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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

君想ふ唄~9月7日~

二週間遅れでエリザベス誕生日。………なぜかエリーが乙女ちっく。






 自分がここにいるのは、きっと。


「ではエリザベス、行こうか。」
 いつもの小袖に羽織ではなく、世を忍ぶ僧衣でもなく、何故か藍色の振袖で、そう桂は言った。いや、今はヅラ子か。
『大丈夫ですか桂さん?』
「桂じゃないヅラ子だ。この姿が一番、真撰組の目を欺けるのだ。」
 外見どころか性別まで偽られては、ムリもないだろう、が。
『その格好では、何かあったら大変じゃないですか?』
「案ずるな。この姿もだいぶ慣れたのでな。多少の立ち回りなど問題ない。」
『なら、いいですけど。』
「それともアレか。もしウッチー殿に見られたらと不安なのか?その時は、しっかり釈明させてもらう故、心配するな。」
『いえ、そうじゃなくて。』
「なら何も問題はない。行くぞエリザベス。」
 そう言って、ヅラ子はエリザベスの手をとった。
 桂の時はしない仕草。かまっ娘倶楽部で何を教わっているのか、本当に心配になる。

 この人は。
 自分がここにいる意味を、あまりわかっていない。


 いつもの散歩なら、わざわざ変装はしない。攘夷活動なら、それこそ「桂小太郎」だと一発で判るように普段着で動く。情報収集が目的なら、まあ変装はするが、もっと地味な格好を選ぶ。
 何でヅラ子の姿なのか。
(………。)
 判っていることを敢えて聞く必要はない。
 エリザベスはそう割り切って、ヅラ子との「お出掛け」に付き合った。


「これなどどうだろうエリザベス。可愛いぞ。きっとウッチー殿も気に入るだろう。」
『ヅラ子さん。自分がステファン人形をあげるのは、少し変なのでは。』
「そうか? 俺なら嬉しいが。」


 かと思えば。


「幾松殿。お邪魔する。」
「………アンタ何やってるの?」
 とか。


 そして。
「エリザベス、見ろ!」
 大江戸タワーの展望台の外側に、女装してるってのに出てみたり。
「空が、近いな。」
 吹き上げる風に髪をたなびかせかながら、ヅラ子は空を見上げた。
 右手をゆっくりと上げ、空に掌をかざす。そこにある何かを掴もうとするかのように、手がおよいだ。
『危ないですよ。台風が過ぎたばかりなのに。』
 おろおろと、エリザベスはプラカードを掲げる。風が強い。布の裾がバタバタと風にはためいて、手を鉄柱から離せば飛んでいってしまいそうだ。
 なのにヅラ子は、左手を軽く鉄柱にそえた程度で、身を乗り出すように右手を伸ばしている。風に飛ばされないように足はふんばっているのだろうけれど、そんな気配を微塵も感じさせない。
「平気だ。」
 そう言って、遠くを見つめる。
 視線の先には、雲の走る空。自分たちのいる東側には青空も見えるものの、振り向いた背後はいまだ雲で覆われている。
 まるで、あの人のようだ。
 そんなエリザベスの心を覗いたかのように、ヅラ子は口を開いた。
「坂本も、よくこうやって空に手を伸ばしていたな。」
 思わずエリザベスは、ヅラ子を見つめる。
「あの時は、何をそんなに掴もうとしているのか、俺は全く分からなかった。判ろうともしなかったが。」
 その眼差しは、遠い。
 ヅラ子………いや桂が何を見ているのか、エリザベスには分からなかった。 ただ、言いたいことだけは、何となく。
「空の向こうに、憧れでも郷愁でも何でもいい、恋うものがあるなら、たとえ実際には手が届かなくとも、手を伸ばしたくなるものだな。」
 彼自身の恋うものは、空の向こうなんかにはない。それは、彼の視線の先にある。
 今彼が、こうやって手を伸ばすのは。
「………すまない、エリザベス。」
 そう言って桂は、視線をエリザベスに向けた。
 化粧を施した艶やかな顔。その、紅を引いた口唇が、薄く持ち上げられている。
「こんな、遠い所にまで、連れてきてしまって。」
(………っ。)
 慌ててプラカードを挙げようとした。
 広い面積のそれは高所を吹く風に煽られ、エリザベスはバランスを崩しかける。
「エリザベスっ!」
 素早く桂がその体を支えた。細い腕だが、巧く重心を捕えて、エリザベスの大きな体を掬いあげる。
「大丈夫か?」
 エリザベスは頷いた。礼を言おうとして、それよりさっきの桂の言葉に答えた方が良いのかと、迷う。
「大丈夫なら、いい、だが、気を付けるんだぞ。こんな所から落ちたら、怪我だけではすまない。」
 優しい声でそう言われ、エリザベスはただただ頷く。
「そうか。」
 桂はすっと目を細めた。そして、思い出したように、首を巡らす。
「見ろ、エリザベス。」
 桂と同じ方向へ視線を向け、エリザベスは絶句した。

 いつの間にか、空が。

 台風の過ぎたばかりの空は風が強く、空を走るように雲が飛んでいく。西の空を覆う雲も吹き飛ばして、その切れ目から金色の陽が覗く。
 灰色だった雲が、金色に縁取りされて。
 そして、東の空に。
「虹だ………………。」
 足元のビル群の向こうには、港と、そして海が見える。
 その海から立つように、七色のアーチがかかっている。
 思わず、エリザベスは見惚れた。
 まるでおとぎ話のような光景が、今日、この日に見れるなんて。
「よかったな、エリザベス。」
 静かな声が、耳にやさしく響く。
 プラカードを挙げることも忘れて、エリザベスは頷いた。


 そして、夜。
 パパパんっ。
「「「「「「おめでとうございます、エリザベスさん(先輩)!!」」」」」」
 スナック『お登瀬』ののれんをくぐった途端、そんな歓声と軽い破裂音とともに、紙ふぶきがエリザベスを襲った。
「お前ら、遅いアル。もう私、お腹ぺこぺこネ。」
「って、ハンバーグほおばりながら言う台詞じゃないよ神楽ちゃんっ!」
「それはいいからとっとと蝋燭消せや。ケーキ食えねぇじゃねえかよとっとと銀さんにケーキをよこしなさーい。」
「あら銀さん、主賓さしおいて催促しちゃだめですよ。お腹が空いてるなら、他の料理を食べていればいいじゃないですか。ほら玉子焼きありますよ。」
「オ前ラ貸切ナンダカラ、モット景気ヨクイケヨ。売リ上ゲ上ガラナイト私ノボーナスモ上ガラネェンダヨ。」
「キャサリン、あんた本音言い過ぎだよ。たとえ身内でも、建前ってもんを使わなきゃ客は金落としていかないんだからね。」
「アンタも本音言い過ぎですって!!」
 党のメンバーだけではない。
 お登瀬やキャサリンはまだしも、万事屋やお妙まで勢ぞろいしていた。
「驚いただろう、エリザベス。この日のために、皆頑張って準備をしていたのだぞ。」
 さ、早く中へ、と促す桂は、楽しそうだった。
 驚いた。
 あまりにも予想通りの、サプライズだったので。(メンバーにお妙がいたことまでは、さすがに予想しなかったが。)
 この日のため。
 この時のために、準備をしてくれた。
 エリザベスを、喜ばせようとして。
 みんなが、こうして祝ってくれる。
 祝ってくれるように、声をかけて、人を集めてくれる。

 桂が。

『桂さん。』
 プラカードにして出せば、みんなに見られてしまう。
 たった一人にだけ伝えたい言葉だったから、エリザベスはメモ用紙のすみっこにそれを書いて、桂に手渡した。
『自分は、しあわせです。』

 自分がここにいるのは、桂のせいじゃない。
 自分がここにいるのは、桂のおかげなのだ。





                           ~Fin~

by wakame81 | 2007-09-19 22:15 | 小説:君想ふ唄  

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