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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

君想ふ唄~1月8日~

また子誕生日。

高またのはずが、高桂初詣デートになってしまったのは、世界七不思議に匹敵する謎(爆)

初詣パートは、原作開始前の時間軸です。






 それは、年も明けたばかりの、ある日の事だった。
「買い物に行くぞ。」
「………は?」
 まだ惰眠をむさぼっていたいところを叩き起こして朝食の膳を突き付けてきた家の主の言葉に、高杉は思いっきり顔をしかめた。


「………さびぃなぁ。」
「そんな薄着だからだ。それに、京は江戸よりも寒かろう。まさか、寒さから逃げるために江戸に出てきたわけではあるまいな。侍がそんな事でどうする。精進が足らんぞ精進が。」
「もこもこ厚着してるヤツに言われたかねぇな。」
 身体の細さを隠すために元から重ね着をする方ではあったが、それでも目に余るほど着ぶくれした同行者に、高杉は呆れかえった。そもそも、何で道の真ん中で説教が始まるんだ、今更だが。
「体温が下がれば体調も崩しやすくなる。保温のために重ね着をするのは当然のことだろう。お前のように、薄着で寒いと文句を言う方が筋違いだ。」
「着ぶくれして身動き取れなくなるよかマシだろ。」
「身動きが取れぬ訳ではないぞ。これはこれで、色々と便利なのだ。」
「へーへー。」
 桂の懐には、大小様々な爆薬、煙幕、催涙弾その他もろもろがつまっている。いつでも破壊活動を行えるし、狗共に追われても対処できる。
「戦中にはあれだけ、刀に拘ってたヤツがなぁ。」
「何の話だ。言っておくが、最初に我が軍に火薬の類を持ち込んだのは、お前と坂本だ。」
「俺等が最初でもねぇだろうがよ。」
 喉を震わせて、高杉は笑った。それを見て桂は顔をしかめる。行儀が悪い、と説教が始まる前に、高杉は遮るように口を開いた。
「で?」
「で?とは?」
「店もまだろくにやってねぇ正月に、何の買い物だよ。」
 そう尋ねると、桂はやけに得意げに笑った。
「テメェ、何企んでやがる。」
 嫌な予感がして、もう一度尋ねた。返事は期待していないが。
 そして、予想通り桂は、その問いに答えることなく、高杉を目的地へと誘ったのだった。
「………って、何で神社なんだ。」
「他に開いてる店なぞろくにないだろう。」
 気の早いデパートなら、新春大売り出しとかでセールをしている。それを突っ込もうかと思ったが、高杉は止めた。
 そんなことを言い出したら、このバカが「そっちに行こう」とか言い出しかねない。初詣客でにぎわう神社も相当な人混みだが、セールに群がる客よりはまだマシだ。
「てか、何買うつもりでいやがるんだ。」
「そうだな………見て決めるか。」
「何だそりゃ。」
 ますます訳がわからない。
 せっかくだし一緒に初詣………な訳はない。そんなかわいげのあるヤツではない。
「ほら、行くぞ。」
 ため息をついて高杉は、さっさと鳥居をくぐる桂を追った。
「人が多い、はぐれるなよ。」
「そりゃこっちの台詞だ。」


 攘夷の達成を祈願に来たのでないことは、すぐに判った。
 もしそうならまっすぐに本殿へ向かうだろう桂は、そうはせずに境内に設けられた出店を覗いて回っている。
「それにしても、本当に凄い人出だ。」
「そりゃぁなぁ。」
 人混みを掻き分けて先を行く桂についていきながら、高杉は答えた。
「今ここで、お前さんの懐のものに火でもつけりゃぁ、面白いだろうなぁ。」
「そんなことをして、何が楽しい。」
 むっとした声で桂は答える。
「祭りに花火はつきものだろう?」
「こんなものは花火とは言えないぞ。第一、関わりのない市民を巻き込んでどうする。そんなことは、天人共の大使館か、ターミナルに向けてやる方が有意義だろうが。」
 人々は皆、自分の楽しみに目を奪われていて、今すれ違った二人のお尋ね者に気づく様子はない。それでも、声を潜めて桂は続けた。
「奴らは、江戸の民に幾ら被害が出ようがお構いなしなのだ。思い知らせてやるなら、直接攻撃する他あるまい。」
「幕府は痛い思いをするかもなぁ。責任は全部ヤツらがおっ被るんだからなぁ。」
「高杉。」
 ニヤニヤと笑いながら言う高杉を、小さな声で制する。
「我らの目的は天人の排除だ。倒幕も、そこに至るまでの過程に過ぎん。敵を間違えるな。」
「敵、ねぇ。」
 吐き捨てるように呟いて、高杉は桂の横顔を眺めた。
 桂は今でも、人間に甘い夢を見ている。
 憎むべきは天人のみとし、狗共もひいては幕府すら、心から嫌悪しているわけではない。立ちふさがれば容赦はしないが、邪魔をするのでも、戦略的に必要なのでもなければ、積極的に排除しようとはしない。
 あの人を排除したのは、幕府だというのに。
「そう、眉間にしわなど寄せるな。」
 不意に、桂の指が高杉の顔に触れた。
「せっかくの祭りだというのに、そんな顔をするな。」
 白く長い指は、寄ったしわを伸ばすように、眉間に添えられる。
「祭り、好きだろう?」
「………ガキ扱いしてんじゃねぇよ。」
「似たようなものだろう。」
 舌打ちして高杉は、触れてくる腕を掴み、顔から離した。その仕草に、桂は口を曲げる。
「高杉。」
「拗ねた顔してんじゃねぇよ。どっちがガキなんだか。」
「ガキじゃない、桂だ。」
 つい、と踵を返して、桂は人混みを行く。
「おい。」
 はぐれるな、つったのは誰だと思ってんだ。頭を掻いてから、高杉は人混みに消えそうな黒く長い髪を追う。
 本殿へ向かう流れと出店を見て歩く流れの境目で、見失うかと一瞬思ったが、すぐに追いつくことができた。ある店の先で、売り物を手にとってしげしげと眺めている。
「ヅラぁ。」
「ヅラじゃない、桂だ。高杉、これなんかどうだろう。」
 言って差し出されたそれを、高杉も手にとった。
 小さな柘植の櫛。
「………どうだろうって、どうすんだこんなモノ。」
 なめらかな手触りや、きれいに描いた曲線や、紐でつけられた小さな鈴など、品の良いのは認める。けれどこれは、明らかに。
「女物なんか求めて、どうするってんだ?」
「また子殿に、どうかと思ってな。」
「………は?」
 いきなり出てきた名前に、高杉は眼を瞬かせる。
「は?ではない、また子殿だ。」
「だからなんだってアイツに。」
 まさか、土産とでも言わせるつもりだろうか。意味がわからずそう考えていた高杉は、次の桂の言葉に眼を点にした。
「誕生日が近いのであろう? 京にお前を訪ねたときに、そう言われたぞ。………違ったのか?」
「………何でテメェが俺の部下の誕生日なんざ知ってんだよ。」


 また子が高杉にではなく桂にそれを言ったこととか。
 高杉から欲しいから協力しろと言われたことを、当の高杉にばらしたこととか。
 色々言いたいことはあったが、結局その櫛を包まされ、また子へと届けさせられた。高杉名義で。
 それ以降も、年始には年賀状と共に、また子へ誕生日プレゼントを贈るよう文が届けられた。………まさか、妖刀紅桜の一件で桂と袂を分かった後も、それが送られるとは思わなかったが。
「アイツはお前を何だと思ってやがるんだ?」
 いくつもの情報屋を経由して届けられた文をくしゃくしゃに丸めて、高杉はまた子に問う。
「アタシだってわかんないっす。ていうか、あのこと晋助様にばらすなんてムカツク。」
「まぁ、アイツはアホだしな。」
 男と女の間には深い溝があるが、それにしても桂は女心を読まなさすぎる。ぷーっとふくれっ面をするまた子に、「ほらよ。」と高杉は小さな包みを放った。
 途端に満面の笑顔になって、また子はそれを受け取った。
「ありがとうございますっす晋助様っ。開けてもいいっすか?」
「好きにしろ。」
「はいっす! ………わぁっ。」
 山吹色の液体の入った硝子の小瓶に、また子は歓声を上げる。キャップを押して、中の香水を手首に吹き付けて、香りを嗅ぐ。
「いい匂いっす………晋助様、ありがとうっす!! 大切にするっす!!」
「また子さん。今度の仕事のことで話があるんですけど。」
「うっさいっす今行くっす、武市変態の野暮天。」
「何ですかその言い草。」
 襖を開けて顔を出した武市に、また子はしかめっ面を見せる。が、すぐにごまかすような笑いを高杉に向けた。
「いいから行ってこい。」
「はいっす!」
 びっと片手を上げて、また子は出て行く。
 閉じられた襖から、高杉は視線を丸めて放った文へと向けた。
「………ったく、ヅラのヤツ。」
 口の端を持ち上げる。
 浮かぶのは、笑みか嘲りか。
「こんなもんでほだされるなんざ思うなよ?」
 遠い地にいるかつての戦友に向けて、高杉はそう呟いた。




                        ~Fin~

 

by wakame81 | 2008-01-08 22:40 | 小説:君想ふ唄  

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