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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

君想ふ唄~7月8日~

2ヶ月遅れで沖田誕生日。
無理矢理も良いところなのを承知で、ねじ込みます。






 爆音。
「あっちだーーーっ。」
「向こうから回り込めぇぇぇっ。」
「こっちです、沖田隊長!」
 怒号、走り回る音。付近の住民や通行人が、わたわたと逃げていく。一方で、通りに並ぶ建物の二階から、窓を開けて見物に興じる町人の姿も見える。
 火事と祭りは江戸の花。
 血生臭い剣劇が起こるわけでもない、奴相手の捕り物は、安全な場所さえ確保してしまえば、町人にとってもいい退屈しのぎらしかった。
 その喧噪の中を、隊士に案内されて沖田が登場する。
 真撰組一の破壊魔の出陣に、周りは興奮と恐怖に浮き足立った。
「今どっちでぇ。」
「はい、この通りを花園方面に逃走中です。」
「花園方面は、すでに三番隊が向かっています。」
 パトカーに乗っていた隊士から、追加情報が入る。無線だ。ということは、三番隊の動きは獲物にも伝わっていると見ていい。
 また、爆音。少し離れたところで、もうもうと黒い煙が上がる。
 花園方面からは、少し南にずれている。
「あっちだっ。」
 隊士達が追おうとしたとき、再び煙が上がった。さっきよりずっと、北の位置。
「いつの間にっ?」
 走って移動するには、少し遠い。片方が囮か、いや両方か。
 部下に指図して、無線で三番隊の動きを傍受する。その間にも、あちこちで煙があがる。
「こりゃぁ、三番隊はまかれるなぁ。」
「隊長っ。ご指示をっ。」
 ヒューッと口笛吹いて呟けば、焦った顔の隊士からせかすようにそう言われた。
「おーっし。このまま待機。」
「はいっ………はい?」
「一応他の隊の動きは無線で傍受しとけ。ただし、こっちから発信する必要はねぇ。奴を肉眼で確認したら、ぶっ放せ。それ以外は動くんじゃねぇ。」
 騒げば騒ぐほど、情報を引っかき回して己の身をくらまさせる。大勢で連携して事に当たれば当たるほど、奴はその隙間をつく。
 そう判断しての沖田の指示だったが、投げやりとも取れそうな態度に、部下達はうろたえる。
「俺ぁちょっくらぶらついてくらぁ。」
 一人で出る。
 その意志を、部下達も悟る。
「隊長、これを。」
 一人が、沖田愛用のバズーカを捧げるように持ってきた。手を伸ばそうとして。
「いや、今日はいらねぇ。」
 何となく、そんな気分だと、伸ばしかけた手をひらひらと振った。


 ≪逃げの小太郎≫の名は、伊達じゃない。
 でも、そいつを長年追いかけてたこっちだって、無駄に年月費やしてきた訳じゃなかった。
 こっちかなー、と当たりをつけて、裏道を走る。といっても、桂の逃走ルートの予測パターンは今このときだけでも何通りもあって、沖田は一人しかいないから当たる確率は決して100%じゃない。
 とはいえ、部下達を分散させても、連絡を取り合えばそこを逆手に取られて、取り逃がす確率が上がるだけだ。
 桂を追うのに、沖田が一番信用しているモノ。それは、長年追いかけ続けた己の花に他ならない。
「後は運任せ………って、今日はやっぱ、ついてまさぁ。」
 きっと、日頃の行いが良いせいでさぁ。
 鬼の副長や監察方の誰かあたりが聞けば、即座につっこまれるだろうことを呟きながら、沖田は塀をよじ登って屋根の上に躍り出た。
「かーつらぁぁぁぁっ!」
「むっ。」
 駆け寄りながら、刀を抜く。
 勢いに任せた一閃は、けれど真正面から受け流された。しかも、鞘付きの刀に。
 舌打ち二つ。
 いきなり斬りかかってきた相手を見極めて、桂は憮然とした顔で身構えた。
 ただし。こちらを斬る構えじゃない。いつでも逃げられる構えで。
「なんでぇ。せっかく会えたのに、また逃げる気かぃ?」
「当たり前だ。貴様こそ、今日は何のつもりだ。」
 空気が張り詰めていく。
 バズーカ砲やレーザー砲ではなく真剣で向かってきた沖田の本気を、桂も感じ取っている。
「今日は俺の誕生日なんでさぁ。」
「そうか良かったなそれはおめでとう屯所に帰って皆に祝ってもらうが良いではさらばだ。」
「なに勝手に帰ろうとしてんでさぁ?」
 逃がすまいとする沖田の威嚇がなければ、そのままきびすを返して去っていきそうだった。この期に及んで、と思うと、刀を握る手に力がこもる。
「アンタに用があって、追いかけてきたのに。そいつは酷いってもんじゃねぇですかぃ?」
「用事?」
 桂の眉がひそめられる。
「今日が誕生日などという冗談につきあう暇は、俺にはないのだが。」
「ひでぇなぁ。冗談じゃねぇでさ。」
「なら本当に、とっとと帰れ。己の誕生日にすら仕事をしているとは、貴様マゾか。」
「………マゾ呼ばわりされんのは、初めてだなぁ。」
 自他のみならず公式に≪サディスティック星のS王子≫として認められている沖田に、桂の言葉は新鮮だった。おもしろすぎで大笑いしたかったが、その隙に目の前の男は逃げるだろう。
 逃げるチャンスを、全身の神経を研ぎ澄まして探っているだろう桂に、沖田はニヤっと笑った。
「そんなわけで、誕生日プレゼントくだせぇ。」
「用意しているわけがないだろう、初耳なんだからな。欲しければ事前に連絡をよこせ。今の俺にはんまい棒しか持ち合わせがない。それでもよければ、やれるが。」
「んまい棒と称して、なにが出てくるかわからねーもんはいらないでさ。」
 少しだけ、にじりよる。
 桂が後ずさりをするかしないか、微妙な、ほんの数センチだけ。
「なら、諦めろ。後日で良ければ、蕎麦でも持ってきてやろう。」
「そいつもいらねぇや。てーか、俺は今すぐ欲しいんでぇ。」
 わずかに、身をかがませる。
「てことで、本気で死合ってくだせぇっ。」
 空気が弾けた。
 沖田の一撃に、桂は素早く対応した。鞘に収まったままの刀で受け流す。半身になって距離を取ろうとする桂に、けれど沖田は追いすがった。
 踏み込みながら刀を切り上げる。それも桂は受け止めた。鍔迫り合いに持ち込まれれば勝ち目は薄い。ふっと力を抜いて刃を戻し、鋭く突き出す。
 本気なら、近藤や土方からも一本を取れる一撃だった。それを桂はかわした。ひるがえる羽織が切り裂かれる。
 ここで桂が抜けば、今度は沖田が斬られるかもしれなかった。だが桂はそうせずに、後ろに飛んで距離を取る。
 ある程度予想はしていたとはいえ、さすがに沖田の反応が遅れた。一瞬の間に、桂は道を挟んだ向かいの屋根に飛び移った。
「待ちやがれぇっ。」
「待つ義理などない。」
 叫んで、沖田も飛び移る。そこへ、黒くて丸い物体が投げつけられた。爆弾だと思う前に、刀の峰で払いのける。
 後方で、爆発が起こった。爆風に押されて沖田は、桂よりも前方に転がり出る。
 斬り合いから一転して、屋根の上での鬼ごっこになった。距離を詰めようとするが、桂もそう簡単には間合いに入らせない。
「たまには本気でやりあってくれてもいいんじゃねぇかぃっ? せっかくの、誕生日なんだからなぁっ。」
「冗談ではない、そんなことができるかっ。」
「なんでぃケーチケーチ。」
「貴様こそ、誕生日に命の遣り取りなぞ、正気かっ?」
 まるできち(ぴー)な言い方をされて、沖田はむっとした。
「誕生日くらいのイベントでねぇと、アンタ相手してくれねぇじゃねぇかっ。」
 普段は、追っても逃げるばかり。本気で死合えと、何度も叫んだ。それでも無視して逃げるから、最近はバズーカ砲で足を止める作戦に出てみた。
 桂の逃げ足は、それでも止められず。
「主役のささやかでかわいい我が侭だと思って、つきあってくだせぇっ。」
「誕生日とはいえ、必ず欲しいものが手に入るとは限らぬぞっ。そうやって何でも与えられてばかりいるから、我慢のきかぬ我が侭な大人に育つのだ。そうならぬ為に、今日は貴様の我が侭など聞いてはやらぬ。感謝するが良いっ。」
「何でもダメダメ言ってると、欲しいものも主張できないひがんだガキができあがりやすぜ、てことで本気で来やがれっ。」
 二人はやがて、大通りの方へと近づいていった。
 飛び越えるには不可能な長い道幅、そして下の通りからは、御用だ御用だと叫ぶ、真撰組の声。
 飛び降りたらそこで、ふんじばることができる。
 死合いたい沖田には、あんまり歓迎したくない展開だが。桂にしたって、そうに違いないはず。
「さーって。そろそろ本気になってもらおうかい。」
 屋根の端で足を止めた桂に、ゆっくりと歩み寄る。抜き身の刀を、正面に構えた。
 桂が、振り返る。
 肩で息をするその顔は、酷くゆがんでいた。
 追い詰められた焦りでもない。散々追いかけ回されての疲れでもない。もちろん、いつもの仏頂面や嫌そうな顔や、逃げ切ったときの勝ち誇った顔とも違う。
「………なんでぃ。」
 踏み込むタイミングを計る。抜かなきゃ、今度こそ鞘ごと斬りすてる。そんな意志を、全身から迸らせる。
「抜かなきゃ、死ぬぜぃ。」
「俺は………っ。」
 柄に手を置き、それでも抜く様子を見せず、桂は叫んだ。
 まるで泣きそうなその顔。初めて見る表情に、沖田は一瞬ひるむ。
 いや、初めてではない。

『子供を斬れるとでも思っているのかっ?』

 初めて出会ったときの。
 真撰組が結成されたばかりの、もう何年も前の。
 初めて目の前の男に、刃を向けたときの。

 まだ無名の少年剣士だった自分は、あれからたくさんの武功をあげた。
 泣く子も黙る真撰組の、最強の使い手として、最大の破壊魔として、悪名も広まった。
 自分の腕も、あの頃からさらに磨かれた。≪狂乱の貴公子≫や≪白夜叉≫にすら、後れを取るつもりはない。
 なのに。

 目の前の男にとって、沖田は今でも、子供でしかないのか。

「まだガキかどうか、テメェで確かめやがれぃっ。」
 斬りかかる。その一撃に総ての力をかけて、沖田は刀を横薙ぎに払う。
 その剣は、空を斬り。
「っ!」
 突撃の勢いを殺せなかった沖田の目の前に広がるのは、道路と、集まってきていた隊士達。
 落ちる。
 すんでの所で体を回転させて、頭から真っ逆さまではなかったが、受け身を取った背中をしたたかに打ち付ける。
「隊長っ!」
「沖田隊長っ。」
「大丈夫ですか隊長っ!?」
 部下達が群がってくる。一方で、斉藤終に指揮された三番隊が、かけられたはしごをよじ登って行くのが、視界の端に見えた。
(桂は。)
 屋根の上を見る。
 一瞬、ひるがえる黒い髪を見た気がしたが、瞬きの間に、その姿は消え失せていた。


 頭を打ってないとはいえ、コンクリートの地面に墜落したことで、沖田は近藤から養生を言い渡された。
 別に、そこまで安静にしなくてもとは思ったが、近藤の命ならしかたがない。副長抹殺プロジェクトその154回を練り直しながらふとんの上でごろごろしていた沖田の所に、それが届けられたのは午後3時を回った頃だった。
「なんでぃ? こりゃ。」
 差出人不明の小包。宛名の所には、丁寧な楷書で「沖田総吾様」とある。ちなみに、筆書きで。
 どっかで見た字だなーと思いながら、振ってみた。中でがたがた音はする。時計の針のような音はしない。
 とりあえず、山崎を呼びつけて、自分は10メートル離れて開けさせた。爆発はしなかった。
 そして中から出てきたのは。
「………なんでぃ、こりゃ?」
「………なんでしょうね?」
 白を基調としたボディに、青の両腕と赤い胸部。額には、金のヘッドパーツ。どこかで見たような、けれど絶妙な偽物感とかっこ悪さを兼ね備えた、それこそプレゼントにもらった子供が「欲しかったのはこれじゃなーい!」と泣き出しそうな、そのロボットらしきもの(ちなみに木製)。
「いったい誰が、送ってきたんでしょうね?」
 いぶかしげに呟く山崎。包みの中にも、メッセージも手紙も入っていなかった。
「………結局、まだガキだって言いたい訳かぃ。」
「はい?」
 気づいていない山崎を無視して、くくっと笑う。
 子供扱いはむかつく。けれどそれは、屋根の上で対峙したときのような、脳に焼き付くような感覚ではなかった。

 いつか。
 認めさせてやる。

 誕生日を迎えて、ただ書類上の年齢が一つ上がっただけではないことを、必ず思い知らせてやる。


 会議から戻ってきた土方あらためトッシーと、レアリティの高いらしい木製手作りのそのおもちゃの取り合いが勃発したのは、それから数時間後の話。




                         ~Fin~

by wakame81 | 2007-09-11 13:14 | 小説:君想ふ唄  

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