人気ブログランキング | 話題のタグを見る

お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

yell:後

頑張れ全国の介護福祉士の卵たち!!←そっちかよ!!
ちなみに今日が試験日なのですよ。






 会場の教室は、すぐ見つかった。
 指定の席に荷物を下ろし、中から受験票と筆記用具を取り出す。腕時計を外して、机の恥に置いた。
 試験開始まで、あと30分。いろいろと道草を食ったが、余裕を持って席に着けてよかった。
 公立だから当たり前だが、教室にエアコンは入らないようだ。桂の席は教室前のストーブからも離れていて、ひんやりと寒気がする。持っていたホッカイロとは別にもう一つを、カバンから出して封を開ける。
 もみもみしているうちにカイロは温まった。
 筆記用具の確認をもう一度してしまうと、やることが無くなってしまった。参考書は置いてきたから、最後の悪あがきもできない。
「………。」
 頭の中で数学の公式を思い出そうとした桂は、ふと後ろから聞こえてきた声に、耳を澄ます。
「『字』は『こへん』、『牢』は『うし』、『案じる』は『きへん』、『塞ぐ』は『つち』♪」 漢字の部首だ。が、唱え方がやけにリズミカルなことが気になって、つい桂は後ろを振り向く。
「「あ。」」
 後ろの席の眼鏡をかけた少年と、眼があった。
「あの………?」
「いや、すまない。」
 眼をそらしながら謝って、前に向き直ろうとする。その前に、少年の声が桂を引き留めた。
「うるさかったですか? ごめんなさい。」
「いや。何かと思っただけで。」
「すみません驚かせちゃって。僕この方が落ち着くし、頭にも入るんです。」
 勉強をジャマされたというのに、にこりと少年は笑った。
「お通ちゃんの大ファンなんで。お通ちゃんの曲に合わせて、替え歌作ったんですよ。」
「お通ちゃん………?」
「あ、やっぱり知らないか。まだインディーズなんだけど、すごく良い歌を歌う人なんですよ! 歌詞とかは最初めちゃくちゃって思うかも知れないけど、聞いてて元気が出てくる歌で。」
 目を輝かせて、少年は語る。
「今やってたのは漢字の部首だけど、動詞の五段活用とか、化学式の替え歌とかもありますよ。歌いましょうか?」
「いや、邪魔をしては申し訳ない。」
「そっか。そうですよね。」
 少し申し訳なさそうに、少年は頷いた。
「すみません。もっと小さな声でやります。」
「いや、気にしなくて良い。こちらこそ、好意で言ってくれたのに、すまない。」
 謝って、桂は前を向いた。
 目を閉じて耳を澄ますと、先ほどよりも声を小さくして、お通ちゃんとやらの替え歌が聞こえてくる。
 自分はどうせ、やることがなかったのだから。
 少年が歌う声を、試験開始まで黙って聞いていた。


 午前中の国語と数学は、なんとか無事に終わり、昼休憩の時間になった。
 後ろの席の少年は、「姉と待ち合わせてるので」と、教室を出て行った。他の受験生達も、予報より暖かくなった日差しに、教室内ではなく外で食べようと出て行く者が多いようだ。
 少しだけ考えて、桂も外へと出た。
 朝より弱まったとはいえ冷たい風が吹きつけてきて、思わず身をすくめる。風の来ない日当たりを探すも、校庭の方までいかないと、日なたはなさそうだ。むろん校庭では、風にさらされる。
 戻ろうか、と、校舎へ向かう。
 午後には苦手な英語がある。確かリスニングもあると聞いた。もちろん、模試では合格圏内の成績を収めたが、それでもコレに関しては不安が残る。
「頑張らないとな………。」
 小さく呟いて、止めていた足を前に踏み出そうとした、その時。
「危ないっ!」
「うわぁっ!?」
 いきなり後ろから引っ張られて、桂はのけぞった。足が大地から離れて、後方へと倒れ込む。
 受け身を取ろうとする前に、大きな腕に抱き留められた。
「あぁ、危ないところでした。」
 低い声が降ってくる。自分を抱き留めた腕がもたれかかる身体を前に押しやってくれて、桂はしっかり立ち上がることができた。
「………えーと。」
「あなたも、怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫だ。」
 自分を助けた(ついでに階段から引き落とそうとした)相手に、礼を言おうとした桂は口ごもった。
 ライオンのような剛毛。血走った眼。裂けた口に、そこから覗く尖った歯並び。左眼の下の傷と、頭の左右からのびた角。ついでに天頂部に一輪の花。
「………この高校の教員か?」
「いや、受験生です。」
 にたっとそのバケモノは眼を細めた。哀れな生け贄をどう料理してやろうか企むような悪魔めいた顔だが、どうやら笑っているらしい。声がかすかに揺れている。
「それにしてもよかった。危ないところでしたよ。」
「は?」
 意味がわからず首をかしげる桂の側に、バケモノは並んでしゃがみ込んだ。
「生き物は大切にしないとね。」
 見れば、ちょうど桂が足を乗せようとしたところに、オオバコが植わっている。
「本当に、よかった。」
「………オオバコは、踏みつけに強い草なのだが。」
「そうですけどね。」
 バケモノは、そっと包み込むように、オオバコに触れる。まるで、いとおしんでいるように。
「それでも、痛いものは痛いじゃないですか。」
「そうだろうか。」
 桂は首をかしげる。
 踏みつけに強いだけじゃない。他の草は踏みつけに耐えられないからこそ、オオバコは育つことができる。逆に言うと、踏みつけが弱いと生存競争に負けてしまう。
「そうですよ。人の心と同じです。そこでしか生きられなくても、やっぱり痛いものは痛いと思いますよ。」
 バケモノは立ち上がって桂にふりかえった。持ち上げられた口端と細められた眼は、変わらず人の破滅をほくそ笑む悪魔の笑みにしか見えなかかったが。
「あなたも、受験生ですよね?」
「あぁ。」
「僕もです。お互い頑張りましょうね。」
 そう言う彼の顔は、どことなく穏やかな雰囲気を漂わせていた。………いややっぱムリだって、怖いって。


 結局、教室で昼食を取った桂は、箸を置いてため息をついた。
 不思議な学校だ、と思う。
 競争率は1を割ってはいない。全員が受かることはない、誰かが必ず落ちるのに。
 ここで会った誰もが、「頑張ろう」と桂にエールを送ってくる。あの薄茶の髪の少年が言ったとおり、桂が頑張れば、誰かの合格枠が減るというのに。
 午後の試験開始まで、まだ時間がある。今のうちに厠に………と、桂は席を立った。
 この階のトイレが混んでいたため、上の階に行こうと階段を上る。と、その途中で上から消しゴムとシャーペンがばらばらと降ってきた。
「?」
「アァモウ、厄介ダナ。コラソコノオ前、見テナイデ拾エッテンダ気ノキカナイ奴ダネ。」
 見上げると、今度は片言の日本語が降ってきた。声の主は、たらこ唇で猫耳をはやした女子である。
「オ前ダヨソコノロンゲ、早クシヤガレコノヤロー。」
「………………。」
 何か、随分な言われようだったが、断る理由もないので落とし物を拾って彼女に届ける。
「遅インダヨ、カ弱イ美少女ガ困ッテルッテノニレディファーストノ精神ノナイ日本人ハコレダカラ困ルネ。」
「………どうも。」
 片言といい、外見と言い、彼女も朝の少女やさっき会ったバケモノのように、留学生枠なのだろう。そう思うと、怒る気力も無くなってくる。面倒だし。
「………いや。」
 そこで桂は軽く頭を振って、猫耳の女子に向き直った。
「何デスカ?」
「お前も、受験生か。」
「ソレガドウカシマシタカー?」
「お互い、頑張ろう。」

 朝から送られ続けたエールは、少なからず桂の心を穏やかにしてくれた。
 ならば、今度はそれを、誰かに渡したい。


「キモッ。何ソレ新タナナンパデスカ?」
「………いや、何でもない。」






                         ~Fin~

by wakame81 | 2008-01-27 08:03 | 小説:3Z  

<< yell:前 わかりやすすぎ。 >>