お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

橘かおる朝風に:中

先生捏造できるのもいまのうちでしょうかねー。
というか、晋助の先生大好き度合いをあげすぎたような。





 奥から小太郎の声がする。一度書庫の中へと顔を向けてから、松陽は行きましょうか、と晋助を促した。
「これ、お借りしていいですかっ?」
 小太郎が取り出したのは『史記』だ。難しいタイトルに、松陽が苦笑する。
「読むのが大変ですよ?」
「がんばりますっ。」
「本の虫になりすぎないようにね?」
「小太郎、こっちはどうだ?」
 書庫の別の場所に向かっていた晋助が、別の本を持ってくる。
「南総里見八犬伝?」
「先生が、この前俺にかしてくれたんだ。これ、一かん。おもしろいぞ。」
「先生が?」
 丸くなった琥珀が、松陽を見上げる。
「難しい本だけでなく、晋助や小太郎にはこういう娯楽小説も大事ですよ。」
「はい。」
 小太郎は頷いて、差し出された本を受け取る。
「おもしろい?」
「うんっ。八人の侍たちが、八つの玉のうんめいにみちびかれて仲間になるんだ。」
 書庫の中で、晋助は自分的燃えポイントを語る。一巻ではないのだが、信乃と現八の屋根の上での戦いや、処刑される荘助を助けに行くところなど。
「それで、智の玉をもつ兄弟が出てくるんだけど、これは仲間にならないでどっか行っちゃうんだ。かたきうちの方が、大事なんだって言って。わかんないよな、うんめいの兄弟と出会えたのに。」
「晋助。」
 呼ばれ、我に返る。小太郎が、口をへの字に曲げてこっちを見ている。
「俺はまだ、読んでない。」
「うん?」
「あらすじを先に言うな。」
「あ。」
 慌てて口を押さえる。小太郎は持っていた一巻を、晋助に押し返す。
「あ、小太郎っ。」
「晋助が全部しゃべっちゃったからもういい。」
「え、そんなっ。」
「晋助のばか。」
「ごめんっ、ごめんって小太郎っ。だいじょうぶ、一かんはまだそんなに話すすまないから、お姫さまと犬しか出てこないからっ。」
 ぶーたれる小太郎に、一巻を握らせようと腕を掴む。
「ごめん小太郎っ。もうあらすじのこと言わないからっ。これ本当におもしろいんだ、先生がすすめてくれたくらいおもしろいんだっ。」
「わかった、わかったから。」
 渋々という顔で、小太郎は本を受け取った。松陽はいつの間にかいない。と、書庫の外から声がかかった。
「二人とも、お茶が入りましたよ。」
「「はーいっ。」」
 競うように外へ出る。お茶と一緒に、皿に干しイチジクが乗っていた。学友の女子二人が、干しイチジクの盛られた大きなお皿を抱え、部屋を出て行く。
 そういえば、こんな風に、甘味が出てくるようになったのもここ何ヶ月くらいだと思う。
「「いただきます。」」
 手を合わせて、湯飲みを取る。新茶はまだだろうが、それでも香り高い匂いと味とあたたかさが、晋助の口先をただよう。
 小太郎は、一口飲んでから干しイチジクに手を伸ばした。
 よく食べられるものだ。中のつぶつぶの種が、晋助は好きになれない。けれど松陽が出してくれたものだし、好き嫌いするなと小太郎に怒られそうなので我慢して口に運ぶ。あまり噛まないで飲み込み、お茶で口直しをする。と、隣から小太郎が眉をひそめた。
「丸のみするな。のどにつまるし、作ってくれた人にもうしわけないだろう。88回はよくかめ。」
「米じゃないだろ。」
「お百姓さんの苦労は同じだ。」
 目の前では松陽がにこにこ笑っている。晋助は我慢して、残る一個を口に放り、ぐちぐちと噛みつぶした。
「さて。」
 二杯目のお茶を淹れてから、松陽は口を開いた。晋助も小太郎も急いで居住まいを正す。
「銀時と、どうしたのですか?」
 小太郎がはっと息を飲み、そして俯く。袴の上に置かれた両手が、ぎゅっと握りしめられる。
 今日は風が強い日だった。時々障子ががたがたと揺れ、木がざわざわと鳴る。その合間に、庭で学友達の遊ぶ声や、鳥の鳴く声が聞こえてくる。ほーほけきょなら判る。チチ、チチと鳴くのは何だったか。頭の隅っこで考えても、思い出せない。
 松陽は、二度尋ねようとはしない。小太郎の頭はだんだん下がって、束ねた髪がだらりと落ちる。
 我慢しきれずに、口を挟んだ。
「小太郎が、こいのぼりを銀時にあげようとしたんです。」
「晋助っ。」
「和田のいえの、大きなやつ。先生のおうちにはないと聞いてたから、銀時にあげようとしたんです。でも、銀時がそんなのいらないって言って。」
 文句を言おうとしたのか口を開いた小太郎は、結局何も言わずまた俯いた。松陽は、二度眼を瞬かせて、ゆっくりと口を開く。
「施しを、しようとしたのではないのでしょう?」
「もちろんですっ。」
 小太郎がばっと顔を上げた。出された声が、かすかに裏返る。
「銀時は持ってないし、俺は和田の家と桂の家のと二つあるから、かたほうあげようと思って、それだけなんです。銀時にりっぱな侍になってほしくて、あげたかったんです。ほどこしなんかじゃないんですっ。」
 声が、だんだん掠れていく。それに合わせて小太郎の顔も下がり、最後にはまた俯いてしまう。
「それなのに、あいつ………。」
「そうでしたか。」
 師の声は柔らかかった。まっすぐ顔を上げている晋助は、端の下がった眉も細められた眼も優しく笑う口も何もかも、松陽が怒っているのではないことを見る。俯いているけれど、言葉を投げかけられた小太郎もそれは感じているはずだ。
「銀時が、喜んでくれると思った?」
 小太郎は小さく頷く。
「それが、いらないと言われて頭に来た?」
 小太郎は、小さく頷く。
「今は?」
「………わかりません。」
 やっと聞き取れるくらいの声で、小太郎は呟いた。
「銀時がなんでいらないって言ったのか、わからないんです。こいのぼりがほしくないわけがないのに。」
「欲しいと、銀時の口から聞きましたか?」
 小太郎は、答えない。晋助にも判らない。
 ちらほらと昇り始めたこいのぼりを見て、どんなものか小太郎に教えられて、「ふーん」と呟いたのは興味なさそうな眼だ。でも、内心で羨ましがっていたのかそうでないのか、その顔からはとても読み取れなかった。
「小太郎。あなたが銀時のためを思ってやったことでも、銀時にはそうじゃない場合もあります。銀時にはいらないものだったり、見下されてるとあの子が感じたり。」
「そんなっ。」
「勿論あなたにはそんなつもりはないでしょう。でも、そう取られることもあるということです。」
 怒られているのではないはずなのに、小太郎はどんどん小さくなっていく。助け船を出そうと晋助は何度も口を開きかけたが、言葉がまとまらず、出てこない。結局、俯いた頭のしっぽと先生の顔を、何度も見比べるだけになってしまう。
「………でも、俺は。」
 やがて、俯いたまま小太郎が口を開いた。
「俺は、もっと、銀時と。」
 そこまで言って、また口をつぐむ。口を出してはいけないと悟り、晋助も押し黙った。
 松陽は子供達を見やり、ゆっくりと息を吐き出す。
「小太郎、晋助。あなたたちは、たくさんのものを持っています。その中には、銀時の持っていないものもあります。それはあなたたちの幸せであっても、銀時の不幸とは限らない。決めるのはあの子です。何が必要で、何を選べばいいのかも。」
 晋助は師の顔をじっと見つめる。その顔はとても穏やかだった。口元はいつものように微笑んでいて、眼は優しく細められて、困ったように眉尻が下がるのも珍しくはなかった。
 けれど、初めて見る顔だと感じた。
「ただ、あの子は知らなさすぎる。持っていないことを当たり前と思っていても、持つことの意味を知らない。おそらく、望むということすら、ね。」
 そこで一度言葉を切り、もう冷めたお茶を手に取る。口へは運ばず、膝の上のそれに視線が落とされる。
 こんな風に、自分たちの顔を見ないで語る師も、晋助は初めて見た。
「私も、あの子にたくさんのものを教えたいと思っています。けれど、私からでは絶対教えられないものもある。私が未熟ゆえに、教えきれないことも。」
「そんなはず、ありませんっ。」
 このひとに、教えられないものなんてない。思わず声を上げた晋助に、松陽は顔を上げて小さく笑う。
「その時は、あなたたちが教えてあげてくださいね。」
 小太郎が顔を上げる。いつもまっすぐで強い琥珀は、少し弱々しくて、けれどしなやかだった。
「はい。」
 小さな答えに、松陽は深く頷く。負けじと晋助も大きな声で答えると、こちらを向いて同じように笑ってくれた。
 と、視線が廊下の方へ向く。
「どうしました?」
「先生ー。」
 恐る恐る障子を開けて顔を覗かせたのは、さっきの女子たちだ。
「イチジク、足りなくなっちゃった。」
「そうですか。うーん、まだ残っていたかなぁ。」
 立ち上がる。その声はいつもの深く、しなやかな色に戻っていた。
「まだもらっていない子は、何人くらいいますか?」
「えーっと、三人、かな。」
「銀時は?」
「あ。まだです。」
「あ。」
 小さな声に小太郎だけが気づき、視線が向けられる。
 そうだ。今気がついた。松陽がこうやって毎日甘い物を出すようになったのは、銀時が来てからだ。




                                  ~続く~
[PR]

by wakame81 | 2009-04-27 00:16 | 小説。  

<< 橘かおる朝風に:後 橘かおる朝風に:上 >>