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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

三足の烏が翼をひろげ:壱

やっとこ上がったリク小説「鳳仙vs桂。吉原に潜入する桂さんと、夜王。と、高杉」

なんかこう、色々とまたリク主様の意図を取り違えた話になったような。すみません!!
時期的には、ずばり動乱編です。







 暗闇を、ただ行灯だけが照らしている。淡い光にぼんやりと輪郭を浮かび上がらせ、二人は声を潜めて囁きあう。
「いつものこれはどうだろう。」
『歓楽街に坊さんなんて、聞いたことないですよ。』
「かぶき町ではよくこの変装をしているぞ。」
『それとはまた別です。』
「そうか。ならこれで。」
『それ、目立つと思いますよ。テレビに出たじゃないですか。』
「そうだったな。ではこれならどうだ。芋侍にも見抜けなかったヤツだ。」
『それも、テレビに出ちゃいました。』
「そうか………。」
 幾つかの変装レパートリーを放り投げ、ピンクのパーカーの隣にある白い布をつまみ上げる。
「やはり、これか。」
『それ、あのチョウチョ男一回見てるじゃないですか。』
「だから二度目はないという、裏を掻く作戦ではどうだろうか。奴だって動く以上、こっちがどう出るかは予測を立てるだろうし。」
『ダメです。』
 とりつく島もない言葉に、深いため息が漏れる。
「となると、やはりアレしかないか。」
 そういう指は、紺色に桔梗をあしらったあでやかな布に触れた。


 生意気な小僧めが。そう、鳳仙は笑った。
 蔑む視線に気づいているだろうに、男は窓の縁にもたれかかったまま外を眺めている。時折、紫煙がゆらゆらと立ち上る。饗された豪華な食事は膳におかれたまま、箸をつけるどころか近づくことすらしない。
 それは、つきそう男の部下にも言えた。ひょっとこのような、何を考えているか判らない男はともかく、護衛らしい娘はさっきからちらちらと、膳を見やっている。だが、それだけだ。よほど躾が行き届いていると見える。
「口に合わぬか。」
「俺ぁ偏食なんでな。」
 黒髪を高く結い上げでうなじを晒し艶めかしく紅を差した遊女が、満たされた杯を手に男に近寄る。護衛の娘が息を飲む音が響いた。が、男は見向きもしない。
「この吉原で宴を開きたいのなら、酒のひとつも味わってはいかがかな?」
「どうせ、客をもてなすのならそれ相応のモノを出すだろうよ。試す意味はねぇな。」
「そうか。」
 毛を逆立てた猫のような奴らだ。それ以上勧めることを止め、鳳仙は己の杯を空ける。
「しかし、そうそうたる顔ぶれが降りてくるものだな。」
「好奇心が疼いたんだろ。」
 赤や黄、薄紅のネオンが煌々と常夜の街を照らす。鉄板を剥き出しにした天井が、地下の光に無骨な姿を晒している。花がねぇ、と、街の感想を問われた男はつまらなそうに口にした。その時と、同じ声音だ。
「天人や人間の男共だけじゃねぇ、天上から導く者とかのたまう連中が、夢中になって通う。そうさせる、この街にな。幕府暗部との密会なんざ、ただの建前だろうさ。」
 喉を震わせ、男は外へ向けていた顔を戻した。包帯に覆われた左眼、残された右眼が鳳仙を見据える。
 生意気な小僧めが。再び、そう口を歪ませる。
 かつての仲間を売って、やっと春雨傘下に加えられたと聞く。登りつめるどころか使い捨てられぬよう必死になるべき立場のくせに。
「地上のすべての男共を酔わす、酒に。料理に。女に。」
 一つしかない眼が細められた。底は知れない、深いのか浅いのかも判らない、けれどすべてを見通そうとするような眼だ。一方的に、ココロの奥底まで搾取しようという眼だ。
「アンタの大事な客寄せパンダ、見せびらかしてねぇでしまっといたらどうだい。」
「大事。」
 息を吐き捨てるように笑った。
「大事だと? アレはただの戯れだ。太陽を堕とすためのな。」
「充分大事にしてんじゃねぇか。」
 手にしていた煙管に口を付け、ゆっくりと紫煙を吐き出す。側にいるモノすら冒す、毒の煙だ。それが、部屋に溶けていく。
「穢してぇなら、いくらでも方法はあるだろう? そうだな、複数の男共に踏みにじらせてやればいい。それをアンタがしねぇのは、思いつかなかったからじゃねぇだろう。」
 かしずいていた女達が、さっと後退った。護衛の娘が腰を浮かし、懐に手を伸ばす。男はそれを、視線だけで制した。
「閉じ込めて、いつか己の手に墜ちることだけを夢見ている。それで手に入れたと錯覚しているのは、そんなに幸せかぃ?」
 生意気な小僧めが。
 目上相手にも怯まない不遜な態度は、かつての弟子にもよく似ている。けれど、あの天才児が決して持ち得ない、昏い光をその眼はたたえていた。


 そんなことを言われたからだろうか。フン、と鳳仙は己を嘲笑う。
「鳳仙様っ。」
「鳳仙様っ?」
 男の退室後、別の客人のおべんちゃらを聞いていた楼主がいきなりもてなしの席を立ち、天守へと向かっているのだ。下男や遊女達がおろおろと主を見送る。
 かんぬきの掛けられたその部屋の前で、水差しの盆を持った月詠とかち合った。急な来訪に灰銀の眼が見開かれる。
「鳳仙様。こんな時間に、何のご用でしょうか。」
「貴様にいちいち言う必要はない。下がれ。」
 月詠は退かなかった。それどころか、盆を持ったまま扉の前に立つ。
「日輪は、今日は気分がすぐれないと。」
「ほう。あの気丈な女が、何の鬼の霍乱だ。」
 腕を伸ばし、手首を掴む。鍛えてはいるが女の、細い手だ。少し力を入れれば、簡単に砕けるだろう。
「鳳仙様っ。」
「退け。」
「お待ち下さい、日輪は本当に気分が」「月詠。」
 足を踏ん張らせる月詠を、扉の奥からの声が止めた。凛とした、強い声だ。
「大丈夫、そこを開けな。」
「………はい。」
 吊り上がっていた柳眉から力が抜ける。俯くように頭を下げ、月詠は下がった。
 太く重いかんぬきだが、それを軽々とどかし、扉を開く。中に入れば重い扉は独りでに閉まった。飾り気も何もない部屋が、鳳仙を迎える。これが、吉原一の花魁の座敷だと、誰が信じようか。
「こんな昼間に、何の用?」
 けれどそこに立つのは、間違いなく吉原一の女だった。あでやかな緋の打ち掛けや細かな細工を施されたかんざしだけではない。立ち姿も袖から覗く手もこちらへと向けられた眼も、何もかもがまっすぐで、そして美しかった。
「気分が悪いようだな。何の、鬼の錯乱だ。」
「酷いね。」
 日輪は、笑わない。けれど、深い瞳はどこまでもまっすぐに、鳳仙を射抜く。強い怒りや哀しみに彩られたことはかつて何度もあったけれど、そのまなざしが逸らされたことはない。絶望に満ちたこともだ。
「まるで私が、風邪一つ引かないナントカみたいな言い方じゃないか。」
「少なくとも、病ごときで弱るような女ではないな。何を見ていた。鋼に閉ざされた空か。地を這いながらお前に焦がれる者達か。」
 窓際に立つ日輪の側に寄る。一瞬だけ、おしろいの薄くのった顔を強ばらせた囚われ人に眉を寄せる。
 吉原は夜の街だ。外界を太陽が照らしているだろう今の時間は大概の見世はのれんを下ろし、道を行くも下男や禿などの、吉原で働く者達ばかりになる。見下ろす鳳仙の眼にも、それ以外のものは見当たらない。が、突然胸を掻き毟られるような情動に駆られた。
「何をっ?」
 手首を掴まれた日輪が叫ぶ。月詠以上に細い、骨と皮のような細い手首だ。眉が寄せられ、きれいな顔が歪む。力の加減ができていないことに、今更気づく。が、手を離すことも力を弱めることすら思いつかなかった。
「何がお前を外へと呼ぶ。」
「な、なんのこと?」
「焦がれるか。外を望むか。陽の光が恋しいか。」
「人は、」
 掠れそうな声で、それでも日輪は言葉を紡いだ。今まで何度も口にし、その度に鳳仙の逆鱗に触れてきた言葉だ。
「人は、おひさまを望むものさ。どんなに後ろめたくても、どんなに焼け付くような光でも、あれがなくては生きていけない。あなたたちだって同じだよ。」
「同じなものか。」
 強まる拘束に、小さな呻き声が上がる。痛みに涙を浮かべながら、日輪は鳳仙を見上げた。
「儂に太陽などいらぬ。」
「鳳仙っ。」
「今、お前を呼んだのは何だ。」
 更なる問いに、日輪は息を飲んだ。その瞬間入った力に、悲鳴と鈍い音が重なる。手を離すと、手のひらへと込める力を失った手首を押さえ、遊女の細い身体が崩れ落ちる。
「お前はどこへも行けぬ。」
 折れたか、少なくともひびは入っただろう手首の痛みに伏していた顔が上がる。白い顔は、たった今自分を痛めつけた手が裾をまくり、足首に伸ばされたことでさっと青ざめた。
「どこへもやらぬ。誰が望もうと、どこへも行かさぬ。誰にも触れさせぬ。元老のジジィ共にも、」
「鳳仙っ。」
(それにしても、日輪太夫の人気はもの凄いですな。大人だけでない、まだ年端もいかないガキまでが、彼女に会いたいと通っているそうで。)

「どこの馬の骨とも知れぬ小童にもな。」  

 声にすらならない悲鳴に、飛び込んできたのは月詠だった。日輪の名を呼び、思わず足を止める。灰銀の視線は、吉原の楼主ではなくその足下に倒れ血を流す女のみに注がれる。
「日輪……日輪、日輪ぁぁっ?」
 駆け寄り、抱き起こす。力のない右手と、朱に染まった両足首に絶句した。月詠は戦う術を修めている、その足の傷がどの腱をどう裂いているか、一目で判ったのだろう。
「日輪っ………鳳仙様、なぜっ。」
「鳥を逃がさぬために羽根を切るのは、当たり前であろう?」
 灰銀が燃えるように輝いた。立ち上がろうとした月詠を、抑えたのは当の日輪だった。
「いいの……月詠、わたしはへいきだから。」
「日輪っ。」
「だいじょうぶ………大丈夫だから。」
 自分を護ろうとする少女にそう笑い、日輪は鳳仙を見上げる。
「羽根を切られれば鳥は、確かに鳥かごの中でしか生きられなくなる。でも、人はそうじゃない。」
 まっすぐな瞳が、鳳仙を映す。少しも笑っていない己の影に、鳳仙は狼狽えた。
「その場所を鳥かごと思うかどうかは、足があるかどうかじゃない。そこに、理由を見いだせるかどうかなのよ。」




                               ~続く~

by wakame81 | 2009-05-16 02:29 | 小説。  

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