諸事情、てか季節あわせるためだけに、序章だけ先にアップします。続きは、ヅラ誕とリクとその他もろもろの後(爆)。
沖田誕生日は、おそらく明日に間に合いません(爆)。遅れるけどアップはします、多分。
≪獣≫復活は、日本中の退魔業者や妖魔に恐怖と驚きを与えたらしい。
「あーもう、いい加減にしてほしいよ。」
≪結社≫の追跡をしていた山崎は、久しぶりに寮に戻った際にかけてこられた電話を切った後、そうぼやいた。
「どうしたんだ?」
夜勤明けの原田が、眠そうな目をこすりながら尋ねる。
「実家から電話があったんですよ。」
「良かったじゃないか。」
「よくありませんよー。」
やれやれと首を振って山崎はぼやく。
「≪獣≫が復活したって本当かとか、京都が攻められる危険はないのかとか、挙げ句の果てには組辞めて帰ってこいですからね。」
「そいつは弱ったな。」
原田は苦笑いを浮かべようとして、大きなあくびを漏らした。
「山崎は京都出身だったか。比叡山か?」
「愛宕山ですよ。本家じゃないですけどね。」
「そうか、実家じゃ大変だろうな。」
「びくついてるだけですよ。狙いは東京らしいって説明してんのに。」
大げさにため息をつく姿に、原田はおかしそうに笑う。それを収めてから、改めて口を開いた。
「山崎も信じているんだな、桂の言った言葉を。」
≪獣≫は東京にいる、狙いは熊野でもどこでもなく、東京だと。≪出雲≫が各地に伝えた情報の根拠は、ただ桂の言葉のみなのだ。
日本最高の夢見の巫女の口添えでも、外れたらという不安は拭えないらしい。東京魔方陣の立て直しにいそしむはずの≪出雲≫は、各地の不安を収めることに奔走していた。
「桂を信じたわけじゃないですけどね。まぁ、≪獣≫と深い繋がりがあるってのは確かみたいですし。」
それに、と山崎は、真っ直ぐな眼をしてみせた。
「局長と副長が信じたことですから。」
「………そうだな。」
原田も深く頷く。
大らかな人柄と親しみやすさと真っ直ぐな心根で元から人望の高い近藤ではあったが、国技館の事件の後さらに組内での支持は高まった。暴走した沖田を止めようと素手で立ち向かい、重傷を負った後も「それでも総悟は総悟だろ?」と、あっけらかんと言い放ったのだ。これには土方も、「俺があんだけ悩んだのがバカみてーじゃねぇか」と苦笑したという。
参謀の伊東は「甘すぎる」と批判したらしいが、最後には近藤の意見を通したらしい。その時、どんなやりとりが彼らそして沖田と桂の間にあったのかは、当事者以外は誰も知らない。
それでも、充分だと。山崎や原田のような、真選組創立メンバーは考えていた。
「………ま、桂があんな奴だとは思わなかったですけどね。」
「どんなヤツなの?」
顔を背けて呟かれた言葉に、尋ねてきたのは原田ではなかった。
「でぇぇぇぇっ? 旦那ぁぁぁっ?」
「やっほージミーくん。お邪魔してるよー。」
「ちょっ、なんでここへぇぇぇぇっ?」
ずざざ、と音を立てて後ずさり、廊下の壁へびったりと張り付いた。そのまま壁沿いに逃げたかったが、にんまりと笑うギンタ……≪白夜叉≫が許してくれるはずもない。
「多串くんに用があったんだけどさ。こっちに戻ってきてるって聞いたんだけど。」
「副長は、局長が都庁へ出仕したと聞いて先ほど出て行ったぞ。」
答える原田に、「あっそー」と興味なさげに応じる。
「多串くんもマメだねー。で、ジミーくん? ヅラがなんだって?」
「いえその別にそのなんでもぉぉぉ。」
「ふーん、ちょっとこっち来て話そうかぁ。」
ギンタに顔を近づけられ、山崎の顔は蒼白を通り越して土色になる。
い、言えなかった。
まさか、土方の命令で桂に張り付いていた頃、彼岸前の夜に桂とギンタがあんなことをしてたのを見てしまったことを、気づかれてはいけない!!
………という山崎の動揺などとっくにお見通しだったギンタに思いっきり脅され、他言無用を言い渡されるのはそれからほどなくの事だった。
「じゃあ、ヅラが祭祀やるんじゃないアルか。」
千代田城のお膝元、伊勢神宮とも関わりの深い神田神社の社務所に通された神楽は、出された和菓子を頬張りながら確認するように言った。
「俺は祓霊はできるが、広域の空間制御は得意というわけではない。こういう大がかりな儀式は、風水師に任せるべきであろう。」
桂は頷いて、自分の前の和菓子も神楽に差し出してやる。
「………それに。」
「あのちびアルか。」
恐怖の象徴として語られる≪獣≫の形容としてはあんまりな言葉に、桂は苦笑する。
「あれは一応、俺の幼なじみなのだが。」
「知らないアル。ギンちゃんがちびって言ってたネ。だから私もちびで充分アル。」
のまたわれた言葉に、眼を細めた。
神楽やギンタがあれを恐るべき敵ではなく、そんな風に捉えることが、ある意味救いになっていた。
「未練、というわけではないが、やはりあれの相手は譲れん。誰にもな。」
膝の上の手を、固く握りしめる。
神楽にはこう言ったが、間違いなく未練も理由にあることを、桂は自覚している。二度の敗北、その理由がこのような自分の感情によるところが大きいということも。
「なら、お前がやるヨロシ。」
未だ整理のついていない自分の内面を見透かすように、神楽はそう言った。あまりにもさらりとした物言いに、思わず自分は夕食当番を任されたのだろうかと思う。
「あのちびの誕生も、復活も、見届けたのはお前アル。大道が縁を定めたのだとしたら、それはお前のやることヨ。」
「リーダー………。」
桂は、隣に座る少女を見つめる。まだ幼い外見、普段はそれと違わぬ幼さを見せる、が、やはり永き時を生きた存在なのだと、思い知る。
「風水師………あてはあるアルか? なんだったら屁怒絽、貸してやるアルよ。」
「いや、いい。リーダーは横浜を護ることに専念してくれ。」
桂は真っ直ぐに神楽を見た。
彼女には遙かに及ばなくとも、大きな戦いを経てきた英雄の端くれなのだ。
「リーダーの強さはよく知っている。が、それは向こうも同じ。二月のように奴等の狙いが≪玉兎≫だとしたら、いざというときに横浜の竜脈を抑える人材がいる。」
神楽の小さな手が伸びて、長い黒髪を思いっきり引っ張った。
「いたたたたっ、リーダー抜ける抜ける。」
「大丈夫アル、ヅラなんだから。」
「リーダー、ヅラじゃない桂だ。」
「ヅラは心配性アル。」
髪を引っ張る手を緩める。掬い上げた手から黒絹がはらりとこぼれ落ちる。
「でも、部下の進言を聞き入れない狭量じゃないから、聞いといてやるネ。」
「………ありがとう、リーダー。」
そこへ、すっと襖が開いた。
緑色の髪と切れ長の瞳の女性、痩せこけた白装束の女性、衣紋羽織袴を身につけた河童、アメコミチックな風貌の長髪の男と頭に黒い毛を生やした白ペンギン、鮹のような外見の女性。前髪の分け方以外区別のつきづらい、二人の巫女。そして、最後に幼い少女が室内へと入ってくる。
「皆々、お集まりのようじゃ。それでは、始めさせていただく。」
それぞれが示された席に着いたのを確かめ、上座に腰を下ろした少女≪出雲の姫君≫が口を開いた。
新宿都庁前。
待つ間、煙草を吸いたい衝動に何度も駆られる。その度にここは禁煙であることを思い出し、土方は堪えた。
路上禁煙が条例で禁止され、さらに煙草の購入にTASPOが必要と、愛煙家にはだんだん厳しい世の中になってくる。が、それでも煙草を止めようとは思わなかった。
そして同時に、やけになってマナーを犯す気にもならなかった。そんなことをすれば、非難にさらされるのは土方ではない。
「あ、いたいたー。」
白のベスパが止まり、気にくわない白髪頭が下りてくる。
「多串くん、探したよー。」
「多串じゃねぇ、土方だっ。………何の用だ。」
ヘルメットを外したギンタは、やる気のない顔でへら、と笑う。煙草を吸えないイライラとも相まって、このしまりのない顔を殴ってやったらどれだけ気が空くだろうと考える。
「ヅラくんからの伝言でね。横浜の警備、本当にあれでいいのかって。」
あのことか。土方は呆れかえって息を吐いた。
沖田を妙に意識している理由は判ったが、一応解決を見た今でもこの調子だと、桂のアレは単なる過保護にしか思えなくなってくる。
「本人の強い希望だ。止める理由はねーだろ。」
「ほーい、伝えとくわ。」
「そんなあっさりでいいのかよっ!!」
またネチネチと苦情を言われるのかと半ば身構えていた土方は、思わず叫んだ。
「だってー本人の希望なら俺だって口出すつもりねーもん。」
ギンタはやる気なさそうな口調で答える。ただ。
「ま、アイツのは九年分染みついた癖みたいなもんだからさ。中々抜けきらねーわけだから。」
そう、桂を語るときだけ、眼の色が違った。なんだか、妙に優しげな。
「勘弁してちょー。」
口調は思いっきりむかつくが。
「おお、トシ! それに万事屋も!」
そこへ、野太い声が響いた。自動ドアを抜けて、近藤が手を振る。
「わざわざ来てくれたのか、いやーすまないなぁ。」
「いやいや、こっちこそすまないなー。バナナ忘れてきちまったよ。」
「万事屋ぁぁ!! そりゃどーゆーことだっ!!」
本当に殴ってやろうかと思った。都庁の目の前じゃないか、制服を着ていなかったら土方は実行しただろう。
「んで、守備は?」
ギンタがそう尋ねると、近藤は顔を曇らせた。
「ダメだ。やっぱりそんな根拠のない理由では避難勧告は出せないそうだ。」
「あーやっぱねぇ。」
東京が≪結社≫に狙われているという状況。だが、まだ推測に過ぎない今の段階では、一般人を巻き込まないように避難させるというのは難しい。ある程度の予想はついていたのだろう、眉尻を下げて頭を掻きながらギンタは答える。
「都知事に説明すんなら、≪出雲の姫君≫連れてくりゃよかったんじゃねーの?」
「それが、今は魔方陣立て直しの打ち合わせらしくてな。」
「それに、一般人にしてみりゃお姫さんもただの占い師みてーなもんだもん。素直に聞いてくれるとは限らないよー。」
ギンタの言葉は一理あった。土方とて、長年真選組として妖魔がらみの事件に関わらねば、幼い少女の言うことなど真に受けようとはしなかったろう。
「第一、あの都知事ロリコンって噂あるからさ。連れてこなくて正解だったんじゃないの?」
「何だよその噂、どこで仕入れた?」
「歌舞伎町で。」
「そんなんが都知事でいいのかよ。わざわざ銀魂キャラで当てなくても、現実通り石原都知事で良かったんじゃないのか?」
「いやトシ、その人の能力と性癖は、ベツモノだぞ!! たとえ俺が原作で黄金キャラでもお妙さんへの愛情が揺るぎないごとく!!」
「アンタの人の良さはどこまでいけば気がすむんだよ!!」
「いや、これ人の良さか?」
ギンタがそう呟いたときだった。けたたましい音を立てて、近藤の無線が鳴る。
ギンタに悪いなと手を挙げて無線に出た近藤は、二言三言言葉を交わして顔色を変えた。
七月七日午後五時四十三分。横浜中華街で再度テロが発生した。
世界は黄昏を超え、夜を迎えようとしていた。
~続く~