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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

君想ふ唄~11月3日~

間に合うか!! 神楽誕生日ネタ。
てか、シュミに走りすぎ(爆)






「おらよ。」
 そう言って銀時は、さながら猫のように首ねっこを掴まれた神楽を、桂に向かってつき出した。
「銀時。一体何の真似だ?」
「今日一日おめーにやるから。」
 ぽいっと神楽を放る。素早く桂は腕を伸ばし、神楽の体を受け止めた。
「銀時。リーダーを放り投げるとは何事だ。怪我でもしたらどうする。」
「あー? 怪我なんかするわけないだろ。こんなちょっとの高さだぞ?」
「着地ポイントにバナナの皮でもあったらどうする。いくらリーダーと言えど、足を捻ったら捻挫してしまうぞ。」
「今俺の足元のどこにバナナがあるってんだ。」
「リーダーが着地するときに湧いて出るやもしれんだろう。」
「んなわけあるかぁぁぁっ!」
 ぱこーんといい音がして、桂の頭がはたかれた。
「甘く見るんじゃないネ。たとえバナナの皮が絨毯になってても、私はそれくらいでこけるような軟弱な女じゃないアル。」
 桂の腕の中から滑り降りながら、神楽は言った。
「しかしリーダー。」
「いいからヅラは、今日一日おとなしく私の面倒見るヨロシ。」
「そうそう。よろしく頼むぜヅラ。」
「ヅラじゃない桂だ。面倒を見ろとは、育児放棄か貴様?」
「うっせーな。」
 そう言うなり、銀時は桂にヘッドロックをかけ、耳元で何かをささやく。 首を絞められ白眼を剥きかけた桂は、「わかった、離せ」と銀時を振りほどいた。
「そういう事なら喜んで引き受けるが、しかし何故俺だ? 貴様自身でも構わんだろう。」
「こいつの胃袋満足させるだけの財布がねーんだよ。」
 話が済むのを待っている神楽をちらりと見ながら、銀時は呟く。
「まったく甲斐性のない父親だ。なぁリーダー。」
「本当アル。私じゃなかったら今頃グレてるアルよ。」
「その前に一升の米を毎食食いつぶすおめーの胃袋を何とかしろっ!」


「………桂さん、その姿は?」
 そんな訳で、エリザベスと神楽を連れて会合に現れた桂を見て、仲間たちは皆不思議そうな顔をした。
「桂じゃない、ヅラスチャンだ。」
「はぁ………。」
 ちなみにその姿とは、必要最低限の装飾すらない、黒のタキシードである。
「一体どうしたんですか?」
「この子は坂田さんのとこの子ですよね?」
「そうだ。今日一日預かったのだ。なんでもぎゅ。」
 「秘密だ」と銀時に口止された理由をうっかり言いそうになった桂の口を、エリザベスが塞ぐ。そして、神楽に見えないように、プラカードを掲げた。
「成程、そういう事でしたか。」
「なら仕方ありませんね。」
「お嬢ちゃん、こっちへおいで。」
 事を理解した攘夷志士達は、頷いて神楽に手招きをする。
「お嬢ちゃんじゃないネ。かぶき町の女王神楽様と呼ぶヨロシ。」
「それで、俺は執事だ。」
 それでそのタキシードか。志士達は納得する。
 シンプルな形の襟。飾りも何もない靴。胸ポケットから覗くハンカチーフも、袖を飾るカフスボタンもない。ひたすら地味な装いだったが、タキシードと同じ黒いつややかな髪を持つ桂が着ると、その顔立ちと相まってストイックな気品を感じさせる。
「しかしさすがは、我らが桂さんだ。」
「そうですね。自分は桂さんの変装を初めて見ましたが、とても似合っています!」
 神楽を座敷内へと招き入れたのとは別の志士たちが、感心したような声を上げた。桂も、頷いて答える。
「当然だ。それと、桂じゃないヅラスチャンだ。」
「………すみません、桂さん。その、ヅラスチャンとは………。」
「古今東西、執事の名は『セバスチャン』と決まっておろう。」
「成る程!!」
「さすが我らの桂さん、学がおありだ!」
 ボケの集団恐るべし。江戸一番のツッコミ使いも、さばききれるか否か。
 そんな風に始まった会合が、まともに進むわけがない。
 元から、芸能スキャンダルや今流行りのドラマなどに話が脱線する会合だ、それに、≪渡る世間は鬼しかいねーこんちくしょーシリーズを語らせれば江戸一≫の称号を持つ神楽が加わってしまっては、もはや路線などどこにも見あたらない。
「アレですね、来年の春からまた新しいシリーズが始まりますが。」
「自分など、登場人物が多すぎで、誰が誰の家族かぱっと見では判りませんよ。」
「フッ。そんなことじゃ、まだまだ≪渡鬼≫は語れないネ。紙持ってくるヨロシ、この神楽様が直々に説明してやるアル。」
 一辺1メートルはありそうな模造紙が持ってこられ、そこに神楽はペンで家系図を描いていく。
 岡倉の家と五人の娘たちの嫁ぎ先、さらにその孫の家庭。中には離婚と再婚をしている娘もいるから、家系図はもはやカオスである。
「おや、リーダー。前に俺に教えてくれたときに描いてくれた似顔絵は描かぬのか?」
「かぶき町の女王神楽様と呼ぶヨロシ。あれからまた人増えたアル、ちゃんと描いてやるから安心するアル。」
「了解した、かぶき町の女王神楽様。」
 これが誰々の娘で、こいつと結婚しててーと、さらに細かい家系図を描いていた神楽の手が、止まった。同時に桂が立ち上がる。
 と。
「かーーーーつらぁぁぁっ。」
 怒号と共に、砲弾が撃ち込まれた。座敷は一面、煙幕だらけになる。
「真選組だ!!」
「皆、引くぞ!!」
 桂の合図で、皆がいつもと同じようにわっと部屋から飛び出した。桂も窓から出ようとして、ふと足を止める。
「ヅラ?」
「しまった。リーダーを巻き込んでしまう。」
 真選組の狙いは、何よりも桂だ。だから、いつもは自らを囮にして、仲間達が逃げる隙を作る。
 けれど今日は、それができない。
 神楽まで、追いかけっこに巻き込むわけにはいかない。
 しかし、自分まで姿をくらましてしまっては、真選組は手がかりを攘夷の仲間達に求めようと、仲間を追ってしまうだろう。
『行ってください、桂さん。』
 ためらう桂の前に、エリザベスがプラカードを差し出す。いつぞやのように、黒く美しい髪の鬘をつけ、紺の着流しという姿で。
「エリー?」
「まさかエリザベス、囮になるつもりかっ?」
『大丈夫です。いつも、一緒に逃げてますから、巻き方は心得てます。』
「駄目だっ。」
 桂が声を上げた。
 追われる桂と共に逃げるのと、自らが囮になるのとは意味が違う。桂捕縛を優先するがために、供にいるエリザベスは見逃してもらっているのだ。それを、自らが狙われては、危険は倍どころではない、二乗三乗だ。
「大丈夫です、桂さん。」
 答えた声は、プラカードではなかった。
 逃げたはずの仲間達が、皆一様に同じ格好をして、座敷に戻ってきている。
「お前達………。」
「エリザベスさんは、我々が援護します。」
「これだけ桂さんのダミーがいれば、奴等も区別がつきますまい。」
「だがっ、それではお前達に危険がっ!」
「いつも、その危険を桂さん一人に押しつけているんです、我々は。」
 桂の仲間達は、爽やかな顔で笑った。
「こういうときぐらい、我々に任せてください。」
「今日は、その子の特別な日なんでしょう?」
「………お前達。」
 返す言葉を失う桂と、見守っていた神楽に笑いかけ、志士たちはエリザベスを先頭に、窓から飛び出していく。
「うわっ、何だコイツらっ!」
「「「「「コイツらじゃない、桂さんだぁぁぁっ!」」」」」
 表通りで剣戟と爆発音が響く。
 立ちつくしていた桂の手を、神楽はつん、と引っ張った。
「ヅラぁ。」
「………そうだな、まずはリーダーの安全を考えねば。」
 静かにそう言って振り向いた桂を、神楽は思いっきり殴り飛ばす。
「ぐへっ………リーダー、何を?」
「リーダーじゃなくて、かぶき町の女王神楽様と呼べアル。それと、私を理由にするんじゃねーヨ。」
 外れた襖二枚を押しのけながら自分を見上げる桂に、ふんぞり返ってそう告げる。
「部下の身を守ってやるのが、リーダーってものアル。」
「そうだ。だが、」
「部下の大事なモノも守ってやるのが、リーダーってモノネ。私は、誰のリーダーアルか?」
 桂は、息を飲んだ。
「リーダーとして命令するネ、お前の好きにするヨロシ。」
「………ルージャ!」
 そう叫び、窓から飛び出していく桂を見送って、神楽は呟いた。
「………まったく、世話がやける部下ネ。」


 本命の登場に、真選組は浮き足だった。
 動揺したのは攘夷志士たちも同じだったが、エリザベスが事情を察し、素早く指示を出したために、皆無事に脱出し。
 屋根の上に舞台を移した追いかけっこも、まず沖田以外の隊員が脱落し、その沖田も神楽の乱入で子供のケンカに移行し、そこをんまい棒で煙幕を張ったヅラスチャンがかぶき町の女王様を姫だっこでさらって逃げるという顛末に終わった。
「そろそろ、戻らねばならぬな。」
 それでも追跡を諦めなかった真選組のおかげで、逃避行だけで一日が終わろうとしていた。
「銀時から、夕方5時には戻ってこいと言われている。今から帰れば、丁度よい。」
「そうアルねー。」
 少し、口を尖らせて、神楽は答える。
「リーダー?」
「かぶき町の女王神楽様と呼ぶヨロシ。ヅラ、ちゃんと万事屋銀ちゃんまでエスコートするアルよ。」
「ルージャ。」
 差し出された桂の手を握る。
 鬼ごっこもかくれんぼも楽しかったけれど、本当は、もっとやりたいことがあった。
 遊園地に、行ってみたかった。
 絶叫マシンに三十回は乗ってみたかった。アイスも七段重ねしたかった。ポップコーンだって店ごと食べたかったし、自分用のおみやげのクッキーもダース×ダースで欲しかった。
 今日だったら。
 そして桂だったら、それを許してくれると期待してたのに。
「腹が減ったか、リーダー?」
「かぶき町の女王神楽様、アル。」
「お腹がお空きになりましたか、かぶき町の女王神楽様?」
「ウム。」
 大仰に頷く。
「戻るまでの辛抱だ。戻ればごちそうが待っているぞ。」
 それは、判ってた。
 サプライズ、なんて。
 自分の誕生日に、自分を家から追い出して桂に預けて何が起こるかなんて、想像つかないほど自分も子供じゃない。
 戻ったら、ごちそうが待っていて。
 銀時も新八も、お登瀬もキャサリンもお妙もたまも待っていて。エリザベスも、合流しているかもしれないし、長谷川や九兵衛が呼ばれているかもしれない。
 戻ったら。
 桂だけが、自分の我が侭を聞いてくれる時間が、終わる。
「ヅラぁ。」
「ヅラじゃない、ヅラスチャンだ。」
「リーダー命令ネ。」
 言って、手を軽く引っ張った。足を止めた桂は、振り向いてしゃがみこむ。
「どうした、リーダー………じゃない、かぶき町の女王神楽様?」
「リーダー命令ネ。ヅラスチャンじゃなくなっても、神楽って呼ぶヨロシ。」
 時間が止まったように、桂は動かなくなった。
 閉じた口も、しゃがみ込んだ身体も、まぶたすら身じろぐことをしない。
「………ヅラが、呼べるときでいいから。」

 だから。
 この我が侭を、許して?

「………ルージャ。」

 少しだけ、眼を伏せて。
「かぶき町の女王、神楽様。」
 そして、眼を細めて、桂は応えた。





                        ~Fin~

 

by wakame81 | 2007-11-04 00:00 | 小説:君想ふ唄  

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