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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

この日、君は~11月3日:中

前後二回で終わるかと思ったら、ビミョーに入りきらないという事実(爆)。







「そしたら、(がじがじ)ヅラも尚も、(しゃくしゃく)女の子なんだからハンカチ(がじがじ)持ったほうがいいっていうアル(ぷぷぷぷぷぷぷ)。二人とも(がじがじ)、女らしさとか男らしさとか(しゃくしゃく)、細かすぎるアル(ぷぷぷぷぷ)」
「いや、聞き取りにくいんだけど」
 スイカに思い切りかじりつきつつ、合間にしゃべるものだから判りづらいことこの上ない。ツッコミ入れながらも顔が笑っているあたり、新八も慣れたということだろう。
「そうよ、神楽ちゃん。食べながらしゃべるなんてお行儀の悪いことしてると、銀さんみたいになっちゃうわ」
「(しゃくしゃく)俺がなんだって?(ぷぷぷぷぷぷぷぷ)」
 夕暮れともなると、灼くような陽射しも幾分か楽になる。打ち水をした志村家の縁側は、風通しがいい。瑞々しいスイカをかじりながら、風鈴の音を聞く。惜しむらくは、蚊取り線香を炊いても蚊が寄ってくることか。
「神楽ちゃん、痒くないの?」
「痒いのが怖くてスイカは食べられないアル」
「まぁ、こんなに食われて」
 スイカをおかわりする間に掻きむしった腕は、真っ赤になっていた。薬を取りに、妙は中へと戻る。
「でも、僕もハンカチくらい持ち歩いた方がいいと思うよ? ほら、顔がべたべたじゃない」
「そんなの、袖で事足りるアル」
「って僕ので拭かないでよっ」
 差し出したハンカチを無視しての、この仕打ちか。赤いシミをつけた袖にため息をついて、新八は銀時を振り返った。スイカにてんこもりにされてる砂糖については、改めて小言を言うとして。
「銀さんも何とか言ってくださいよ。年頃の子がやっていいことじゃないですよ?」
「んー? いーじゃねーかハンカチなんか持ち歩かなくてもさー。ハンカチ一枚作るのに、どれだけの木綿やら化繊やらを必要とすると知ってっか? それ考えたら、ちょうど余分に余ってる布が腕にくっついてんだから、それ使った方が合理的じゃね? お前なんのために和服の袖がぶかぶかになってると思ってんだよ」
「少なくともスイカ食ってべとべとの口を拭うためじゃないと思いますっ、ってだから僕ので拭くなぁ! 自分の使ってくださいよっ」
「ケチケチしてんじゃねーよ。いいじゃねぇか減るもんじゃああるまいし」
 減ります!と新八が叫ぶ前に、長刀が銀時の眼前に突き出された。銀色の前髪が少しと、シミだらけになった袖がざっくりと切り割かれる。
「銀さん、そんなお行儀の悪いことしないでください。だから神楽ちゃんが真似するんでしょ?」
 説教にいきなり長刀持ち出す方がよっぽど行儀悪いだろうと新八も銀時も思ったが、口に出すような愚挙は犯さない。もちろん、破れてしまった袖に対する苦情なんて、間違っても言えない。
「はい、神楽ちゃん。キンカン塗ってあげるから腕貸して」
「待ってー姐御。まだこのスイカ食べ終わってないアル」
「食べながら掻いちゃだめでしょ? スイカはこっちにおいて、腕を貸してごらんなさい」
 また口端からしたたる赤い水を、妙は持ってきたおしぼりで拭った。神楽はおとなしく、口元をきれいにされて腕にかゆみ止めを塗られる。ほんのちょっとだけ、重心が背中に傾いた。
「神楽ちゃん。私もね、ハンカチは持った方がいいと思うわ。女の子なんだし、エチケットのひとつよ」
「……だって」
 塗り終わると同時に、スイカを両手に一つずつ持った。今までの水っぽい甘さに加えて、手首からツンと苦い臭いが鼻を通して舌を刺す。
「なんか、めんどくさいアル」
「袖で拭く方が、よっぽど面倒だと思うけれど」
「んなことねーよ。ハンカチ使ったら洗わなきゃなんねーだろ? どうせ、着てるもんだって洗うんだ。だったら着てるもんの袖で拭いた方が早ぇだろ」
「銀さんの意見なんか聞いてません」
 ぴしゃりと切り捨てるついでに、かゆみ止め薬の瓶が銀時の顔面に直撃した。
「新ちゃんの袖、ごらんなさい? あんなに汚れちゃって。神楽ちゃんの服も、ハンカチがわりにするたびに、ああなってしまうのよ。あ、銀さん。あとで慰謝料とクリーニング代請求しますから。そうねぇ、500万ほどかしら?」
「どこの世界に500万円するクリーニング代があるってんだぁっ」
「あら、500万円じゃありませんよ。ドルです」
「なお悪いわっ。どんだけ高級なハンカチなんだよおめーの弟の袖はぁぁぁっ。おちおち鼻くそも拭けやしねぇ」
「アンタ人の袖をなんだと思ってんですか」
 新八は低い声でツッコみ、一方妙は無言の笑みを浮かべたまま長刀を握りしめる。
「いい機会だから、銀さんもハンカチとか持ったらどうです? なんか僕が洗濯手伝うたんびに、やたら袖に変なシミがついた服ばっかり目にするんですが」
「えーやだよ。持ち歩くのも、買うのすらめんどくせぇ」
「銀さんのハンカチなら、ここにいるわっ!」
 ぼやく言葉を遮る高い声が、志村家の庭に響いた。それまで静かに合唱していたヒグラシが、幹を揺さぶられて一斉に飛び立つ。
「お妙さん、あなたまだまだ甘いわね」
 飛び立った蝉の落とし物を一心に浴びて、木の上からさっちゃんが降り立つ。誇らしげな顔で皆を見渡し、妙をびしっと指さして見せた。
「己の汚れを押しつける道具としてでも愛する人に必要とされる喜びが判ってないわ。いいえ、汚い部分を押しつけられることこそ、そこまでの信頼を傾けられているということの証。私は銀さんの汚れなら、鼻くそでも唾でもおしっこでも精液でも受け止めることができるわ。お妙さん、あなたにそんなことができてっ?」
「できないし、むしろしたくもないわ。こんな、子供のお手本にもなれないぐーたら白髪男のなんて、なおさらよ」
「ふっ。お妙さん。あなたには失望したわ。同じ、銀さんを愛する者同士だとしても、あなたと私じゃMの器が違う」
「いや、姉上はどちらかというと……ナンデモナイデス」
「さぁ銀さん、あなたのハンカチにもなれない女なんか放っておいて、私であなたの汚れを拭って! あなた色に染まるなら、鼻くそでもなんでもかまわないわっ!」
「おーい新八ぃ、お前んちのタオル貸してくれ」
「んまぁ銀さんたら! これだけ私を汚しておいて、さらに辱めようっていうの? 素敵、素敵よそれでこそ銀さんよ。いいわ、もっとやりなさいぃぃぃっ」
「いーや、甘いなお前こそ甘い!」
 今度は野太い声が、地を這うような低さをもって志村家の庭に響いた。土煙をたてて、縁側の下から近藤が這いずり出る。そして、なぜか定春の前で仰向けに寝っ転がっているさっちゃんをびしっと指さした。
「無視される、それは道具として必要とされてないってことだ! そんなんで満足できるのなら、お前はハンカチとしてそれまでだな! お前には失望したよ忍者さん。同じストーカーと言われようと、俺とお前じゃ変態の器が違う」
「いや、どっちもどっちです近藤さん」
「さぁお妙さん。ハンカチとしての意義を忘れている女なんか放っておいて、俺で汚れを拭ってください! あなたの汚れなら、鼻水でもおしっこでもうんこでもかまいまへぶっっ!」
「新ちゃーん。汚いゴリラの血で汚れちゃったから、タオル持ってきて?」
 案の定、長刀の一撃で近藤は血の海に沈んだ。庭土に広がる赤を、定春に転がされながらさっちゃんが己の体で拭き取っていく。
「………(しゃくしゃく)」
「こ、こういうハンカチは論外として、やっぱり神楽ちゃんもハンカチ持ったら?」
 三枚目のタオルを、新八は神楽の横に置く。指についた甘い汁をなめてきれいにしてから、神楽はそれを手に取った。顔に押しつけると、洗いたての石鹸のにおいがする。
「便利だよ、あると。なんなら、うちの余ってるハンドタオルあげようか?」
「新八が使ってないのなんて、どーせお通ちゃんグッズアル。オタ臭くて使えないネ」
「お通ちゃんタオルで手ぇ拭いたりするわけないだろあれは額縁に入れて永久保存だよっ!」
「キモいアル」
「キモいな」
「キモいのよねぇ」
「キモいぞ新八君!」
「キモくてしょうがないわ」
「ワン!」
「何でそこまで蔑まれなくちゃいけないんですか、てか定春までぇぇぇぇっ!」


 その話が伝わったのか、数日後にはお登勢やたままでが、ハンカチを勧めてくるようになった。キャサリンに至っては、小馬鹿にするような笑いを浮かべながら明らかに牛乳を拭いた後のハンカチを差し出してくるほどだ。(もちろんシメておいた。)
 勧めてこないのは銀時くらいである。その銀時も、神楽がだめなら絡め手作戦とでもいうように、桂はじめ何人かからハンカチを持たせろダメ保護者と言われているらしい。
「ねぇ、銀ちゃん」
「んーーー?」
 寝起きだからか、銀時の顔はうつろである。死んだ魚の目が、死んで干からびて蠅のたかった魚の目になっている。
「なんでみんなは、私にハンカチ持たせたいアルか?」
「俺が知るかよ……」
「じゃぁ、なんで銀ちゃんは、私にハンカチのことうるさく言わないアルか?」
「俺が知るかよ……」
 相当眠そうだ。卵を豪華に三個かけたご飯にも、まったく手を出そうとしない。ご飯の上に突き刺した箸を、いつまでも見つめている。
 超豪華に卵を十個かけたご飯に醤油を差してかき混ぜる。おひつサイズとみんなに言われたどんぶりを空にするまで三十秒かからない。おかわりをよそってきてまたかき混ぜて空にしても、まだ銀時は箸に手を伸ばそうとしない。
「おはようございまーす。……うわ」
 ちょうどやってきた新八は、坂田家の朝ご飯に変な声を上げた。それ以上は何も言わず、麦わら帽子を脱いで、ハンカチで汗を拭った。
「銀さん、大丈夫ですか?」
「俺が知るかよ……」
「銀さん?」
「ダメある新八。銀ちゃん、さっきからそれしか言わないネ。昨日、よっぽど夜更かししたらしいアル。どうせ、深夜のえっちな番組に釘付けになったあげくにムラムラして眠れなかったに違いないアル」
「いや、それだけじゃないと思うけど」
「俺が知るかよ……」
 三杯めをたいらげて、ごちそうさまでしたと手を合わせる。どんぶりは、洗う必要もないほどぴかぴかに舐められあげている。神楽はそう思うのだが、新八に言わせると「それでも食べたものはちゃんと洗わないと。だいいち、汚れてないように見えて実はばっちぃんだよ?」らしい。



                       ~続く~

by WAKAME81 | 2010-07-08 23:57 | 小説:この日、君は  

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