お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

三足の烏が翼をひろげ:参

木曜に書き上がってたのにアップがこんなに遅れたのは、タイトル考えてたからです(爆)。







 ぶるっと体が震え、それが桂に覚醒を促した。
 ぼんやりと目を開く。暗闇に覆われた世界を視界が捕らえる前に、肌が現状を伝えてきた。
 冷たい空気が肌を撫でる。体は濡れていて、身を守るための何もまとってはいないようだ。そして、縛り上げられた縄が動きを封じきっている。
 意識すると、痛みが蘇ってくる。全身の骨という骨が軋みをあげている。そして、下肢からも、鈍い痛みが疼く。
 どうやら、あのままで放置されたらしい。下腹部の気持ち悪さがそれを証明している。衣服を全部剥ぎ取られては、煙幕や爆弾を隠してはいられないだろう。頭を振ってみる。かんざしの音もしない。それも、取り上げられたか。
 水をぶっかけられたからだけではなく、空気が冷えている。地下吉原の中でも、奥深いところだろうか。
「さて、どうするか………。」
 あの場で引き裂かれなかったということは、今すぐに殺されはしないだろう。果たしてそれは何のためか。拷問し、知っていることをすべて吐かせるためか、それとも、宙の上で嬲り殺すためか。
 頭の奥が鈍く痛む。それを紛らわすように、ゆっくりと息を吐く。眼は閉じない。閉じた方が楽だろうが、意識まで暗闇に落とすわけにはいかない。
 夜王が何を考えているにせよ、思い通りになるわけにはいかない。自分は、あの馬鹿を止めるために来たのだ。この手で、斬り捨ててでも。そして、志半ばで潰えるわけにはいかない。
 この国に、新しい夜明けを導くまでは。
「最後まで、生き延びなくてはな。」
 多少薄汚れてはいるが、この身一つのことならばとやかく言わせない自信はある。くすりと笑みを零せば、冷え切った体に少しだけ熱が点るような気がした。
 それにしても、と思う。桂自らが出向くなど、と反対したエリザベスには呆れられるだろう。
 あの馬鹿の企みは幾らでも見抜く自信はあったし、自分にしかできないとも思うが、裏を返せば自分の考えも向こうに読まれるということだ。せめて、別の者に託せれば、奴の裏を掻けただろうか。いや、見破られてあの仕打ちを受ければ、自分以外の者では死に至ることだってありえる。
「腕の信頼できる隠密でもいればな。言っても詮ないことだが。」
 この先の人材をどう育てるか、それは後で良い。今はまず、この状況から脱出しなくては。
 夜王の思考をトレースする。拷問にしても何にしても、自分に向けた眼は普通ではなかった。燃えるようで、焦がれるようで、そして狂おしい憎悪をはらんだ瞳。憎しみをぶつけるにしてもやることが粘着質だ。
 踏みにじることを望むなら、と考えて改めて辺りを見渡す。小石の一つも落ちておらず、舌打ちをもらした。
「機を待つしかないか。」
 桂を閉じ込める部屋の入り口からも、今寝転がらせている場所は離れている。飢え死にさせるのでなければ、いずれ誰かが入ってくるだろう。
 その時が訪れたのは、松子劇場叙情詩~第三幕:運命の出会い~を思い浮かべている最中だった。
 重い音と共に錠が外され、扉が開かれる。入ってきた三人の男はいずれも人相が悪く、全裸で縛られている桂を見て下卑た笑いを浮かべた。三人ともが腰に刀を帯びているのを見止め、小さく眼を細める。
 わざと顔を強ばらせ、男達が近づいてくるのを見つめていた桂は、再び扉が開いたのに視線だけ向け、そして息を飲んだ。
 その全身は、白い布にすっぽりと覆われている。つぶらな瞳も愛嬌のあるくちばしも、桂の眼になじんだものだ。胴体の、横薙ぎに斬り裂かれた傷を乱暴に縫いつくろった痕が、痛々しい。
 気づかない男達が桂を押さえ込むのも、彼らから刀を奪うチャンスも忘れ、その白くて丸い姿だけを見つめる。
 そんな筈がない。奴が、ここに、現れるなど今となってはあり得ないのに!


 侵入者を嬲り、貫き、さんざん苛んで地下牢に放り込んでからも、鳳仙の気は晴れようとはしなかった。
 凱旋した夜王を、女達が出迎える。新しい衣を、身を清める湯を、勝利を祝うための酒を持った女達は、皆一様におびえを顔に浮かべ、遠巻きにするばかりで近寄ろうとはしない。それが当たり前だ。月詠すら、戦あとの鳳仙に顔を強ばらせるのを隠しきれない。夜王の力を理解しながら、まっすぐに見据えてくるのはただ一人しかいない。
 大股で女達に近寄る。後退る前に湯の入ったたらいを奪い、浴びる。脱ぎ捨てた衣の代わりに新しいものを羽織る。一升の酒を一息に飲み干す。吉原を築いてから美味いと思ったことはないが、今日のは特に味気ない。
「………月詠は。」
「は。その、」
「日輪のところか。」
 問われた女が肩をびくりと竦める。怒りに触れることを恐れているのだろうが、気にも止まらなかった。そうだろうと、思っただけだ。
 本物に会って確かめようという気は、それで失せる。あれが日輪でないことは、己がよく知っている。紛いものだ。そう己に言い聞かせ、頭を振る。その程度では、意識を失う寸前まで自分に向けられ続けた琥珀を追い出すことは叶わなかったが。
「………あの眼を、しおって。」
 日輪でもないくせに。
「酒を持ってこい。」
 女達に命じ、楼閣へと登る。殆どの建物が二階建ての吉原で、何よりも高い場所だ。色とりどりのネオンが、常夜の街も、先ほど鳳仙が破壊したあたりも変わらず照らし出す。自分はこの街の王、夜を統べる者だ。思い通りにならぬものなど、幾つもあっていいものではない。
 踏みにじる。屈服させる。あの眼に絶望を浮かべさせ、泣きながら許しを請わせてみせる。思い通りにならぬ苛立ちが、嗜虐心となってあのものに向かう。遠慮することはない、日輪ではないのだから。
 あれが何者なのか、薄々気づいてはいた。≪攘夷の暁≫、なるほどあの眼を持つに相応しい二つ名だ。それを捕らえたと知れば、元老は引き渡しを迫るだろう。
「誰が、くれてやるものか。」
 恭しく差し出された盃を空にする。不味い。酔えそうにもない。もっと良い酒を持ってくるよう命じ、思いついて付け足した。
 複数の男共に踏みにじらせる、か。悪い案ではない。
 そう簡単に折れないだろうが、繰り返せばいずれ折れるだろう。喉を震わせて嗤う。
「そういや、客人はどうした。」
 盃を重ねて、ふと思い出した。尋ねられた女は、怯えながらも姿を見ないと答える。盃を運ぶ手を止めて、考え込んだ。直感が正しければ、或いは。眉をひそめたところにタイミング良くその報せが届けられた。
「鳳仙様、地下の捕虜が逃げましたっ!」
 驚きよりも嗤いが先に来たのは、頭のどこかで予測していたからなのだろう。


 覚束ない足で、水をかき分けて走る。泥や汚物の溜まった下水道は、ただでさえ足を取られやすい。しかも今は、体のあちこちにダメージを残したままだ。特に、ひねった右足がまずい。得意のスピードを、活かせなくなっている。適当に剥いだ衣の丈が短く、裾をまくる手間が省けたのがせめてもの救いか。
 けれど桂は、弱音を吐くつもりはなかった。
 数メートル先を行く、『エリザベス』の後ろ姿を睨む。此奴に、弱みなど今更見せられるものか。
 自分を組み伏せようとした男たちを斬り伏せ、牢から助け出した真意を、桂は問おうとはしなかった。疑問は残る。今更とも思う。けれど、問うたところで此奴は答えようとはしないだろう。はぐらかされるのがオチだ。
 走りながら、辺りに目をやる。灯りのない下水道だが、眼は闇に慣れた。泥にまみれて打ち上げられているのが、ただゴミばかりではないのが夜目にも判る。
 骨と化した死骸に、唇を噛んだ。
 地獄に底があるとしたら、ここがそうなのだろう。天人のもたらした利便性に隠された闇の、そこから更に打ち捨てられたものが流れ着く場所なのだ。
 その闇を祓うことができればいいのに。今の桂は、こうやって逃げのびることしかできない。
「よそ見してるとこけるぜ。」
 前から声が降ってきた途端、足を躓かせて転んだ。先を行く水音が止まる。汚水から顔を上げ、『エリザベス』を睨みつけた。
「言わんこっちゃねぇ。」
「馬鹿者。エリザベスはしゃべらん。看板持って出直してこい。」
 眼光に、『エリザベス』は怯む様子を見せない。汚れた顔を拭い、立ち上がる。その時だった。
 遙か後方から感じる気配に、そろって振り返った。





                                     ~続く~
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by wakame81 | 2009-05-16 02:35 | 小説。  

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