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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~GrandFinale~雨に唄えるなら

ぎりぎり26日に間に合いました。
ヅラ誕最後の一本、そういや本編沿いがないと慌てて追加した、攘夷編です。戦争参加初期、まだ坂本と合流してないころです。
銀時メインで。こう書くと優遇されてるような。しかし、誕生日ネタと思えないほど暗い………(爆)







『だって父上が言ってたんだ、年はじめじゃなくて生まれた日においわいするのは、天人のやることだってっ。』


 ふ、と意識が浮かび上がる。んあ、と漏れ聞いた声は思いの他低くそして太く、自分の発したものだと気づくまでに時間がかかった。
「………あり?」
 眼を瞬かせる。視線の先にあるのは薄汚れた、染みばかりの板ばりで、古ぼけててもきれいに掃除のしてあった、いつものそれではない。知らない天井だ。
「………ってエヴァ第二話か。」
 ぺしっと宙に向かって裏拳入れてから、顔を横に向ける。
 ゆっくりと、記憶は『今』に帰ってくる。
「あり。」
 隣で寝ているはずの、小太郎も晋助も見えない。そんなに寝坊したかと体を起こすと、空っぽの布団の向こうに、まだ眠りの中にいる男達の姿が見えた。
「あーそっかぁ。」
 頭をぼりぼりと掻き毟る。そういや、不眠番とか言ってたような。目の醒めた理由が解り、気の抜けた欠伸をもらした。二人がいなければ、これ以上眠ることもできないだろう。どうせなら、自分も起こして連れて行けばよかったのに。
 もう一度頭を掻いて、立ち上がる。障子の外がうっすらと白んでいる。夏至を過ぎたばかりの、早起きの太陽はもう昇る頃だろうか。障子に手をかけて、ふと聞こえてきた音に耳をそばだてる。
「………まぁ、やっぱりなぁ。」
 銀時の覚えている限り、この日に雨が降らなかったことなんてほとんどない。


 というか。
「何でこんな日に作戦なんだよ。うざってぇ。」
 士気とやらに関わってくるのは判っていたからなるべく小さな声でぼやいたのに、前を歩いていた晋助が振り向いた。地獄耳め。
「嫌ならテメェ一人だけ残ってもいいんだぜ。」
「ちょっとぼやいただけじゃん。」
「だったら黙って歩け。」
 正論だったが銀時は、むーっと口を尖らせる。
「だって濡れた服べとついてうざいし、歩きにくいし、頭の容量倍に膨れ上がるし、良いことないじゃん。」
「我慢しろ、特に最後。良かったたじゃねぇか髪の毛増えて。」
「どーせおめーには天パの苦労なんて一生判んねーよ。一回なってみろってんだ。今度、火箸焼いてパーマかけちゃる。」
「いーから黙れ。」
 晋助はにべもない。前を向いて、ぬかるんだ山道を登っていく。周りの者も、無駄口を叩いている銀時達に顔をしかめつつも、一言も喋ろうとしない。
「あ~あ。」
 めんどくさい。ため息をついても気分はよくならない。そういや、ため息ってついたぶんだけ幸せが逃げて行くのだったか。まぁ関係ない、あの居心地の良かった場所を奪われた時から、逃げ出す余分の幸せなんて、自分達に残されていないのだから。
 空を仰ぐ。木の影越しの空は、一様に灰色の雲に覆われている。銀時の顔を濡らす雨は決して強くなく、むしろ霧吹をかけられているようで、だからしばらく止まないだろうことが想像ついた。
「………止みゃあいいのに。」
「止むわけないだろ。」
 振り返りもせずに投げられた声に、ムッとした。
「だいたい、今日作戦だなんて誰が決めたんだよ。雨降ること判ってたんだから、止めりゃいーだろおめーもヅラも。軍議出てんだから。」
「雨の方がこっちの気配も消せるし、都合がいいって言ったんだよ。ヅラが。」
 返された言葉は非常に納得のいかないもので、銀時は眉間のしわの数を増やす。
「お前それ、認めたの。」
「当たり前だろ。理に叶ってるだろうが。」
 それは銀時にも判る。が、感情が納得しない。
「今日、何の日だって思ってんだよ。忘れたわけじゃねーよな?」
「忘れるわけねぇだろ。」
 振り向いた緑の眼が、静かに燃えている。
「けど、んなこと言ってられる時じゃねえよ。テメェもそれは、判ってんだろ。」
 言い詰める声音が、低く、熱を持つ。
「殺れる時に殺る。今日が何日だとか雨が降ったとか、そんな理由で見逃してたんじゃ一生かかっても奴等は駆逐できねぇぜ。数が、多いんだからな。」
 緑という色がヒトを落ち着かせる色彩だなんて、嘘だ。今銀時を見据えるまなざしに、癒しだとか精神安定だなんて欠片も含まれない。むしろ、ざわざわと体の芯から障られるような視線のまま、晋助の口端が歪む。
「………判ってますよ。」
 そう言い吐いて顔を背ける。舌打ちをして、晋助は前を向いたようだ。ぬかるみを踏みにじる音に促されるように、銀時も歩き出す。
「………判ってますって。」
 もう一度、口の中で呟く。
 この世界を、認めない。あの日から三人の胸に、共通して在る想いだ。松陽を認めない世界が、正しいはずがない。だからこそ、銀時は。晋助や小太郎は。
(けど。)
 前を征く、晋助の後ろ姿を見つめる。この日の作戦を支持したという、小太郎の顔を思い浮かべる。雨は変わらず銀時を濡らし続ける。小さな音が薄幕のように世界を無音に包むのは、小さな私塾で師の言葉を聞き流しながら外を眺めていた時と、変わらない。
 なのに、何かが咬みあわない。
 ズレが生じたのがいつなのかも、理由も判ってる。違うのは当たり前だ。でも、それに納得しきれない。
(今まで、んーな風に感じたことはなかったのになぁ。)
 ぼんやりと歩いていた銀時だったが、ふと表情を引き締める。隊の歩動が止まっていた。皆、一様に張り詰めた顔をして、それぞれ腰に手を伸ばしている。晋助が、一番判りやすかった。
 合図を待つ。それまで霧のように銀時の頭を覆っていた違和感が、すっと晴れていく。敵が、いる。報告の通りなら、銀時らの足下、ならだかな崖を降りた先だ。
「ーーー抜刀っ!!」
 合図と共に鬨の声が上がる。雨で柔らかくなった崖を駆け下りる。足の踏ん張りが利かない。実際転げた奴も多かった。それでも一瞬も怯まずに、銀時も晋助も敵の隊列へと斬りかかる。奇襲に慌てふためいた天人どもが刀や銃を構える前にその中に飛び込む。大柄な種だがそれ故に動きは速くない。体重をかけて鎧の繋ぎ目を狙えば、頑強な身体にも刃が通る。
 温かいものが顔にかかる。手に腕に、鈍いけれど確かな感触が伝わる。悲鳴と肉の断ち斬られる音を耳が拾う。
 刀を振り回す。間合いに入ろうとする敵を蹴飛ばす。返す拳で顔を殴る。何人叩っ斬ろうが身体は疲れない。何も感じない。奴等は敵だ。自分たちから、幸せを奪い取った奴等だ。
 けれど。
(なんで、この日に降るのが雨だけじゃねーんだろう。)
 何かが頭を掠める。
 やさしくあたたかいそれがヒトの形を取る前に、横薙ぎに払った敵の身体ごと、それを振り払った。


 こんなに疲れたのって、いつぶりだろう。
 ぬかるんだ地面に座り、まだ止まない雨空を見上げながら大きく息を吐く。陣は勝利に湧いて、どうやら少しながら酒も振る舞われたようだ。
 賑やかな声が遠いのは、雨に遮られてるからだけではない。
「あー………。」
 ため息が、止まらない。口をぼんやりと開くたびに、さらさらと雨が歯に当たる。水を吸った衣が重い。べったりと座り込んでいるので、羽織りも袴も汚れてしまっただろう。また、小太郎に怒られる。
「なーんでなのかなー。」
 去年まで、この日にこんなに気が重くなることはなかった。雨の音を聞いて、蛙の鳴く音に耳をそばだてて、今年もきっと豊作だと笑いあう師と幼なじみ二人は、飴が好きじゃない銀時に何の遠慮もなく、てるてる坊主すら作ってくれなかったけれど。天人の侵攻が激しくなって、おおっぴらに祝うことはなくなっても、こっそりと祝いの言葉はささやきあっていたのに。
 今は、あの頃と違うのだ。誕生日なんて天人の文化と同じモノだ。敵のものなんかありがたがってはいけない。それを何より、自分たちが判ってる。
 判ってるのに。
「………銀時っ。」
 思考の海が、異国の宗教にある海渡りのような勢いで蹴散らされる。それを成した声の持ち主を見上げて、唖然とした。
 小太郎が、仁王立ちになってそこにいた。羽織を脱いだ肩も後頭部じゃなく顔の横で束ねられた髪も、まだそんなに濡れてない。
「………何、ヅラ。宴会にいたんじゃなかったの。」
「ヅラじゃない桂だ。お前、何か俺に言うことがあるだろう。」
 銀時の問いなどきれいに無視して問い返される。もう一度尋ねようとして止めた。琥珀色の眼が、夜にもはっきりと燃え上がっている。ただしそれは、昼間晋助に見た暗く湿ったものではなくて、そのことがどこか銀時を落ち着かせる。
「お前に言うこと?」
「そうだ。」
 首をかしげる。こんな怒り方をする小太郎なんて初めてだ。
「………服汚してゴメンナサイ。」
「あっ、本当だっ! お前なんて事を。汚れたらすぐに水に浸せっていつも言ってるだろうっ。」
「あれ、そのことじゃないの?」
 拍子抜けする。それじゃないとしたら、あとは。
「今日の戦前にうだぐだ言ってたこと?」
「雨の日にお前がやる気ないのは今更だろう。しゃきっとせんか。そんなだから、髪の毛もくるくるなんだ。」
「悪かったなオメーに雨の日の天パの苦しみなんて一生判んねーよっ。」
「そんなことはどうでもいい。」
 銀時にとっては一生の命題をぽいっと捨てられ一瞬ムッとする。が、睨み下ろす視線にむかつきは形を潜めた。小太郎の言わせたいことはこれでもない、とすると、心当たりなんて。
「………すいません、ヒントください。」
「今日は何の日だ。」
 低い声で言われた途端、小太郎の言わんとすることが理解できた。が。ちょっと待て。
「え、ヅラ君、ちょ、それって。」
「誕生日はどんな理由があっても、せめておめでとうだけは言いましょうねという先生のお言葉を忘れたか貴様っ!」
「あてっ。」
 怒鳴り声と同時にげんこつが降ってくる。痛みに頭を抑えながら、それまでもやもやとしていたものがきれいさっぱり消え失せていることに気づいた。
「………いいの?」
「当たり前だろう。何を悪いことがある。それともお前も晋助も、俺の誕生日など祝う気も起きんというのか?」
「いやそんなわけねーけど、でも。」
 天人の風習だろ?
 そう口にする前に、小太郎が身を屈めて銀時の胸ぐらを掴む。そのまなざしが、遠い光景と重なる。

「天人の風習じゃない、銀時の言ったことだっ!」
 そして、あの時と同じ言葉が。

「………そだな。」
 ゆっくりと眼を閉じる。垂らしていた腕を持ち上げて小太郎の背に回し、体重を掛けて引き寄せる。
「うわっ? 何をする銀時、危ないではないか。」
「うん。」
「離せっ、なんか姿勢が落ち着かん。それにびしょびしょだぞお前こっちまで濡れるじゃないか。」
「ひっでーの。」
 喉の奥でくすくすと笑う。判ってない小太郎は、まだ抗議の声を上げている。
「晋ちゃんにも言った?」
「あぁ。怒ってやった。探したんだぞ。」
「うん。」
 同じようにげんこつを落とされたのだろう。その時の晋助の顔を想像するとますますおかしくなって、ついに笑い声は口から溢れだした。
「変な奴だな。怒られて笑うなんて、そういう性癖があったのか。」
「んなわけありませんー。俺は本編ではドSコンビとして名を馳せるんだから。」
「何の話だ、てか誰とコンビを組むつもりだ。だいたい頭文字でユニット名を決めるのに、『ど』はいらんだろう。」
「ちげーよ。」
 髪を引っ張れば痛いと文句を言われる。湿った髪はいつもと違い、銀時の手に絡むように残る。
「ありがとう、な。」
 耳元でそっと囁けば、くすぐったそうに首を竦めて、「おめでとう、だろう。」と訂正された。
 大丈夫。
 あの頃と今にズレがあっても、戦が終わればきっと帰れる。






                             (そう、俺は夢想する。)




                                     ~Fin~



 

by wakame81 | 2009-07-26 20:55 | 小説:星は何処  

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