お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

闇に踊れ:2

暴力、流血表現はさらにパワーアップしております。
そして、地の文しかも説明文ばっかりで、ひっじょーに見づらいことは承知してます。直せなかったーーー。








 まったく、世の中は儘ならない。それは阿伏兎が何度も味わってきた感想である。
 夜兎の渡り歩く戦場が様変わりしていくのを感じた時、その流れに乗るように夜王が宇宙海賊への参入を決意した時、奔放な夜王に目をかけられた時、王が更に奔放な子供を後継者として迎え、しかもそいつにも目をつけられた時、王がそれまでの立場も何もかも捨てて辺境の惑星へと降り立った時にそれはクライマックスを迎え、以後新たな主のもとで静まる気配もなくやりきれない感情は保たれている。
「というか、あの師弟が俺の苦労の元凶なんじゃないかい?」
 今更のように呟いてみる。あの二人に振り回されなければ、主人のお気に入りの玩具をジジィどもの目から隠す苦労をすることも、そのために再び江戸に降りて駆けずり回ることもなかった。
 それにしても、一年前に打った手がこんな簡単に潰えるとは思いもよらなかった。
 春雨正規のルートとは別に、吉原に麻薬を売りさばいた男は、本来の目的に手を伸ばそうとした矢先に倒れた。手を下したのがまたあの銀髪の男だというから、制裁を与えることもできやしない。
 表向きには自分や主人、春雨とすら何の関係もないあの男は、だからこそ都合が良かった。麻薬の吐き出す富など興味もなく、ただ恋情にも似た狂気を抱いていた男と、上層部をごまかすだけの安定した収入源を必要としていた阿伏兎とは利害が一致していただけに、口惜しい。
「というか、判ってんのかね団長は。鳳仙の旦那がいたころと同じくらいの利益をあげてるからこそ、吉原を好きにする権利が与えられてるってこと」
 もう一度査定なんか入れられてみろ。神威の力があの街に及んでいないことなどすぐにバレる。そしたら、お気に入りの玩具を取り上げられるだけではすまない。
 そんな部下の苦労の訴えも馬耳東風で、今回の件に「んじゃ、がんばってきてね~」とひらひら掌を振って見せた主人を、一度ぶん殴ろうかと時々本気で考える。
 もっとも、江戸に降りることが不満100%という訳でもない。飯も酒も、宇宙にいる時とは比べものにならないほど旨いものが手に入る。そしてもう一つ、江戸でなければ楽しめないだろう事がこの街にはあったはずなのだが。
「引っかからないねぇ……」
 仕入れるニュースでは、二人目の元遊女殺しのことをさんざん伝えている。マスコミは「凶暴えいりあん、脱走?」の見出しを全面に押し出してはいるが、気づいてないはずはないのだ。それとも、ヒントが少なすぎただろうか。
 吉原に限らず、江戸には地下街がいくつかある。そのうち一つを阿伏兎はぶらぶらと歩いた。今回江戸に降りてから、ずっとこの地下街をねぐらにしている。もちろん、見つけやすくするためだ。見慣れぬ風貌はともかく、片腕とはいい目印になるのではないか。
 だが実際は、身近に彼の手が伸びる気配はない。どうせ阿伏兎の仕事が知られれば邪魔をしにくるだろうから、楽しみも兼ねて炙り出そうと思ったのに、なんということか。噂では、春雨が子飼いにしている組織のトップのことは追いかけ回しているくせに、差別じゃないのか。
「もうちょっと、露骨にいくかなぁ」
 阿伏兎の存在が広まりすぎても困る。実は、タイムリミットだってあるのだ。
 歩きながら考えていても、良い案は出てきそうにない。腹が減っているからだ、と、見える範囲の飯屋を物色する。表通りにある店より、裏道に看板を出しているような店のほうが好きだ。うらぶれた空気と肩肘張らずボリュームもある飯を求めて、一本奥へと足を進める。薄闇が、一層増して阿伏兎を出迎える。
 清潔さにあまり気を払っていないような道は、あちこちでゴミバケツが転がり、足下をネズミだかゴキブリだか判らないものが走る。戸の隙間や換気扇口から漏れる湯気と匂いは道の腐臭と相まって、鼻がおかしくなりそうだ。通りに人影は少く、向こうから女が一人歩いてくるのみだ。
 最初は乞食かと思った。ボロの着物に裸足で、蚤でも涌いていそうなムシロを抱えていたからだ。薄闇と頭から被った布で顔は見えない。が、肩からこぼれる長い髪に思わず見惚れた。鼻を突く甘ったるい白粉の匂いに、その黒髪が浮いて見えたほどだ。
 狭い通りのこと、道を譲ってやると女は軽く頭を下げた。擦れ違う刹那、白粉とは別の匂いが阿伏兎の鼻をくすぐった。それに気づかなければ、おそらく相手の思惑通りになっていたのだろう。
 頸を包む皮膚と髪が切り裂かれる。狙いが浅かったことに動揺する光は、向けられた琥珀にはなかった。鋭い匕首は再び頸動脈を狙う。
「甘いねぇ」
 初撃のダメージは阿伏兎を本気にさせるには充分すぎたのだ。スイッチの入った自分に、正面からの攻撃は効かない。手刀で叩き落とすと今度は顔面に煙幕が投げつけられた。身を翻す気配がそれに続いた。
「おやおや、鬼ごっこかい」
 逃がすものか。
 姿はすぐに、細い路地の角を曲がって消えた。後を追えば暗闇の向こうに小さく布が舞う。
 くっと咽の奥で笑った。火薬や白粉、ゴミの臭いを越えて、それは歴戦の夜兎の感覚を刺激する。研ぎ澄まされた刃のような、殺気めいた血の匂い。どれだけ離れようと、一度感じ取ったその匂いを見失うことはない。
 わざと、阿伏兎は気配を消した。
 桂の狙いなどお見通しだ。今は一度姿を消したが、いずれ阿伏兎の命を狙いに現れるだろう。不意打ちか、ならば焦らせてやればいい。追ってこない阿伏兎に狼狽えればいい。
「…………うーん。」
 そのまま、暫しの時が過ぎてしまった。桂の気配は相変わらず遠くに感じるのみで、揺れ動く様子も、焦って近寄る様子もない。
 ただ、阿伏兎がどこをどう彷徨こうが、つかず離れずのようにそこに感じ取れる。見失うな、とでも言うように。
「誘われてるってわけかぃ?」
 震えるような笑いが押さえきれない。向こうがそのつもりなら、好都合だ。桂のことだ、侮れない夜兎の戦士を向こうに回してそれでも勝てるという状況を、どこかに用意しているのだろう。なら。
「お誘いに、乗ってあげようじゃないか」
 無視をする、或いは先手をとって急襲するという選択肢は、もちろんなかった。
 幾つかの路地を抜け、細い階段を何回も降りていく。あたりは一層暗さを増し、無骨なコンクリートや鉄筋、電線や下水と覚しきパイプが向き出しになっていく。地下街の深層、この世の底に降りていくような感覚に、ぺろりと唇を舐めあげる。
「いいねぇ。いいんじゃない?」
 閉ざされていく闇に、夜に生きるモノの本性が晒け出されていくのか、戦場へ近づいているという予感に血が震えているのか。高ぶる身体と裏腹に、神経はどんどん冷えて研ぎ澄まされていく。雨に打たれた後のコンクリートのような、凍るような、岩石のむせるような、けれど鼻につくではないむしろ澄んでいるような匂いが次第に阿伏兎を取り巻いていく。その奥に、桂の匂い。と、焦げ臭いものの。
「……っ」
 しまった、と言葉にはしなかった。爆音と次いで熱風が巻き起こり、阿伏兎を包む。唯一肌を晒している顔面の皮膚に痛みが走り、衣服からも焦げ臭さを感じる。口を噤まなければ、肺の内側から灼かれていたかもしれない。
 悶え、熱気から逃れるという選択肢を阿伏兎は捨てた。どうせ、この炎の渦の中へ仕掛けるすべは桂にはない。闇雲に動いて隙を見せるよりは、この方がまだマシだ。
「………ふうううううううっっ」
 炎の勢いが衰えていくのに併せて、気を発した。体重を込めて振り下ろされた右足が床にヒビを割り、衝撃が風となって熱気を追い払う。
 さぁこい。これで終わりじゃないだろう?
 気配を探る。近くにいるはずなのに、桂は闇に溶けたように存在を掴ませない。
「ここでクイズだ」
 声が掠れる。だいぶダメージを食ったようだ。庇いきれなかった頸の傷がひりつく。
「今ここで逃げて、凶暴なえいりあんとやらの犠牲者を増やすか、それとも素直に出てきて俺とデートするか、どっちを選ぶ?」
 どっちでも自分はかまわない。そう思うと言葉尻が笑みで震えた。
 逃げるなら、それはそれだ。あの刃のような男に、敗北という傷を刻みつけることができるのだから。
 ゆらり、と空気が動く。まとったボロい着物はそのまま、顔を隠していた布だけ取り払われて、どの闇よりも暗い髪が露わになっている。
「凝った趣向、ごくろうさん。なかなか楽しめたぜ、おじさんは」
 低く笑う声に、桂は応えない。刀を持つ手を下げたまま、だがそこから斬りかかるスピードが、決して侮れないと阿伏兎は知っている。
 身体にいくらダメージを負っていようと、そんなのは大した事象ではなかった。目の前に、強敵がいる。すべての神経と感覚を集中できる。片手間に対処できるような相手ではない。戦う者の本能を、魂を揺さぶるほどの相手が。
 それだけで、今までのどの戦場よりも己の力を奮うことができる。
 口端を持ち上げたのは、半ば無意識だった。ふ、と、風が流れるように、桂は動いた。


 投げ出された身体は既に意識を保っておらず、半壊した壁からずり落ちて伏せた。それでも、根本から折れた刃を右手から離さないのはさすがと言うべきなのだろう。
「……はー……」
 こちらも壁に体重を預けながら、息を大きく吐き出す。額から頬を伝ってぬめるものが滴り落ちる感触は、未だ収まらない。腕も上がらない。左脚に至っては、しばらく使いものにならないだろう。
「やってくれたねぇ」
 紙一重、だった。相打ち覚悟で、たまたまこっちのカウンターがあちらの攻撃をくぐって届いただけだ。時間稼ぎに過ぎなかった前回は、相手の思惑に救われただけだということを思い知る。本気で来られて、このザマだ。
「次やったら、殺られるかもしんないねぇ」
 口に出してみると、その言葉は愉悦の響きを持っていた。それも悪くない、と思っている自分がいる。やれやれ、と首を振る。
「ま、いくららしくないって言っても、所詮俺も夜兎ってことだねぇ」
 強敵にまみえることこそ、戦人の喜び。勝敗の結果など、おまけに過ぎない。
「……さて」
 まだ力の入らない身体を起こす。足かせをつけられたような足取りはおぼつかなく、気配を押し殺すにはほど遠い。その足で近づいても、桂はみじろぎもしない。
 黒い髪は血で濡れているのか、ふしぎな光沢をまとっている。上向きにがれきにもたれた顔にも、のけぞった細い首にも、血と泥が跳ねている。外してやった肩から腕はだらしなく垂れ、足は不自然な方向に曲がっている。まとっていた着物はぼろぼろに破れて白い肌を晒し、小さく開いた口からはヒュゥヒュゥと息がこぼれている。
 笑いが口から落ちる。命を削りあった闘いは、まだ高ぶる感情を残り火のように阿伏兎の内に宿したままだ。いや、もっともっとと、飢えのように燃料を欲しがっている。
 無防備な腹を蹴飛ばせば桂は起きるだろうか。あの燃えるような琥珀を、閉ざす瞼のうちから覗かせるだろうか。
未だ屈服してないだろう魂を力づくで押さえ込んで、高ぶりで貫いてやったら胸の内の炎は収まるのだろうか、それとも勢いを強めて桂を焦がし尽くすのだろうか。
 一度だけ得た快感の名残が、阿伏兎を内側から追い立てる。
「手加減できないだろうねぇ」
 興奮に震える手を伸ばす。あと三メートル、二メートル。桂は目覚めない。あと、
「ご用改めであるっ」
 不躾な声は出し抜けに現れた。おいおい無粋ってもんじゃないのかい? 伸ばしていた手を止め、あたりを探る。感じる気配はそう少なくはない。
「まったく、なんてタイミングだろうねぇ」
 飼われる狗が完全に牙をもがれたわけでないことを、阿伏兎は知っている。虫けらだろうが鬱陶しいことに変わりはない。脅かして逃げるような輩だったらよかったものを。
「まぁいい。ついでだ」
 新たな夜王の右腕ともあろうものが、半死程度の傷で引き下がるわけにはいかない。すくっと立ち上がり、通路奥の気配へと向き直る。意識を完全に桂から外す直前に、それは耳に届いた。
 カチッ。
「かち?」
 瞬間、轟音が響いて足下がなくなった。阿伏兎の立っているところだけではない、壁から通路の奥に至るまでが階下から押し上げられそして崩れ落ちる。はっ、と桂を振り返る。走馬燈がよぎるように琥珀が眼のはしに映り、その向こうに到底飼い犬などと言えない、獰猛な気配を感じた。




                                       ~続く~
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by wakame81 | 2010-03-08 00:18 | 小説。  

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