新年一発目でございます。
桂花美人様に「元旦」お題で投稿しようと思ったら、沖桂どころか誰ともかぷ要素がない、桂さん単品の話になってしまったのでこっちにあっぷします(爆)。
お題用、ネタを錬り出し直さなきゃ………(爆)
攘夷の暁、と人は言う。
濃藍の空の下、桂はひらりひらりと連なる屋根の上を飛んでいく。
眠りを知らない街。特に今宵は、新しい朝を迎える特別な夜。いつもより煌々と光を放っていた街は、それでもやってくるその気配に、少しずつ息を潜めようとしている。
華やかなネオンが一つ二つと消えていく。
半月よりもさらに欠けた月の光はか細く、瞬いていた星も煌めきを失っている。南東の空高く、なお存在を主張するアレは、明けの明星か。
世界は未だ、薄暗い。それでも彼は、足を踏み外したりはせず、軽やかに翔けていく。
幼い頃から月とたとえられることの多かった自分を、いつ、誰が昇る陽の形容を与えたのか、桂は覚えていない。最初はこそばゆかったそれも、今は慣れた。
自分一人を暁と、指針とするなら、自分がいなくなった後はどうなるのか。それは未だ、不安の残るところなのだが。
空は少しずつ、色を失っていく。
藍から群青、そして青へ。一度訪れ始めた変化は急で、あっという間に露草を経て空は本来の色を取り戻す。
その端に。
桂の視線の先に、瓶覗色から白への経過を経て、金色に光り輝く帯がある。糸のようなその光の帯は、見る見るうちに太くなっていき、家屋やビルを染めていく。
そして金の光は、朱を帯びていく。
邪魔するモノの何もない、高い高いところで、桂はそれを見つめる。
彼らもこれを、見ているだろうか。ふと、先ほど見たものを思い出した。
よく知っている親子連れが、これまたよく知っている狗と一緒にいた。
薄紅の少女が木欄色の髪の狗と何かを言い合い、それを水浅葱の衣の少年がなだめる。その少年に、巌のような狗の長が話しかけ、すげなく無視される。
眠いところを連れ出されたのだろう銀のマダオは、漆黒の狗と会話をやりとりし、彼を一方的に怒らせていた。
平和なモノだ、と桂は思う。
初詣に来たのだろう親子連れも。
警らなんだかさぼりなんだか判らない狗達も。
穏やかな水面のような世界。けれど、水底では何かが蠢き始めている。
その流れが面にまで浮かび上がるのか。その流れはどこへ向かうのか。今はまだ、桂にも判らない。流れを起こしたあの男にすら(世界はそんな単純なモノじゃない)。
朱金の光を投げかけながら、新しい朝の陽が昇る。
特別な日のこの光は、けれどヒトが勝手に区切ったモノでしかなく。365日前にも同じ特別な陽は昇ったし、365日後にもまた昇るのだろう。自分がそれを見るかはともかく。
(それでも。)
いつか夜明けへと、時代を導く。
桂は誓う。
新しい朝に。
親しい者の、そして子供らの笑顔に。
~Fin~