お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

薄氷に立ち、遠く吠える:後

ジミー大活躍。そして土方、沖田両ファンの方ごめんなさい、いろいろと。






 何かおかしい。
 そう思い始めたのは、きっと山崎だけではなかっただろう。
 土方の、桂への尋問はあの後も続いた。ただし、いつも彼が見せるような、飴と鞭とマヨネーズを用いた効果的な方法ではなく、ただ殴りつけるようなそんなやり方で。そして問い詰めるのは、他の攘夷浪士やアジトの場所ではなく、「どうして捕まったのか」その一点のみ。
 普段から、「桂を捕らえたらどんな拷問しよっかなぁ。」と呟いていた沖田は、逆に牢へと一度も姿を現さなかった。日課の、土方への嫌がらせも鳴りを潜めているらしい。日常の一幕だった土方が沖田を怒鳴りつける声は、めっきり聞こえなくなっている。
 極めつけが、近藤だった。
 松平の下から戻ってから、腑抜けたようにぼーっとしている。花束を買い求め、「すまいる」に通うこともしない。
 そして今朝。
「………俺さぁ、見合いするわ。」
 猩々星王女との見合いをあれだけ渋った近藤が、へらりと笑いながらそう言ったのだ。


「どうした。」
「ひぃぃぃっ?」
 急に問いかけられて、山崎は飛び上がった。手にしていた蕎麦のどんぶりが、その拍子に揺れる。
「あっつぅぅぅっ!」
 熱い出汁汁が手にかかり、思わずどんぶりを落としてしまった。派手な音とともに、蕎麦が床に散らばる。
「あぁぁ………。」
 がっくりと山崎は肩を落とした。側にいたもう一人の隊士が、それを見て雑巾を取りに走る。
「火傷、したのではないか?」
 声をかけられ、山崎は牢の中へと視線を向ける。そこにいるのは、どこかおかしくなった真選組の中で、唯一普段と様子の変わらない、桂の姿。
「大丈夫か?」
「はぁ、まぁ。」
 変わりがない。
 それこそ、山崎には不思議だった。
 捕らえられて数日、桂は水しか口にすることを許されていない。特に命令が出たわけではないが、いつもの常でそうしていた。何も食わせず、腹が減ったそいつの目の前で、そいつの好物を食す。これは、沖田が考えた拷問だ。
 最初は取り澄ましていた容疑者も、二~三日空腹が続き、その上でこの仕打ちをされるとだんだん気を弱くしていく。けれど桂には、ちっともその兆候が見られない。
「あんた、こそ。」
「ん?」
「何で、こんなことを。」
 独り言のように、呟く。
 桂の肝が座っていることなんか、始めから承知していたはずだ。多少の拷問ではびくともしない。苦痛に耐えるどころか平然と、暴風を受ける柳のように受け流す姿はむしろ神々しく、隊士たちの間には動揺も生まれ始めているが。少なくとも山崎は、桂の器が計り知れないほど大きいことを知っている。
 その、桂が。
 あんな単純な罠も見破れなかったというのか。
(俺の変装は、簡単に見破ったくせに。)
 違和感が、どうしても拭えない。

「言っただろう。」
「罠だって気づかなかったってのは聞いたよ、でも、」
「日本の夜明けを見るためだと。」

 山崎は、顔を上げた。
 静かな笑みを浮かべ、桂も山崎を見返す。
 今、なんて。
 そう問おうとしたが、その瞳があまりにも優しげだったので、つい眼をそらす。
 そして。
「………沖田隊長。」
 ふらり、と。
 幽鬼のような顔で立つ年下の隊長を見つけ、山崎は息を呑む。
 沖田は据わった眼で、じっと桂を見つめている。
「沖田隊長?」
 山崎の呼びかけに応じる様子も見せず、つ、と牢へと歩み寄る。なぜか手にしていた雑巾を無造作に床に放り、入り口に手をかけ、がちゃりと揺らす。幾重もの鍵に、開扉を妨げられると、無機質な瞳でその鍵を見やり、次いで山崎へと振り返る。
「あ、あの。」
 無言で右手を出す沖田に、山崎は戸惑った。首を傾げてると、もう一歩沖田は山崎へと寄る。
「鍵。寄こせよ。」
「え?」
 牢を開けたいのか。中に入りたいのだと山崎は思い、頭を振る。
「すいません、鍵は全部副長が管理してまして。」
「ちっ。」
 低い舌打ち。
 改めて沖田は牢へ振り返り、さらに一歩下がった。山崎のほうへ邪魔だと言わんばかりの視線を送る。
 促され、山崎は数歩後退した。が。
「沖田隊長っ?」
 腰の刀をいきなり抜いた沖田に、思わず声を上げる。
「ちょっ、何やってんですかっ?」
「何って、ここ開けるに決まってんだろ?」
「鍵壊すつもりですかっ。そしたら桂逃げちゃいますよっ。」
「逃がさねーよ。」
 沖田の目が据わっている。違う。そんな生易しいもんじゃない。
 まるで、狂気に彩られたような。
「ここで斬る。」
「なっ?」
 本気だ。
 それを見て取った山崎は、普段鬼よりも強く恐れている沖田の腕に取りすがった。
「斬っちゃダメですっ。引き渡せって言われてんですからっ。」
「牢から抜け出して逃げようとした攘夷浪士を追跡、逃亡者は刀を奪って暴れたためにやむなく斬り捨て。この筋書きで文句あっか?」
「そーゆー問題じゃないでしょぉぉぉっ。べほっ!」
「沖田。」
 山崎を殴り飛ばした沖田を、桂の静かな声が止めた。
「どういう、つもりだ?」
「言ったとおりの筋書きでさぁ。あんたもちゃんと、オスカー取る意気込みでやってくだせぇよ。」
「真実が露見したら、お前もただではすまないだろう。」
「ま、そうですけどねぃ。」
 沖田は刀を構えなおす。
「このまま腐れ果てていくよりは、まだましでさぁ。」
「ドライバーとして生きていくのが、そんなに嫌か。別にトラックにこだわる必要はあるまい。介護タクシーだって人手を必要としている。新たな可能性に、道を拡げる気はないのか?」
「ドライバーだって事が嫌なんじゃねぇでさ。」
 殺気立った眼が桂に向けられる。
「あんたに勝ち逃げされんのが、ごめんなんだよ。」
 はらはらと見守っていた山崎は、桂の顔から表情が消えたことに気づいた。
 捕り物のたびに見る仏頂面ではない。何かを、押し殺すような。
 腰を落として、沖田は息を吐いた。もう一度吸う。そして。
「沖田っ!」
「沖田隊長っ!」
 牢の鍵を斬り捨てようとした沖田の動きを、桂の叫びと山崎の腕が押し止める。
「ダメです、牢を破るのはダメですっ!」
「離せ山崎、邪魔すんじゃねぇっ。」
「ダメです、そしたら真選組が崩壊してしまいますっ!」
 その言葉に、振り払おうとした沖田が動きを止めた。


 壊れそうだ。山崎はそう感じた。
 煉獄館を沖田と土方が潰したときよりも。
 世間を騒がす人斬りの、尻尾を掴めなかったときよりも。
 一日局長をしにきたお通を人質に取られたときよりも。
 近藤が、猩々星に嫁がされそうになったときも。
 土方がたった一人で転海屋に立ち向かったときよりも。

 伊東が、鬼兵隊と通じたときよりも。

 攘夷志士・桂小太郎の存在。
 それが、真選組の設立のきっかけであり、彼を捕らえることは真選組の悲願だったはず。
 ところが。
 それを達成した今になって、真選組が揺らごうとしている。

 魂の刃を、砕かれたかのように。


「局長も副長も、変ですっ! 局長お見合い引き受けちゃうし、副長もこんな拷問ばっかり桂に加えて副長らしくありませんっ! それなのに、今沖田隊長までこんな、らしくないことしたら、それこそ真選組が壊れちゃいますっ!」
 必死で叫ぶ。
 その言葉に、沖田から体の強ばりが少しずつ抜けていく。
「らしくねぇ、って。」
 俯き、刀を落とし。小さく沖田は呟く。
「今一番らしくねぇのは、こいつだろ。」
 山崎は顔を上げた。眼に入るのは、格子を挟んで向かい立つ、桂の姿。
 その顔に、笑みが戻っている。ただし、投獄されてからずっと見せていた余裕ある笑みではない。
 どこか、頼りなげな。
「そう、悲観するものでもないぞ沖田。」
 ゆっくりと桂は息を吐く。少し眼を伏せ、再び上げたときにはその笑みは余裕ある不敵なものへと変わっていた。
「信念を保ち続けるのも大事だがな。柔軟性がなければ、折れてしまうだろう。刀の芯が、やわらかい鉄でできているように。」
 沖田が顔を上げた。先ほどまでの狂気は、名残は残るがだいぶ鎮まっている。
「その柔軟性が、子供のとりえだとおもっていたが?」
「ガキ扱いすんなって、いつも言ってんだろぃ?」
「そうだな。」
 桂の目じりが下がる。
 たったそれだけで、笑みはとてもやわらかいものになる。
「ドライバーなど、めったに体験できるものではないぞ。何事も経験。ものの見方を、そう変えてみてはどうだ?」
「あんたと死合うより、面白くはなさそうだがなぁ。」
「やってみる前から結論を出すな。食わず嫌いは大きくなれんぞ?」
「こっちはまだまだ成長期だからなぁ。すぐにあんたを追い抜かしてやりまさぁ。」
 にっと沖田は笑った。
 その顔を、山崎は久しぶりに見た気がした。


 引渡しの後。
 近藤は見合いのために登城し、土方と沖田はドライバーとしての生き方を探して、真選組を去った。その直後、桂脱獄の報せが入った。
 にわかに真選組は活気づき、そしてさらにゲーマー星人の逮捕と、近藤ら三人の復帰に屯所は沸いた。
 手引きしたのは、桂だという。
「結局あの野郎に踊らされたな。」
 浮かれた隊士たちによって宴会が開かれる中。いつものように酒を飲まずに離れたところから馬鹿騒ぎを見ていた土方が呟く。
「桂の野郎、諦めたふりしやがって。」
「でも、よかったです。局長たちが戻ってきてくれて、元の体にも戻れて。」
「よかねーよ。俺たちは奴に借りを作ったようなもんだぞ?」
 飲みますか?と一升瓶を持ってきた山崎に手を振って断り、じろりと睨みつける。
 一瞬竦みあがる山崎に、珍しく土方は相好を崩した。
「まぁ、最悪、じゃねーな。」
 全裸ではしゃぐ近藤を。激辛ゲゲボドリンクを作っては捕まえた隊士たちに飲ませる沖田を。悲鳴や野次を飛ばしながらも嬉しそうな隊士たちを。
 常にない眼差しで、土方は見やる。
「借りはいずれ返してやる。返す、次があるんだからな。」
 そう、決意を口にする土方の横で。
 山崎は眼差しを遠くして頷く。


『山崎。すまぬ………ありがとう。』
 沖田の暴走が落ち着いた後の、桂の顔が。
 いつまでたっても消えてくれそうになかった。



                              ~続く~
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by wakame81 | 2008-02-24 11:28 | 小説。  

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