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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

この日、君は:~9月4日:3

ねこ編は、銀桂猫もおいしいけど、そこに近藤さんがいるとゆーのがさらに美味しさを増していると思います。みんな、もっとチンポンチで盛り上がろーよぉ。

そして、「たいりくだな」では近妙を推奨しています(笑)。



ところで、今カウント見たら、今日一日だけで三桁いくどころじゃなくて、ぶっちゃけいつもの10倍近いんですが、何かあったんですか?(汗)







 わしわしと、頭の毛を掻き回せば白い泡が立った。特別のシャンプーではないが、清々しい石けんの匂いがふわっと広がる。ただ、近藤には気持ちよい泡の感触と匂いを楽しむ余裕はなかった。
「ちょっ、何やってんだいこのゴリラぁぁぁぁっ」
「やべっ」
 がらりと戸を開けて出てきたのは、かぶき町のキップのいいお母さんである。庭先の水道を無段拝借しているゴリラに臆することなく大声を上げたお母さんに、近藤は慌ててその場を離れた。
 屯所侵入から数日が経った。
 『これであなたもさらさらヘアー!メンズ用シャンプーさらさ~ら』の回収は、結局諦めざるを得なかった。代わりに、銀時が万事屋から石けんを持って来てくれたのだ。一回使う事に一パフェという、高いんだかよく判らないものをふっかけられはしたが、とにかく近藤にとっては助かった。
 走っていくうちに、体毛は乾く。川での石けん使用は環境に配慮と言うことで、見つかって狩られる危険を冒しながら、近藤は民家の外の水道を借りて回っている。
 走り回るゴリラは眼を引いて、驚いたようにこちらを見る人は多い。が、同じようにこっちにビクっと眼を向けて警戒のまなざしを向けていた、猫たちの姿は随分減った。パトロールから帰ってくる度に、密かに深いため息をつくホウイチの姿が思い出される。
「お。」
 途中の小さな空き地で、銀時とホウイチを見つけた。今日も今日とて、スズメを捕る練習らしい。小さな鳥に向かって爪が伸ばされるものの大きくそれは外れて、スズメは撥ねを散らして飛び去っていった。電線に止まってさえずる姿は、地面に寝そべる猫を嘲笑っているようにも見える。
「何だ。そんなことでは猫としてやっていけねぇぞ」
「だーから俺は猫じゃねぇってのっ」
 荒い呼吸を挟みながら銀時は憎まれ口を返す。ホウイチは大げさにため息をついて、出来の悪い教え子から離れた。自分の食い扶持を取ってくる、と告げてその場を去る。
「……大丈夫か、万事屋」
「だめー…………」
 銀時は寝っ転がったまま、微動だにしない。近藤は、辺りを見渡してみた。しなやかな黒猫の姿は、どこにもない。
「桂は、どうしたんだ?」
「……さーね……」
「一人で餌取ってんのかなぁ……」
 二人がそう、いつもいつも一緒に行動しているわけではないことを、近藤は少しずつ気づき始めていた。野生の獲物を捕るのが不得手な銀時がホウイチにしょっちゅう捕まっているからかもしれない。桂だけ、ふらりとどこかに出かけては、何かを持って帰ってくる。
 そして、二人でどこかへ出かけることも増えた。一人だけ置いてきぼりにされてずるいと行き先を聞き出そうともしたが、桂が頑として口を割らず、銀時もへらへらと答えをごまかすのでもう諦めた。
「知らねーよ。どっかで媚びでも売ってんじゃねーの?」
「何だ、淋しいのか万事屋」
「んなわけねーだろ。そりゃ昔は居残りさせられても待っててくれたけどさ。今残られたってうっとうしいだけ……」
 不意に、言葉尻が途切れる。白い毛の向こうからはっきり判るほど、銀時は茹であがった。眼を瞬かせる近藤から背を向けて、ごろんと寝返りを打つ。
「万事屋?」
「うっせーよ何でもねーよっ」
「あぁ、拗ねてンのかべしっ」
「誰が拗ねてるっつったっ! だーれがさびしいなんつったぁぁぁっ」
 疲れ果ててる癖に、ツッコミの鋭さは健在だった。眉間を押さえてのたうちまわる近藤を尻目に、銀時はのっそり立ち上がる。
「って、どこ行くんだ?」
「昼寝だよ昼寝っ。んーな暑苦しい日なたで寝てられっか」
 隅っこの、木陰が落ちる場所まで移って銀時は寝そべる。九月あたまの日射しは鋭く、黒い毛並みにはちょっと眩しすぎる。近藤も銀時の隣まで行くと、厭そうに見上げられた。
「何だよ、俺だって涼しいところにいたっていーじゃんか」
「暑苦しーんだよおめーの毛並み。剃れ」
「そりゃムリだよ……」
 銀時は口をつぐみ、寝返りを打った。木の近くにくると、蝉の声が余計に近くなる。このうるささの中よく眠る気になるなぁと、近藤は白い小さな身体をぼんやりと見つめた。
「しかし、知らなかったぞ。まさか、お前と桂がそんな古くからの仲だったとはなぁ」
 三角の耳がぴくっと跳ねた。それ以外は無関心を決め込むのか、何も答えない銀時に、小さく笑いをこぼす。
「それで、あんなに仲がいいんだな。何だか、小さい頃のトシと総悟を思い出すよ」
 一度銀時から視線を外し、眼を閉じた。木陰の隙間から差す光、咽せるほど熱を孕んだ空気、降り注ぐ蝉の声に、土と草の匂いが鼻をくすぐる。生まれ育った土地はもっと、風通しがよくて、車の音なんかしなかったけれど。
「懐かしいなぁ……」
 土方には肩肘を張るも自分には素直に懐いてくれる総悟と、ぶっきらぼうながらも心を少しずつ預けるようになってくれた土方と、そして自分たちを見守ってくれたやさしいひとと。
 同じような記憶を、銀時も持っているのだと不意に実感する。
「……桂、止めようとしなかったのか……?」
 口にしたのは無意識で、言ってから口を押さえた。そっと銀時を窺い見るが、白猫は背を向けたままだ。
「止まんねーんだよあのバカ。筋金入りの頑固もんだし」
「止めようとは、したのか」
「……別に、心配ってわけじゃねーよ。ただ、あーバカだなぁと思っただけで」
「そうか」
 止めたかったのは、桂のしていることを否定したかったからではないのか。そうだよな、と心の中で呟く。
 相手が天人とは言えテロ行為には憤りを感じたこともある。が、今の桂の行動が本当に日本のためを思ってのことで、そしてそれがこの国のために必要なのだと、近藤だって理解してはいるのだ。
「何だ。二人そろって昼寝か?」
 声は上から降ってきた。バネがしなるように滑らかに着地する桂は、今日もお土産を持って来ていた。今日は、ハムの塊だ。
「ウホっ。美味そうだな」
「おい待てゴリラ、俺のぶんまで取るんじゃねーよっ」
 飛び起きた銀時は、悪いなともありがとうとも桂には伝えない。桂も、それを当然のように受け入れている。一歩間違えれば険悪な関係になりかねないそれは、互いに気の置けない仲だからなのだろう。


 そんな、猫ゴリラライフも終わりの時が来たようだ。
 いつもは石けんで泡立てる頭を、今日は水を被っただけで済ませた。冷たい水が、近藤の眼を覚まさせる。
 夜通し探し回った甲斐あって、人間に捕まった猫たちがどこに連れて行かれたのか、近藤達は掴むことができた。ホウイチも、きっとそこにいる。
「よし、行くか」
「キャっ?」
 タオルで身体を拭く前に、身を震わせて水を弾いた。そこに、小さな悲鳴が重なる。
「何? いきなり水が飛んで来て……あら?」
「……お、お妙さんんんっ!?」
 九月頭の朝は早い。白み始めると闇はあっという間に追い出されていく。スズメが小さくさえずりはじめ、その下に佇んでいるひとの姿を見間違えたことはない。
 「すまいる」で見る、華やかな化粧は今は申し訳なさ程度にほどこされていて、彼女本来の美しさを醸し出している。朝陽はまだ金色の光を投げかけるほど顔を出してはいない。それでも、辺り一面に光が降り注ぐような、光景を近藤は見たと思った。
「この前のゴリラちゃんじゃない。水浴びしてるの? こんなところで?」
 妙の足下では打たれた水が黒い染みを作っていた。さっき近藤が弾いた水が、彼女に降りかかったのだと悟る。いや、それ以前に。
「す、すいませんお妙さんんんんっ。今、ズボンはきますからちょっと向こう向いていただけると嬉しかったり! すいません、まだ籍も入れてないのにこんな格好でぇぇっ!」
 毛むくじゃらとは言え素っ裸である。妙から身を隠すように背を向けて、オーバーオールジーンズを掴む。慌てているのと、近藤の身体がまだ水に濡れているのとで、足を通すのもままならない。焦るあまり、すっ転ぶ始末だ。
「あべしっ」
「あらまぁ、大丈夫?」
 言葉と共に気配が近づいて、近藤はふわりとやわらかいものに包まれた。ケモノ臭いそれは、今まで近藤が使っていたバスタオルだと気づかせてくる。
「こんなに濡れたままじゃ、風邪引いちゃうわよ」
 ごし、ごしと、細い手は力強く近藤の頭を拭いた。ごわごわしてるわね、と、すぐ後ろで笑う声が耳に響く。頭の次は背中へと手は移った。
「広い背中ね。なんだか、父上の背中みたい。こんなに毛深くなかったけど」
 声は笑っていて、妙がどんな想いでそう呟いたのか悟ることはできない。考えてみれば、妙は沖田とそう変わらない歳なのだ。
 そう思うと、しなやかで強いこのひとを、急に抱きしめたくなった。衝動のままに振り向いた近藤の頬に、タオルが当てられる。
「慌てないで。ちゃんと、前も拭いてあげるから」
 細められた眼は、どこまでも優しかった。近藤自身に妙から向けられたのは初めてだったが、どこか懐かしさを感じた。
「じっと、しててね」
 丁寧に、腹から脇から足まで拭いてくれる。乱れた毛に、今度は櫛が取り出された。木製で作りは質素だが、長い間大事に使われているのが、妙の手にしっくり収まるさまからうかがい知れる。
 もちろん、女性用の小さな櫛では、身体の大きなゴリラの毛など梳かせるのは難しい。それでも、これしかなくてごめんね、と謝りながら、くしゃくしゃにほつれた毛を解いていく。
 櫛の歯は細かく、近藤のごわついた毛は何度も引っかかった。その度に妙が通りをよくしようと引っ張ったりするものだから、痛みは更に増した。何本か抜けたのも判った。
 抜けた箇所をいたわるように、手が添えられる。こんな風に触れてもらったことなど、ない。
「野良でも、きれいにしておいてね。その方が、かわいいから」
 オーバーオールを着るのまで手伝ってくれて、妙が手を振って去っていったときにはもう日が昇っていた。家と家の間から、金色の光がこぼれる。その、光の道の中を、妙は歩いて去っていく。
「ずいぶんと、のんびりじゃねぇの」
 うっとりとその後ろ姿を眺めていた近藤を、その言葉が引き戻した。自分の後ろから、白猫と黒猫がするりと歩み寄る。
「あーあ、鼻の下伸ばしちゃって。てか、絶対ココロここにねーよ、魂抜けちゃってるよ」
「だが、これで気合いは入ったろう」
「入るわけねーだろ。どっちかってーと、冥土の土産だよ。アキバ行ってももらえないもんもらっちゃってるよ」
 けらけらと銀時は笑い、桂は数歩前に出て振り返った。不敵な視線と、射抜くような琥珀のまなざしが向けられる。
「だが、これで無様な姿はさらせなくなったろう」
「死亡フラグ立っただけだと思うけどねー」
「そんなことないもんっ。いよいよお妙さんとのゴールインフラグだもん、トゥルーエンドだもんっ」
 猫たちは、近藤を待たずに歩き始める。大股で後を追い、その後ろにつく。
 朝の光に起こされるように、あちこちの家の奥から人の気配を感じる。夜のように表通りを堂々と行くわけにはいかない。日の差さない裏道を、選んで歩く。
 そのすぐ隣には、朝陽に照らされた道がある。きっといつでも、その光満たされた場所へと出ることはできた。



                        ~Fin~

by wakame81 | 2010-05-26 21:12 | 小説:この日、君は  

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