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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

ある晴れた日のように:1

長かったーーーーーーーーーー!!

やっと、やっと書き上がりました。3Z一年前、11月の部です。
文字数的に5つに分かれます。今日から一日一回更新として、火曜までかかります。月曜のジャンプにもし万が一桂さんが本編に出るようなことがあったら、途中でぶちぎり感想あげるかも(爆)。

前回までのあらすじ。
体育祭で、事故がありました。詳しくは、10月の話(前編中編後編)をチェックだ!!








 いわゆる「薬の匂い」というやつは、受付ではまだ気になるほどではない。さすがに口を閉じて鼻から大きく息を吸い込めば、ツンとした空気が奥をつくのだけれど。まだ、出来て間もないからだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考える桂の耳端を、ポン、と電子音がかすめていった。誰々さん、薬局までお越し下さい。そんなアナウンスを遠く聞く。
 休日、だからこそだろうかフロアは人が多い。さっきから、何人もが目の前を通り過ぎていく。その多くは手にきれいな色の紙袋を下げたり、中には花束を持つものもいた。
「お約束だよなぁ」
 隣からそんな声が聞こえた。小さく眼を瞬かせてから、桂は応える。
「眠っていたんじゃなかったのか、沖田」
「まさかぁ。ここ座ってから五分と経っちゃぁいねーぜぃ。んな短時間で眠れるのはのび太くんと日暮さんだけでさぁ」
 その割りには、彼の目はふざけた顔のアイマスクで覆われている。それを指摘せずに、桂はゆっくりと息を吐いた。かわりに入ってくるのは、エアコンで温められたぬるい酸素だ。乾いた空気は口の中に張り付いて仕方ない。
 手の中のペットボトルに目を落とす。出発時に買わされたそれはまだ封を開けてはおらず、ここは飲食禁止だったっけとまたぼんやり考える。結局白いキャップに手をやることはなく、桂はまた小さく息を吐いた。


 たった一晩だというのに、体育祭で起こった事故の記憶は桂にとって曖昧なものになっていた。正しくは、「気がついたら自分と神楽が地面に落っこちていた」もっと正確には「神楽を下敷きにする形で落っこちていた」である。それでも、おぼろげなりに騒ぐ周囲の記憶はある。押し潰された神楽の、垣間見えた顔も。
 救急車を呼び、体育祭中止にまでなった事故だった。骨折という結果は痛ましいととればいいのか、頭も打ったのにそっちは何事もなかったと喜べばいいのか、話を聞かされた今も判らない。判るのは、そのまま入院が必要になった程度には深刻ということだけだ。
 とにかく、見舞いを。事故の原因であり事故によって悪化した桂の右足のねんざもある。早速翌日に、銀八の車で病院にやってきた桂だったが、いきなり坂本の乗り物酔いで出足はくじかれた。
 結局吐いても坂本の体調は良くならず、「エレベーターはいかんちや~乗ったら吐く~」と言い出す始末なので、四人はとぼとぼと階段を登ることになった。ちなみに目指すのは四階である。
「ついでに、四号室とかじゃありやせんかねぇ」
 上から、そんな言葉が降ってくる。他三人が(坂本すら!)言葉少なで登っているというのに、沖田の戯れ言は珍しく途切れそうにない。
「なんか、成仏できないヤツとかが溜まってそうじゃありやせん?」
「おおおお沖田君何を言ってるのかな? そもそも病院には四号室はないんだよ残念でしたー」
「そこはそれ、この油性マジックで書き直しゃぁ」
「なんでそんなの持ってきてるのかな?」
「ま、わざわざ書き直さなくても、地縛霊のたまり場をちょっと変えるなんて難しくはねーんだけど」
「いやいやいや、怒っちゃったらどうするのー? 先生知らないよー?」
 銀八の返しもどことなく切れが悪い。疲れか別の要因か、がくがくと震える膝を見上げる。足を止めれば、膝はふくらはぎから足首、靴の裏に変わり、桂の視界から去っていった。
「なんちゃーがやないか、ヅラぁ?」
 いつもは底抜けて明るい声も、今は潜められている。それが硬質な床と壁に反射して、おかしな残響を残す。
「大丈夫です」
 踏み下ろすたびに鈍い痛みが足に走る。小さく息を吐いてその痛みを逃がして、桂は顔を横へと向けた。
「別に、わしらに付き合わのうても、ヅラばあエレベーター使っても良かったがだぞ?」
「平気です。それと、ヅラじゃなくて桂です」
 顔を、真上へと向ける。上向きの三角と一緒に「3」の数字を見たのは今し方だ。その上、四階の病室に彼女はいる。
 骨折し、頭部も強く打ったという彼女の痛みは、きっとこんなものではない。
「……平気です」
 罰代わり、だと思え。そうすれば、後ろめたさは少しだけ薄れる。
 合わす顔などない、という申し訳なさの皮をかぶった甘えに逃げようとする己を、痛む足にわざと力を入れて奮い立たせる。
「顔、真っ青じゃぞ、ヅラ?」
「平気だし、ヅラじゃありません桂ですバカ本先生っ!」
「あっはっは~ヅラくんに暴言吐かれてしもうた~泣いていい? ねぇ泣いていい?」
「知りません」
「なーに騒いでんですかぃ」
 声は、真上から降ってきた。格子ではなく壁状になった手すりのため、沖田の顔はここからは見えない。
「早くしねーと置いてくぜぃ」
「あ、総一郎くん聞いてくれ。ヅラが、あのかわいかったヅラがわしに暴言を! いや今でもかわえいがだば!」「今いく」
 余計な言葉を殴って黙らせ、一歩足を踏み出す。
(そういえば)
 なんで、沖田はここに来たのだろう。
 問いかける前に足音は登っていく。もう一度響いた、「置いてくぜぃ」との言葉に眼を瞬かせて、桂も階段を登り始めた。


「このすっとこがぁぁぁぁっ!! がふっ」
「すっとこはパピーのほうネ!!」
 悶絶して倒れる大男の向こうから、威勢のいい声が飛んできた。ごろっと転がるトレイを、沖田が拾う。
「どうやらホシは、この角っこが当たるように後頭部めがけて投げたようですねぃ。見てくだせぇ、ひびが入ってる。そして位置的に、俺たちに犯行は不可能……とならば、犯人はただ一人っ」
「なんでお前が来たアルっ。お前なんか全然呼んでないネ、とっとと帰るヨロシ、あさって来やがレっ」
「神楽ー。それたぶん一昨日来やがれだわ。お前こないだの小テストも変なとこ間違ってたろ。わざとか、ツッコミ待ちか?」
「いや、あの」
 今何よりもすべきなのは、推理でも国語の授業でもなく倒れたままの神楽父を助け起こすことではないだろうか。いや、看護婦か誰かを呼ぶことかもしれない。前に立つ坂本の袖を引っ張ると、振り返ったサングラスがにっこり笑った。
「ヅラは近づいちゃいかんよ? 何せこん人は襲いかかる山のような不良をちぎっては投げちぎっては投げして不良で富士山を作り上げたという、伝説の番長剛田タケル…」
「何一年引っ張った反省点を恩恵っぽくしようとしてるんですか」
「…に憧れて自分も「静香命」の入れ墨を彫ろうとしたら間違って「静番命」になっちゃった悲しい過去を持つおっさんやき」
「それ全然凄さも恐ろしさも醸し出せていません。というか、放っといていいんですか」
「いいアル。そんなうすらハゲ親父なんて、私のパピーじゃないアル」
 厳しいお言葉は実の娘から発せられた。ベッドの上に仁王立ちした姿は一見元気が有り余っている。が、頭に幾重にも巻かれた包帯や、足を固定するギプスに桂は思わず目を逸らしかけた。
「いや神楽ちゃん! 実のパピーに対してそれはないよっ?」
 踏みとどまった途端、裏返るような声で神楽父こと星海坊主は立ち上がった。さっきの勢いで桂たちに襲いかかるのかと思いきや、目を潤ませて実の娘にすがろうとしている。
「パピーは決して薄らってるわけじゃないからね。ほら、薄らってるっていうのはもっと砂漠みたいな、まばらにしか生えてない状態を指すんであってこれはむしろジャングルみたいじゃない?」
「ジャングルに失礼アル」「ジャングルに失礼だよなぁ」
 ぼそりと落ちた沖田の言葉は、運良く神楽の同じせりふに隠れて星海坊主には届かなかったようだ。それとも、若干青筋が浮いているところを見ると、聞こえてなおそれどころではないのか。
「だいたいパピーは往生際が悪いアル! ちょびっとだけ残った毛をわざわざくっつけて、うちの落ち武者の方がよっぽど男らしいネ!」
「落ち武者ってあれか、神楽ちゃんの担任のことかぁぁ! あんなの男らしいとは認めないぞ、男とは、最後まで諦めない奴のことを言うのだ!」
「……あの」
「パピーは諦めてないんじゃなくてしつこいだけアル。油汚れだってここまでしつこくないネ、ジョイで一発ネ!」
「あの」
「だからパピーもこの私の手で一発になるヨロシ!」
「だ、だめだぁぁぁ神楽ちゃんっ。かつてはあんなにふさふさだった俺の髪がなくなるなんて、死んだ母ちゃんになんて言えば……っ」
「あの……っ!」
 割り込んだ声に、父娘は勢いよく振り向いた。透き通るような蒼と鋭い藍に見据えられて、小さく桂は息を飲む。
「……ヅラ」
 かすかな声で銀八が名を呼んだ。坂本の手がそっと、桂の肩に添えられる。沖田は、どうしているだろうか。言葉もなく、姿も桂の位置からは見えない。ただ視線だけを感じて、ぎゅっと手を握りしめる。
「二人に、謝りたいことがあります」
 坂本の手を外して、前へ出る。「ヅラ、」今度名を呼んだのは神楽だった。向けられた瞳は良く晴れた空のようだ、そう思うとなぜか、踏ん切りがついた。
 ゆっくり膝を折る。無理に入った力に痛みが走るが、歯を食いしばってその場に正座する。そして手をついて、深く頭を下げた。
「昨日は、リーダー…神楽さんに大怪我をさせてしまい、すみません」
 息を飲んだのは、誰だろうか。額を床につくほど頭を垂れ、神楽父の反応を待つ。カチコチ、カチコチ、時計の音がやけに耳についた。そういや今日は風が強かったのに、ここは防音なんだろうか、とそんなことを頭の片隅で思う。
「ヅラ」
 神楽の声だ。頭を上げずに呼ばれた方へ身体を向け、再び言葉を紡ぐ。
「リーダーもすまなかった。ずっと楽しみにしてたのに、こんな大怪我をさせてしまって」
「ヅラ」
 さっきよりも大きな、少し棘のある声で呼ばれる。どんな言葉をかけられても受け止める覚悟を決めて、桂は顔を上げた。
「バカヅラっ!!」 ボスっ。



                                 ~続く~

by wakame81 | 2011-01-15 17:20 | 小説:3Z  

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