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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

海の底の月を拾う:4

はいこれでラストですー。
ちなみにタイトルは、麻雀用語らしいです、はい。






 尾行からチャンバラを経て、今度は鬼ごっこか。今日は厄日だ、と悪態をつきながら銀時は走る。夜の港はほとんど人がおらず、明かりも少ない。けれど逃がさない。逃がしてたまるものか。
「って、待てバカヅラぁぁぁぁっ」
「ヅラじゃない桂だ!」
 こんな時にでもそう返すのは忘れないのか。呆れと同時にまた苛立ちが沸いてくる。
 先ほど、沖田との対決を邪魔してくれたのが誰なのか、銀時にはすぐに判った。煙幕が部屋を覆ったのと同時に小屋から飛び出て、桂の姿を探した。翻る羽織を眼にして走り出したのはほとんど反射だ。とにかく、沖田よりも前に、捕まえなければと思った。
 昔から、鬼ごっこでアイツに勝てたためしはない。銀時だって逃げる時は捕まらないだろうと本人は頬を膨らませるが、どっちが、と銀時は思う。怪我など感じさせない速さで、視界の悪さをものともしない軽やかさで、走っていく背中をいつも見ていた気がする。
(行こう、銀時)
 そう笑って顔だけ振り返る姿を、背中を押されるように追いかけていた気がする。別に追いつきたいわけじゃないけどアイツが来いっていうからと、何かのテンプレートのような言い訳を口にしながら追いかけて、追いついて、その背中を預けられて自分も預けて。そして。
「…………んなくそっ。ヅラのくせに生意気なんだよ銀さん相手に逃げきろうなんざっ」
 引き抜きざまぶん投げた木刀は、狙い違わず前をいく後頭部に命中する。勢いよく倒れ込み、黒髪が宙を舞う……には足りない。
 舌打ちをして駆け寄る。跳ねて転がった木刀をまず拾ってから、ぴくりとも動かない桂の腕を軽く蹴飛ばした。
「はっ!」
「うぉわっ?」
 驚きのあまりのけぞって転びそうになるほど勢いよく跳ね起き、次いで桂は後頭部を押さえた。うつむく顔を流れる髪は隠しきれていない。傍らにしゃがみ込めば簡単に顔を覗くことができた。
「おいおい、大丈夫か?」
「は、銀時。今、何かが俺の頭をぶん殴りおった。この俺が、全力で走っていたにも関わらずだぞ。きっと天人の秘密兵器がそこらへんに」
「あーそういや空から変な鳥みてーなのが降ってきて、すぐに飛んでいったなぁ」
「そうか。いつまた戻ってくるか判らん、俺はこれで失礼する。さらばだっ」
「て、そうはいくか」
 青い小袖の裾を握れば、逃亡はあっけなく阻止される。何を、とこちらを睨む桂の腕を掴み、逆に睨み返してやった。
「どーいうこったよ」
「何がだ」
「説明しろってんだよ。あの坊主、おめーの隠れ家知ってたぞ」
 俺ですら知らないのに。その本音を飲み込み手に力を込める。腕を握りしめられて痛いだろうに、桂はキっと銀時を見据えてきた。
「どういうことだとはこっちの台詞だ。何故貴様が、真選組などと刃を交えている。俺が止めなければ、明日の朝には指名手配だぞ。あ、そのまま我が攘夷党に参加するための布石作りか」
「んなわけねーだろ。向こうからケンカふっかけてきたんだよ」
「沖田から?」
 ぱちくり、と琥珀色の眼が瞬く。その唇は小さく、何のつもりだ彼奴、と動く。
「何のつもりか俺が知りてーよ。つか、随分とアイツと親しげじゃん? わざわざ隠れ家教えてやったり」
 今だって。沖田の何かを理解してやっているような、口振りをして。それこそ、相手は真選組だってのに。
「向こうが勝手にやってきたんだ」
「何でアイツはお前捕まえようとしなかったの」
 応えが返るまでに、少しの時間がかかった。それは、と息継ぎの合間のように声が漏れる。
「成り行きと言う奴だ」
「……へー。」
「安心しろ。芋侍どもと通じたわけではないぞ」
「誰がんなこと心配すっかよ。そうじゃなくて」
 右手だけでなく、左手も桂に伸ばす。右肩を壁に強く押さえつけると、かすかに眉がひそめられた。あぁ、そういや斬られたって傷はここらへんだったか。
「何でうちに顔出さねぇ」
「………………」
「わざわざ留守を狙ったみてーに、土産も部下に持たせやがって。今さっきも、煙幕放り込んですぐに逃げ出しやがって」
「それは、沖田がいたから」
「それだけ?」
 力の籠もる手から逃れようと、羽織に包まれた体がよじられる。体勢的に有利なのはこっちだが、桂のことだ、いつどんな手を使って脱出するか判らない。逃亡を封じるために、身体ごと密着させて壁に押しつける。
「じゃぁ何で、俺からも逃げるの」
「真選組の眼が、貴様に向けられていたのを気づいてないのか? 沖田だけではないぞ。監察も動いている」
「それで、わざわざ気を使ってくれたの? お前とのつながりがばれないように?」
「今の貴様は、貴様一人の体ではないだろう。もしものことがあったら、リーダーや新八君はどうなる」
「心配してくれてんの? だから、俺から逃げようとするの?」
「それは、」
「俺から離れていこうとすんの?」
 反論も何も聞きたくなくて、開かれた口を封じる。一瞬固まり、すぐに逃げようと暴れる体を、力ずくで押さえつけた。


 さすがに沖田がまだ近くにいるだろう状態で、外でコトに及ぶほど周りが見えていないわけでもなかった。空き家になっている場所を見つけて連れ込み、暗闇の中組み伏せた。
 最初、桂の抵抗は激しかった。初めて手を伸ばした時ですら、抗われはしなかったのだ。それはひそかに銀時にショックを与え、だから余計意固地になった。桂が諦めたように受け入れなければ、傷つけていたかもしれない。
 事切れるように意識を失った桂の、土の上に散らばる髪を指で掬い上げる。いつも以上にそれは、さらさらと指の先から零れ落ちていく。身を屈めて闇の中でも艶やかな黒絹に唇を落とすと、常より近い口元から、かすかな吐息を感じた。
『また、お前の重荷になるのは嫌だ』
 金切るような声で紡がれた言葉が、まだ耳鳴りのように響いている。
『情を、移すだろう』
『情を移した相手を、貴様は斬れんだろう』
 そんなん、今更だってのに。
「…………前だって、お前を抱いて情を移して、それで耐えきれなくなったわけじゃねぇんだけど」
 戦場で触れた手は、一時しのぎにしかならなかった。それ以上でもそれ以下でもない。
『お前が壊れていくのに、また気づけないのは嫌だ……!』
「うん」
 もう一度、唇で触れる。髪からおでこ、鼻先、頬、そして唇へ。
 熱の名残は初冬の空気に既に褪せ、元から血の巡りの悪い身体は冷たくなりつつある。指先や足なんか、痛々しいほどに冷え切っているのではないか。それでも銀時は、土の上に投げ出された四肢を温めてやろうとも、晒された肌に何かかけてやろうともしなかった。
 身体が、動かなかった。
「俺は、お前を斬れないかもしれないけど」
 ほんの少しだけ身体を離す。
 今はまだムリだ。きっと今度こそ、完全に壊れる。いや、そうならなくなる日がくるなんて、到底思えない。
「だから、お前は変わっちゃわないで」
 お前をここに、繋ぎとめるから。
 閉じられた瞼に口づけを落とす。ふるり、と睫毛が震えて、月のような瞳がゆっくりと顕れた。


 そこにはない、はかない影に手を伸ばすような祈りを捧げる。






                                         ~Fin~

by wakame81 | 2010-02-07 22:51 | 小説。  

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