 刀で、ではない。左手に持っていた花束だ。ざくりという、小気味言い感触とともに刃を受けた花束が桂の手から斬り落とされ、バラバラと地に落ちる。違う、草ではあるが花をつけていない。
 草の青っぽい匂いが、鼻をつく。
 手元に残った部分を土方に叩きつけ、桂は数歩距離を取った。
 逃がさねぇ。
 その意志を込めて睨みつける。いつでも斬り込める状態の土方に、桂も身構える。
 やり合う、わけではない。逃げるタイミングを、見極めようとしているのか。
 その薄い唇が歪められ、小さな舌打ちが響いた。
「この罰当たり者が。」
「はぁ?」
「侍ともあろうものが、菖蒲を斬り捨てるとは。武士の風上にも置けぬ奴め。貴様など、芋侍の呼称ももったいない。芋で充分だ。」
「お、オメーがやらせたんだろっ? 何いちゃもんつけてんだ、てかたかが草じゃねーかっ。」
「たかが草ではない。菖蒲は尚武に通じるとして、男子にとって縁起のよい、気運を高めるものではないか。それを、このように粗末に扱うなど。貴様など、まさかり担いだ金太郎に追いかけられて鯉のぼりに食われてしまえ。」
「どんな呪詛だコラァァっ。」
「………鎧武者人形の方が良かったか?」
「ふふふふふふざけんなオメー、そそそんなもん、たたっ、たたっ斬ってやらぁ。」
 まずい、と思った。
 今のやりとりで、刀への集中が途切れてしまっている。
 もちろん、柄は握りしめ桂に向けたままだし、眼が、耳が、全ての感覚が桂の一挙一動を感知しようと働いている。が。
 いざ桂が動いたときに、自分は追えるのか。追いつけるのか。
 改めて、桂を恐ろしいと思う。
 底知れない。掴み所がない。何を考えているのか全く読めない。
 
 だからこそ、掴みたくなる。

「………仕方あるまい。」
 ため息と共に桂は呟いた。敵であるはずの土方と対峙しているとは思えないほど、息を吐いた桂は自然体で。土方は、再び張り詰めようとした意識が霧散するのを感じ取る。
「人への届け物であったのだがな。これではもう贈れん。貴様にくれてやる。」
 土方の意識の間隙をつくように、桂は動いた。滑るように距離を取る。駆けようとする土方の前で白い手が懐へと入れられ、すぐに抜き出されその手首が翻される。
「待て………っ!」
「バイビー。」
 視界を煙幕が遮る。
 土方は動こうとしなかった。動いてももう無駄だ。距離を詰めることを、桂は今度こそ許さないだろう。
 黙ってその場で立ちつくす。煙幕はすぐに風に吹き飛ばされた。後に残されたのは、道に散らばる緑の草。
「………くれてやる、ってなぁ。」
 一本を拾い上げる。瑞々しい葉は切られてもなお、刃のような葉先まで芯を保っている。
「一体、何の偶然なんだこりゃ。」
 決まってる。こんな日に生まれたからだ。

 だから土方は、この日が嫌いなのだ。





                       ~Fin~

by wakame81 | 2008-05-05 21:10 | 小説:君想ふ唄  

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