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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

夏の正装

早くギンタマンとヅラ誕にかからなきゃいけないのは判ってるんですが、こっちが先に固まったので。
3Z一年前、沖田&桂、と銀八先生。銀八先生相変わらず強し。
作中の文章は、菊池寛作「大島ができる話」より。

桂花美人」様へと飛んで、6月お題:夏羽織からお楽しみくださいー。


12月2日から、こちらでもお楽しみいただけます。








「『苦学こそしなかったが、他人から学資を補助されて、辛く学校を卒業した譲吉は、学生時代は勿論卒業してからの一年間は、自分の衣類や、身の廻りの物を、気にし得る余裕は少しもなかった。
 学生で居た頃は、彼はニコニコの染絣などを着て居た。高等程度の学生としては、粗服に過ぎて居た。が、衣類に対しては、無感覚で無頓着であった譲吉は、自分の着て居る絣が、ニコニコであるか何であるかさえ知らなかった。』」
 桂の朗読は、淀みないモノだった。
 抑揚のない、淡々とした語り。少しだけ低い、感情の起伏を押さえた声。下手にドラマチックに読み上げられるよりも、ずっと耳に馴染みやすい。
 加えて、他の生徒のように、読みづらい漢字でつまることもない。教科書にルビでもふってんじゃないかと思うような正確さで、流れるように言葉を紡ぐ。
 銀八が桂を当てることが多いのも、それが理由の一つだろう。
「『が、譲吉が一旦学校を卒業してからと云うものは、服装を調える必要を痛切に感じ始めたのである。彼が学生時代から、ズーッと補助を受けて居る、近藤氏の世話でちょめちょめ会社に入社した当初は、』」
「ヅラくーん、いくら地の文が××だったからって、ちょめちょめ言わないのー。」
 もちろん、適当にチャチャを入れて遊ぶのが楽しいというのもあるだろうけど。
「ヅラじゃありません、桂です。………『入社した当初は、夫(それ)が不快になるまで、自分の服装の見すぼらしさを感じたのである。』」
 じろりと銀八を睨みつけて、朗読を続ける。
 十ページはあろうかと思われる、菊池寛の「大島ができる話」を一人で朗読し終え、桂は席に着いた。
「んじゃ、解説いこっかなー。まずはシーン分けからいくか。最初はどっからどこまでだ?」
 指された生徒は少し迷ってから、「62ページの三行目まで」と答える。銀八は眠そうな顔で、更に根拠を尋ねた。
「主人公が、自分の身なりにコンプレックスを感じる場面だからです。」
「ま、そんなとこだな。書いてあるとおり、主人公は安っぽーい木綿の絣しか着てこなかった。対して、同僚の二人はネクタイ締めたり夏羽織着てたりと、身なりをびしっと決めてたワケだ。」
「先生ー、夏羽織って何ですかー?」
 上がった質問に、銀八はめんどくさそうに顔をしかめる。
「んなもんおめー、夏の羽織だよ。」
「それじゃわかりませーん。なんで、それ着てると身なり良くなるんですか?」
「うるっせーな。一から十まで説明されなきゃ判らねーガキですかお前らは。人に聞く前にまず自分で調べる努力をしろー。」
「んなこと言って、本当は自分でも判ってないんじゃないですかー?」
「んなわけねーだろ。じゃぁコレ宿題な。夏羽織が何だか、調べてくること。」
 時計をちらりと見て、銀八はそう言った。授業終了まであと数分。一つの話をまるまる朗読させた結果である。
「先生ー、ヒントはー?」
「お前らどんだけ楽したいんだよ。ちょっと調べりゃすぐ判ることでしょーが。」
 やだよこれだから、と肩をすくめた銀八の目が、睨みつけるような視線を送ってくる生徒の前で止まった。
「そうだなー、ヒントはじゃぁ、ヅラくんってことで。」


 そんなわけで。
 自称リーダーの神楽を筆頭に、クラスメイトが桂の元へと押し寄せたわけだが、「答えは言うなと、先生に言われた。」とその全てがにべもなく切り捨てられた。最初は淡々としていた態度が次第に針のように刺々しくなり、昼休みには桂の周りにはいつもどおり誰もいなくなった。
「………チャイナもかぃ、珍しいなぁ。」
 一人で弁当を広げる姿を見て、そう呟く。空いた前の席に腰を下ろせば、桂は顔を上げて眉をひそめた。
「そこは茨木の席だろう。」
「さー? 学食にでも行ってんじゃねーかぃ?」
 丁度そこへ、話題の主茨木君がパンを詰めたビニール袋を持って教室に戻ってきたのだが、沖田の視線を受けてすごすごと退室する。
「………沖田。」
「たまには外で食うのもいーんじゃねぇかぃ。天気いいし。」
「雨が降り出してきてるが。」
「梅雨の雨に打たれんのも、風情ってもんだろぃ。」
「………そうか?」
 首をかしげながらも、それ以上追求するのを止めたようだった。おむすびをもそもそと口に含む。それを見ながら沖田も、ビニール袋からコンビニのパンを取り出した。
 二人で向かい合い、黙ったまま口を動かす。いつもなら神楽が乱入して桂の弁当の半分を強奪していくが、たまに二年になってクラスの別れた友人達とお昼を食べに行くときがある。今日はそれらしい。幸か不幸か。
 桂は沖田に対し正面に座っているのだから、視線は沖田に向けられるはずだった。それが微妙にずれている。一度に口に含まれる量は少なく、咀嚼も運ぶ頻度も決して短くはなかったが、桂の頬はハムスターのように膨れている。その様子をちらちらと見ていると、口の中身を飲み込んだ桂が視線を手元に泳がせてからこちらを向いた。
「………なんだ。人の顔をじろじろ見おって。」
「べっつにー?」
「答えは教えんぞ。そう言われてるからな。」
「判ってまさぁ。」
 平然と答えて、ハムカツサンドの袋を破く。かじりつきながら、また視線は桂へと向けた。
 そもそも、銀八は「ヒントが桂」と言っただけで、「桂が答えを知っている」とは言っていない。本当に知っているようだが、その後「知ってても教えんのは反則だかんな」と釘をさした辺り、桂の口から語られなくても答えには辿り着けるのだろう。
 桂は姿勢を真っ直ぐにして、たくあんをかじっている。定規でも背中に入れてんのかと思うような真っ直ぐな背中。襟元までぴっちりと締められたシャツ。学校指定の黒いベルトに、折り目正しいズボン。目に余るのはその長い髪だけで、それだって見慣れてしまえば規律正しく着られた制服にマッチしている。
「………てか、苦しくねーのかぃ?」
「………何がだ。」
「首とか。絞まってるようにしか見えねーぜぃ。」
 第一ボタンを弛めている沖田には、とうてい楽そうには見えない。が、桂は不思議そうな顔で沖田を見つめた。
 切れ長の瞳が僅かに丸くなる。きょとん、と首をかしげる姿は、彼が同い年なんだということを思い出させる。
「別に、息苦しくとも何ともないが。」
「夏なんか、暑苦しくなんねーかぃ?」
「別に。もし暑苦しくなるのだとしたら、それは己の精進が足らんせいだ。『心頭滅却すれば火もまた涼し』というだろう。」
「どこの武士道でぃ。」
 でも確かに桂ならそうかも知れないと、ふと思った。
 どんな状況でもきっと涼しい顔で。ゲーセンみたいなはっちゃけた場ならともかく、改まった場所ではきっと浮くことはないだろう。こんな洒落っ気も何もない制服でも………いや、だからこそ。
 そして、思い当たる。
 これが、宿題の答えだ。
「………何だ。」
 自分の弁当を食べ終えた桂が、眉をひそめて沖田を見る。瞳は鋭く細められて、さっきの幼い表情は見る影もない。けれど。
「ま、去年みてーに熱くなったら、さすがにソレ邪魔なんじゃね?」
「何をする。切らんぞ絶対。」
 肩から落ちる一房に手を伸ばせば、慌てたように髪を掴んで後ずさる。必死で、少しだけ怒った表情がおかしくて。
(あ。なーるほど。)
 銀八が彼にちょっかいをかける理由が、何となく判った気がした。



                        ~Fin~
  

by wakame81 | 2008-06-14 22:46 | 小説:3Z  

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