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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

この日、君は~11月15日:後

あ。今回の話は、以前のコピー本「毛布おばけと真夜中の押し入れ」と、設定が同じです。というか、あの本でしか触れてない、「桂さんは時々毛布ひっかぶって押し入れに閉じこもります」を、今回サイトで初めて出しました、というか。
読んでなくてわけわかめじゃー!という方、苦情お待ちしております-。







 嬉しさに高くなった神楽の声と、驚き100パーセントの新八の声が重なる。だろ?と坂本は視線をトイレのほうに向け、子供達もそれに倣った。
「銀ちゃんが知ってるアルね。ヅラのリーダーは私なのに、出し抜きなんてずるいアル。銀ちゃん、銀ちゃーーーんっ」
「わぁ神楽ちゃん、ダメだってばっ」
 トイレのドアをぶち抜こうとする神楽を、新八は羽交い締めにして止めた。夜兎の本性に目覚めた神楽を押さえた時よりも、必死だったと彼は後に語る。
「銀ちゃん、無駄な抵抗は止めて出てくるアルっ。お前はもうとっくに包囲されている、草葉の陰でお母さんが泣いてるアルよーーーっ」
「いや神楽ちゃん、この状況でそれはちょっと違うよ。ていうか、二日酔いなんだから聞ける状態じゃないんじゃない」
「いーや、今こそがチャンスアル。オトコは弱ってるときにせめられるとコロッと墜ちるって姉御も言ってたアル」
「ほーう、誰だか知らんがしょうえいことをゆうなぁ。世の真理じゃ」
「アンタも黙って見てないで手伝ってくださいよっ」
 新八は奮闘した。夜兎相手に地球人が、クリリン以上の奮闘を見せたがそこまでだった。当の銀時がタイミング悪く便所から這い出てきたからである。
「銀ちゃーーーんっ」
「え、ちょ、なにっ?」
 マウントポーションを取られさんざん揺さぶられて、やっと銀時は「んなもん俺が知るか……」とだけ呟いて絶命した。早とちりにもガセネタを掴まされたと気づいた神楽が坂本を締め上げたことは、まぁ言わずもがなである。


 そんなこんなで、新八が買い出しに、神楽が定春の散歩に出かけた後には、駄目な大人の死体二つが残された。
 夏場は暑さのこもる万事屋の客間は、この季節、晴れた日にはあたたかい陽射しが入り、窓を開けていなければほどよく心地よくなれる。ただ、その陽射しすら今の銀時には厳しいらしく、時間を掛けて移動してきた日当たりからもぞもぞと逃れようとしていた。
「まるで芋虫みたいじゃぁ」
「うっせーよバカもじゃ……」
 銀時に比べればまだダメージの少ない坂本がそう感想を述べると、赤茶の目が恨みがましく見上げてきた。全部オメーのせいだろーが、と、口の中でもごもごと呟いている。
 銀時にしてみれば、理不尽で仕方ないのだろう。昨夜から神楽に受けた仕打ちのさまざまといい、先に飲んできた坂本の方が、二日酔いが軽いことといい。
「さすがは、阿留酎星の酒じゃのう」
「あんな、意味のわからねーもんもう二度と持ってくんじゃねえ……」
「しっかしまさか、ヅラがここに来てないとはなぁ」
「聞けよ人の話。」
 向けられた視線に剣呑なものが増した。唐突に話題を変えたからか、彼の名を出したからか。
「おんしら、仲直りしたがだろ?」
 銀時は、もぞもぞとした動きを止めた。脱出できなかった陽溜まりの中に、膝から下だけが残される。
「……仲直りってほどのもんでもねーよ。つーか、元から日参してたわけでもねーし」
 蹴ろうとしてもソファの上の坂本には届かない。余裕ぶっこいていると、新八がおいていったお冷やのコップが顔面に直撃した。
「いたたたた。何するちやー」
「お前もう黙れっての。ったく、なんであのオメーが全然二日酔いねーんだ……」
「今朝早いうちに全部出したからかぇー」
「便所先に汚したのオメーかっ。おかげで俺が新八に怒られたじゃねーかぁっ」
 怒鳴りつけて、銀時はまた床の上に転がった。呻き声を含んだ呼吸が、不規則に上がる。
「ま、でも良かったなー」
「何がだよ。つーかしゃべらせんなもう。お前の相手してるだけでしんどいんだよ」
 言いつつも、口数は多くなってきている。時折銀時は、こういう潰れ方をした。安静にしているよりむしろ動いている方が、空っぽなはずの力を奮い立たせて。

 悲鳴を上げているカラダのドコカを、無視して動くような。

「ヅラと、ケンカできて」
 布巾とかタオルとかいうものが、この家のどこにあるかはさすがの坂本も判らない。が、顔と服を濡れたままにしておくのもアレなのでよっこいせと腰を上げた。適当に、タンスを漁る。
「あ? んなわけねーだろ」
「そりゃ、仲いい方がえいがは当たり前やけどな?」
「ばっ、誰が仲良いっつったよっ。アイツうぜーだけなの迷惑してるの、ケンカもめんどくせーけどつるむのはもっとめんどくせーの。てかお前それ俺の服だぞ、何もじゃ頭拭いてんだこのボケ」
「丁度えぇじゃろー」
 もう一個、坂本のためにおいてあったグラスが背中にぶち当たった。なんともいえないじめっぽさと冷たさが、一張羅を通して伝わってくる。何するがだーと呟いて、上着を脱いでそれも拭き始めた。
「あーもー、クリーニング代請求すっからな。オメーじゃなくて陸奥に」
「マジでか。ほりゃあこらえてくれ~」
 けらけら笑うと、銀時はごろんと身体の向きを変えた。仰向けからうつ伏せになって、まるめた座布団に顔を埋める。
「金時ー? おーい、きんときー」
「もうしゃべんじゃねぇよ。マジつかれた……」
 大きな息を座布団に押しつける姿に小さく笑って、床に転がったコップを拾い上げた。水浸しになった床を銀時の流水紋で拭き、台所へと向かう。二つのコップに水と氷を入れて、一つをちゃぶ台の上に、もう一つは一息に飲み干す。氷を口の中で転がせば、ひやりとした感触がいつまでも喉を潤してくれた。
「無理ばっかしちゃいかんだぞー。ほら、水」
「誰のせいだっつってんだよ……」
「誰のせいかぇー」
「このやろ……あとでぶん殴ってやる……」
 もう一度、大きく笑った。
 たぶん銀時は、元気が出てきたらその言葉を実行するだろう。そして自分は抵抗しない。銀時なりの荒っぽいコミュニケーションだと判ってるし、だからこそそれが嬉しく感じるからだ。
 もしこれが、昔の桂なら。
 何故殴られるのか判ってないだろうし、だからこそ怒るのだろう。きれいな眼を釣り上げて、腕組みをして肩をそびやかして、理不尽な暴力(桂視点)に対して説教を延々とするだろう。そのうちどちらからか手を出してしまうかもしれない。そして、互いに言いたい事をぶちまけて、すっきりする。
「……なー金時」
 現在の桂は、きっとそうしない。
「ケンカはそりゃ、取り返しのつかんことになるかもしれんけど」
 言葉の合間に、氷を噛み砕く。銀時は答えないまま、ただ耳だけが僅かに動いた気がした。
「ケンカするばあ仲がえぇっていうのも、真理にかぁーらんぞ」

 それが彼ら二人にできないうちは、銀時はあの姿を見ることもできない。

 銀時の手がちゃぶ台に伸びる。身体が起こされ、掴まれたコップは一息に傾けられた。乾いた身体に冷たい水はわずかなりとも潤いを与えただろう、さっきよりはすっきりとした顔色をしている。
「……辰馬」
「ん?」
「おめ俺の服で何しやがってんだ」
 言葉と共にコップが飛んで来て、避ける間もなく坂本の顔に直撃した。


 万事屋を出てから、もう一度エリザベスに連絡を取る。桂と会いたいのなら、やはりコレが一番確実な手だった。ほどよく、呼び込みバイト中の彼を見つけることができ、気づかれないようにほっと息を吐く。
「おーい、ヅラぁぁぁぁぁぁ(はぁと)」 ばこん。
「ん。なんだ坂本か」
 振り向きざまにいいアッパーが飛んで来た。避ける間もなく顎に直撃を食らってもんどりうつ坂本に、平坦な声がかけられる。
『大丈夫ですか? まぁ自業自得だけどな』
「まったくだ。いきなり飛びついてくるから、てっきり芋か不逞の輩かと思ったぞ」
『後者は恐らく間違ってないと思います』
「あっはっはー。遠慮のない言い方じゃのぉ」
 身体を起こそうにも、顎から脳天まで貫いた衝撃が残って力が入らない。地面に大の字になった男を、日の傾いたかぶき町を行き交う人はうろんげな目で見やる。「ままー」「しっ、見ちゃいけません」というテンプレ台詞すら、聞こえてくる。
「ほら。」
 白い手が、差し出された。一昨日の夜にはやけに細く、頼りなく感じた指だ。握り返すのを躊躇っていると、手はさっさと引っ込もうとして慌てて腕を伸ばした。
「ありがとうなぁ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。それに、こんなところで寝っ転がられると店に迷惑がかかり、引いては俺とエリザベスの給料にも関わってくる」
「あっはっはー、泣いていい?」
 触れた指はしっかりと握られた。色白と細長さとは裏腹に、剣だこのある力強い手だ。まっすぐに、日本の夜明けを掴もうとする手だ。
「しかし、まだいたのか」
『とっくに宇宙に行ったのかと思ってました。確か、こっちにいるのは一昨日までと』
「それって、一昨日来やがれってゆー隠語? 違うぜよ、発つのは明日の朝で」
「なら、今は出航の準備で忙しいのではないか。いつも思うが、お前は陸奥殿にいろいろと頼りすぎだ」
「なんちゃーがやないなんちゃーがやない。今日の夕方までにゃ戻るってゆうてあるから」
「もう夕方だな」
 にべもなく告げる桂の目は、さりげなく通りを行く人に注がれている。時折、疲れたように背中を丸めて歩く男を見つけては、声を掛けようとして失敗していた。まさか、片手間に坂本の応対をしているからではないだろうが。
「……待っているのではないか。陸奥殿も、お前の他の部下達も」
 忙しなく動いていた眼が、不意に止まった。向けられる先は坂本ではない。ただ、少なくはない意識が傾けられるのを、半身になった身体が示している。
「今日は、そういう日だろう」
 ケーキも蝋燭も祝いの言葉も、今日という日こそ相応しい。本当は、今日この夜を桂とも過ごしたかった。視線の高さを等しくしながら、生きる場所を地上と宙とに分けた今では、言っても詮ないことではあるが。
「なぁヅラ。誕生日プレゼント、くれんか」
「何を言っている。昨日の朝、やっただろう。かわいいエリザベス饅頭を。試作品で、俺ですらまだ完成品を口にしてないのだぞ」
 紡がれるつれない言葉ごと、桂を抱きしめる。いろいろと仕込んだ羽織の分厚さが、細い身体の感触を遠いものにする。エリザベスからどす黒い殺気が放たれたが、握りしめたプラカードの柄がみしりと音を立てただけに留められた。
「一昨日、わしがゆうたこと覚えてる?」
 毛布越しに抱きしめた時の方が、よっぽど細かった。
 おととい?と腕の中で小さな呟きがこぼれる。周りから、好奇の視線が注がれたが、気にしている余裕も、器の小ささでも二人はなかった。
「何のことだ」
「ま、そうろうけど」
 毛布おばけの存在を、桂は知らない。坂本がいつ、やってくるのかも。毛布おばけの意識が落ちるまで側に寄り添い、あたたかい食べ物を与え、最後にありったけの願いを込めて抱きしめることも。
「ゆっくり、思い出してくれたちいいから」
 普段だったら、今頃払いのけられているかエリザベスの報復を受けている。それが許されているのは、今日という日ゆえだろうか。だったら役得とばかりに、腕に力を込める。
 宇宙は広い。地球上では思いも寄らない危険も多い。地球を離れる度に、思う。これが、最期ではないかと。
 だから。

『わしばあじゃのうて、せめて銀時にくらい、その姿を見せるようくじゅうてくれ』
 心の奥底だけで、一昨日の遺言を繰り返した。




                           ~Fin~

by wakame81 | 2010-07-25 11:08 | 小説:この日、君は  

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