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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~8月12日:前編

四日遅れでやっと新八誕生日。遅くなってごめんよー。
&吉原編終了後フライングネタ。どうしても本誌ベースに合わせたかったし、そうすると時間軸は吉原編あとになるだろうし、そして何より降ってきたのが吉原でのネタだったので。





 新八がスナック「お登瀬」を出たのは、夜もだいぶ遅くなったころだった。
 頭の中が何か重石をつめこまれたように重い。その重みでまっすぐに歩けない。もちろんアルコールの類なんて一滴も飲んでない、と思う。パーティー参加者が新八の知らない間にグラスに一服盛っていなければ。
 ふらついた様子の新八に、お登瀬は泊まっていくように勧めた。それを断ったのは、運悪く今日の休みを確保できなかった姉のためだ。お妙が帰ってきたときにちゃんとした朝食は用意してやりたいし、それに自分の誕生日だからといってお妙を放って外泊なんかできない。姉は、帰ってきたらまず新八に誕生日おめでとうを言いたいだろうから。
 そんなわけで、新八は一人家路についた。お登瀬は銀時に送らせようともしたが、当の本人は新八以上に潰れていたので。
 夜ともなれば、猛暑の熱気はいくらか和らぐ。それは、眠らない街かぶき町も同じこと。
 ただ、大通りではネオンの明かりや客引きの声が頭に響いて鬱陶しいため、新八は細い裏通りを行くことにした。
 通りを幾つか隔てて、街の喧騒はどこか遠い。
 夜の風が新八を通り過ぎていく、その涼しさが心地いい。
 やっぱり一人で帰ってよかった、と、酔い覚ましがてらにどんどん帰途を外れていく新八は、ふと立ち止まり耳を澄ました。
 女の悲鳴。男の怒号。バケツか何かをぶちまけたような音。
 酔いはいっぺんに吹き飛んだ。なお気合を入れるように両手でほほを叩く。ただ事ではない様子に、音を頼りに新八は走り出した。
 事件現場はすぐ近くだった。
「何をしてるんですかっ!」
 女を抱えた三人組の男に出会い頭に怒鳴りつけた。振り向いた男たちの頭から、ぴょこんと伸びた三本の触角。天人だ。その三人に抱えられた女は、猿轡でもかまされているのか言葉になりきらない唸り声を上げる。
「その人を離せっ。」
 叫んでから、今日は竹刀も何も持ち歩いていないことを思い出す。
「ん~~~? なんだぁこのガキぁ。」
 うろたえる新八に、男の一人が抱えていた女の足から手を離した。新八と女の間をふさぐように、ゆっくりと近づく。
「おいおいガキがこんなところうろついていい時間じゃねぇだろ。とっととおうちに帰れやボク?」
 少し上がった語尾に、馬鹿にするような感情を感じた。キっと男たちを睨みつけ、もう一度叫ぶ。
「その人を離せっ。」
「へーぇ?」
 男が懐に手を入れた。にたりと口の端を持ち上げて笑う。あきらかに新八を侮っている。
 懐の中のものを取り出させる時間など与えるつもりは無かった。ぱっと横へ走る。侮るのは新八がガキだからか。それとも何の武器を持たないからか。
 武器などない?
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
 ここは砂以外何も無い砂漠ではないのだ。道の端にはゴミ袋やらビールケースやらが積まれている。そこに転がっていた酒瓶をつかみ、立ち塞がる男へと迫る。男が拳銃を取り出した、その顔目掛けて瓶を投げつける。
「うぉっ?」
 飛んできた瓶に男は両手で顔をかばった。空とはいえそれなりの大きさだ、当然それに見合った重量と、投げつけられた勢いが乗って男がよろめく。そこへさらに飛び蹴りを食らわせる。全体重をかけて攻撃に男は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
 あと二人、と体勢を直した新八は息を飲んだ。女を抱えたままの男が拳銃をこちらに向ける。
「ガキがふざけやがってっ! 死ねやぁぁぁっ!!」
 思わず目をつぶる。が、銃声は鳴らず代わりに何かが降ってくる気配を感じた。
「なに……っ?」
 目を開いた新八が見たのは、翻る黒い僧衣の後姿。束ねた黒髪が舞い、錫杖が音を立てる。一瞬遅れて拳銃が空を飛び、二つのうめき声がそれに続いた。
「大事無いか、新八君。」
 すっと立ち上がり振り向いたその姿に、新八はほっと息を吐いた。
「桂さん。」


 そのあとすぐにエリザベスと桂の同志たちがやってきて、男たちをふん縛って連れて行った。捕われていた女も怯えた表情を見せたが、エリザベスの手刀が首筋に入り、気絶させられてから保護された。
「………保護でいいんですよね。」
「仕方あるまい。彼女らは自分たちを狙うものとそうでないものの区別がつかん。彼女の警戒を解けるものは俺の手にもいるが、生憎そのものも同じように狙われる立場だからな。」
 エリザベスの腕で大事そうに運ばれる彼女の顔を新八は伺い見た。まとうのは地味でぼろぼろの着物、けれど顔立ちや雰囲気に、華やかというかけばけばしい空気を感じる。
「………あの人は、吉原の人ですか?」
 小さな問いかけに桂は新八を見た。切れ長の瞳が少しだけ見開かれる。
 攘夷に関わることだったら教えてくれないかもと半ば諦めてはいたが、桂は首肯した。
「新八君は聡いな。」
「どうして、あの人が追われるんです。もう地下吉原はなくなって、自由なはずでしょう?」
 あの場所で働かされていたのは、殆どが春雨にかどわかされたものたちだ。自らを縛る借金も何も無いのに、何故。
「新八君は、地下吉原についてどこまで知っている?」
 逆に問われて、新八は考え込む。
「えーっと………開国後に天人が作った遊郭で、それを統べるのは元春雨の≪夜王≫で………。」
「それから?」
「あとは………幕府の暗部とつながりがあって、悪政の温床に………あっ。」
 桂はうなづく。
 吉原の女たちが逃亡を許されなかった理由のひとつは、あの場所が政に関わる天人の密会場所になっていたからだ。接待に借り出されて、客を取らされながら女たちは密約、取引、その他重要な情報を見聞きすることになる。
 下手をすれば世界をひっくり返すことになりかねない情報を握った女たちが、今檻から逃れて外界に存在するのだ。秘密を得ようとする者たちや、秘密を知られたくない者たちに狙われるのは当然だ。
「それで、強引にでも保護を?」
「我々とて情報は欲しいからな。それに、他の組織に任せてなどおけん。」
「近藤さんたちは?」
 口にしてからしまったと思った。昨冬には共闘したこともあるし新八にとってはそれぞれ気のおけない桂と近藤らだが、彼ら自身は敵対する立場にあるのだ。
 慌てて謝ろうとした新八より先に、桂は口を開いた。
「奴等の上には幕府、引いては天導衆がいる。」
 息を飲む。確かに真選組は女たちを助けてくれるだろうが、その上司はそうではない。
「それに、せっかく地上に出てこられたというのに野蛮な狗共に匿われては彼女たちも心が休まらんだろう。売り物にされ傷ついた女子の心の機微などこれっぽっちも理解できん芋だからな。ばーかばーか真選組のばーか。」
「………あんたのほうが理解できないと思いますけど。」
 まぁうざいけど害はないか。
 そう自分を納得させる新八に、桂は目を細めた。
「さて。夜も遅いし、送っていってやろう。」



                              ~続く~

by wakame81 | 2008-08-16 21:53 | 小説:星は何処  

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