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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

Carmen~Plerude for Act1~Ⅰ

まだ書き上がってないんですが、とりあえず一話だけアップです。

リク小説「音大パロで万桂、甘めの話」。………………甘め?

一年時の、ビギナーズ・オーケストラでの話です。
桂=打楽器、万斉=音響デザイン、銀時=指揮 高杉=チェロ 坂本=トロンボーン 土方=クラリネットをそれぞれ専攻中。土方の出番、冒頭だけなんですが。(すみません!)





 学園祭の目玉、一年生のみで構成されるビギナーズ・オーケストラで使う譜面が各学生に配られて少し経ったある日、「カルメン」の舞台にのるメンバーがレッスン室に集められた。楽譜必ず持参、楽器は不要とのお達しつきで。
 何が始められるのか、まったく想像もつかないものはいないだろう。自然、パートごとに固まって座るメンバーの前に、だらしなくシャツの裾をズボンからはみ出させた銀初の男が、あくびをしながら現れた。
「はーい。みんなそろってるなー? いない奴手を挙げろー。」
「って何のボケだよっ。いもしねぇ奴が手ぇ挙げられるわけねーだろ。」
 クラリネットの列にいた、目つきの鋭い男が即座に突っ込む。
「てことで、カルメンを振らせてもらうことになった、坂田銀時でーす。好物はいちご牛乳ならびに甘い物全般。」
「何でいきなり好物言うんだ。おごれってか、おごれってか?」
「正直振るのはかったるいんで、てきとーにやってさっさと終わらせたいと思いまーす。譜面持ってきたな?」
「適当言うなちゃんとやれっ。てかさっきから俺の言うことまるっと無視かっ?」
「んじゃ、チューニングするぞー。まずはA(ラ)から。」
「楽器もなしでいきなりかよっ。」
「ん~~~?」
 それまで、どこに視線を向けているのかよく判らなかった顔が、今までツッコミを入れ続けていた男に据えられる。それでもやる気の微塵も感じさせない、死んだ魚のような眼に男はムッと眉を寄せた。
「キミは楽器がないと、何にもできない赤ん坊ですか。どうやって音出してますか。何にもしなくても、楽器が音鳴らしてくれるんですか。」
「んなわけねーだろ、リード咥えてマウスピースから息吹き込んでんだよ。」
「んじゃ、ドレミファソラシドはどーやって出してますか。楽譜通りに決められたキーで孔塞いでるだけですか。」
「んな訳ねーよ。頭ん中でちゃんとメロディー作ってやってるに決まってんだろ。」
「だったら、楽器なしでも歌えるよな?」
 ぐ、と男は口をつぐんだ。坂田銀時の言うことの正しさに気づかされて、言い負かされる悔しさを押さえ込もうとしている。その苦労を無下にするように、坂田銀時は耳をほじくりながら口を開いた。
「判ってくれたー? 多串くん。」
「うっせー判ったっつってんだろっ。何だよ多串ってっ! 俺の名前は土方十四朗だっ。」
「えーだって、串をきわめて伝説の串職人になるんじゃないの? そのために、ポケットにいつも串を忍ばせてんじゃねーの?」
「ならねーよっ!」
 そんな、多串改め土方いびりを経て、坂田銀時は簡単にチューニングを終わらせた。「じゃ、始めっぞー。」と改めて指揮棒を構える。メンバーの間に、緊張をはらんだ空気が走る。テンポに合わせて、指揮棒が振られた。
 小規模編成での練習に使われるとはいえ、このレッスン室はそれなりに広い。そこを、メンバーが奏でる歌声が満たす。初めての合奏とはいえ各人ちゃんとさらっているようで、それは一応曲の形をなしているように聞こえた。が。
 幾らもしないうちに、坂田銀時はメンバーを止めた。
「ちょっと待てー。何かヘンな音聞こえっぞ。」
 腕組みまでして考え込む。メンバーはそれぞれ、不思議そうな或いは不満そうな顔をしている。少しの間首をひねった後、再び指揮棒が持ち上げられた。
「いいかー、もっかい頭から行くぞー。」
 振られる指揮棒に合わせて、おのおのが歌う。今度は一回目の半分の長さで、指揮棒がカンカンと指揮台を叩いて止めた。
「メロディーパート立て-。えっと、第一バイオリンと第二と、いーや面倒だ自分がメロディーだと思う奴立て。そいつらだけでもっかい行くぞ。」
 みたび指揮棒を構え、眠そうな眼がメンバーを見渡す。右から左へ、左から中央へ戻り、指揮棒が動かされる、直前に坂田銀時は目を剥いてある一点に全身を向けた。
「ヅラ、何で立ってんの。」
「ヅラじゃない桂だ。俺が立っていると、何かおかしいか。」
 打楽器パートの列の中ですくっと立っていた長い黒髪の男が、平然と答える。
「いやおかしいでしょ。俺はメロディーだけ立てっつったんだぞ? お前メロディーじゃないじゃん。」
「いや、メロディーだ。」
 たっぷり十秒かけて、坂田銀時は眼を瞬かせた。
「は?」
「メロディーパートだ。第一バイオリンと同じメロディーだぞ。」
 あんぐりと口を開ける坂田銀時に、ヅラと呼ばれた男はふんぞり返った。
「ファーストマリンバだ。スコアにもそう書かれているだろう。」
 説明しよう。マリンバとは、ぶっちゃけると木琴である。同じく木琴のシロフォンが、固い材質で作られ、高く固くハリのある音色を売りにしているのとは違って、マリンバは木の柔らかい部分が使われ、音域も広く、低音部はまろやかで深い音が鳴り、高音部は軽やかな音が奏でられる。値段も高いので、これを持っている中学高校は鼻高々という楽器なのだ!
「………おいヅラ。」
 スコアと睨めっこしていた坂田銀時は、低い声を上げた。
「シンバルに替われ。」
「ヅラじゃない桂だ。できるわけなかろう。じゃんけんで負けたんだぞ。」
「おめーがこのまま鍵盤楽器ってのほうができるわけねーよ。つーか何じゃんけんって。」
「じゃんけんはじゃんけんだ。知らなかったか? グーとチョキとパーがあって、」
「知ってるよっ。俺が言いてぇのは何でじゃんけんがここに出てくるかってことっ。」
「パートを決めるためだ。」
「はぁっ?」
 ちゃんとキャッチボールできてるのかも判らないやりとりに、メンバーの殆どが唖然としている。チェロの一人がくぐもった笑いを零し、トロンボーンのもじゃもじゃ頭の大男がバカみたいな笑い声をあげる。
「それで何でじゃんけん。」
「複数人がシンバルを希望したのだ、公平を期すためにはじゃんけんしかなかろう。」
 普段なら、「重たい」と大不評のシンバルが、えらい人気である。坂田銀時は開きっぱなしだった口を一度閉じて、大きく息を吐いた。
「………とにかく替われ。お前がマリンバなんて冗談じゃねー。」
「そんな不正ができるか馬鹿者。」
「替われっ。」
「嫌だ。」
 そんなやりとりが延々と続き、結局終わり十五分前に、伴奏パートだけの合わせが行われただけで第一回の全体合奏は終わった。


 二時限目、つまり午前最後の授業が終わるまであと十分、学生食堂はすでに混み合っていた。食券売り場前は、早くも行列ができつつある。二時限がないのを良いことに早めに日替わりランチAセットを手に入れた万斉は、ふとよく知っている声を耳にした。
「というかお前、一年全員敵に回したんじゃねーの?」
「何故だ。」
「当たり前だろ、お前が銀時とやりあったおかげで、合奏時間が全然取れなかったんだからな。」
「仕方あるまい。奴の言い分を聞き入れるのは、不正だ。」
「んなもん考慮するヤツぁいねーよ。」
 思った通りだ。隅のテーブルのやや壁側よりに、万斉のよく知る人物を見つける。昼食時だというのに贅沢にも何も食べずに席を占領しているのは高杉晋助、向かいでそばを前にしているのは、桂小太郎だ。すると、桂の隣で日替わりランチBセットのミックスフライをつついている黒モジャ頭が、坂本辰馬だろう。
「まぁでも、ヅラの言い分は判るし、金時もああいう言い方はしのうてもよかったがな。」
「そうだろう。」
「で、どうするんだ。」
「決まっているだろう、俺のパートをきちんと歌えるようにするまでだ。というかお前達少し黙れ。」
 高杉はともかく、フライを頬張る傍らエビフライを何故か桂のそばに乗せている坂本辰馬と違い、桂はさっきから昼食に手を付けようとしない。手にしているのは、箸ではなく譜面のようだ。手元にはウォークマンも置かれていて、イヤホンコードが耳まで伸びている。
 桂の口元は、小さく動かされていた。万斉は目をこらす。それが、カルメンのメロディーだとやがて気づいた。
「ヅラー、そばが伸びてしまうぜよー。」
「ヅラじゃない桂だ。ていうか貴様いつのまにこんなもの乗せた!」
「気づけよ………。」
 口を尖らせながら、桂はエビフライを坂本へ突き返した。黒モジャ頭があっはっはーと掻き毟られる。
「ヅラははやちっくと、しっかと食べた方がいいがやき。」
「だったらもうちょっとそばに合うモン乗せろよ馬鹿もじゃ。」
「コロッケらぁはよお乗っかっちゅうろう。」
「コイツがんなもん好まねーの知ってんだろ。」
「だから黙れ二人とも。」
 桂はそばに手をつける様子はない。終業のチャイムは今さっき鳴ったばかりだ。昼休みを迎えて、食堂の人工密度はどんどん高くなっていく。比例して、騒々しさもだ。
「手伝ってやろうか、ヅラ。」
 向かい席の黒髪とつむじをじっと見ていた高杉が、そう声をかけた。それまで譜面にずっと目を落としていた桂が、眼をわずかに丸くして顔を上げる。
「俺が見てやろうか。」
「いらん。」
 その申し出を、桂はきっぱりと断る。高杉の眼は、判りやすく鋭くなった。
「今までのようにただお前に教わってばかりいるわけにはいかん。俺はこれから、教える立場にならねばならんのだ。」
「いやまだわしらは一年だし、教わる立場にかぁーらん」
「………そうかよ。」
 坂本の言葉を遮り、高杉は立ち上がった。それまでとは打って変わった厳しい眼が、桂に向けられる。
「そういう気なら、勝手にしやがれ。」
「おーい、晋坊?」
「待て高杉。お前昼飯はどうするつもりだ。まさか、食べんのか。」
「それこそ俺の勝手だろうがヅラ。あと、晋坊言うな馬鹿本。」
 言い捨てて、高杉は踵を返す。さっと、万斉はその視界に入らない位置へと隠れた。別にやましいことなど何もないが、自分が一部始終を見ていたことを、感づかれたくはなかった。
「あーあ。晋坊怒ってしもうたぞー。」
「仕方ないだろう。」
 桂は、わずかに顔を上げたままだった。人混みに消えた後ろ姿を追うでもなく、すぐに目線を譜面へと戻す。
「いつまでも、彼奴に甘えているわけにもいかん。」
「甘えだと、晋坊は思っちゃーせんろう。」
「それでも、だ。」
 それきり、メロディーを口ずさむ桂に深く息を吐いて、坂本は半分ほど残っていた昼食に取りかかった。ゆっくりと、八八回噛んでいるように、箸を進める。時折、ちらりと隣を見上げながら、けれど桂の邪魔をする素振りはない。
 食堂の人混みは、入れ替わり立ち替わりしながらどんどん増加していく。一心不乱に楽譜に取り組んでいる桂の熱気に当てられてか、高杉が去った後誰も近寄ろうとはしなかったが、そろそろそれも限界だ。
 チャンスを逃す前に、万斉は動いた。



                                    ~続く~

by wakame81 | 2009-05-30 03:51 | 小説:音大パロ  

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