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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

かみさまのいうとおり:6

ここの銀時パートから、しんみりモードに入ります。おかしい、発注は「コメディタッチで」だったのに。リク主さまスミマセン!!








「…………ふぅ~…」
 盛大に、新八が肩の力を抜く。台所の妙や、和室に引っ込んだ神楽は気づかなかったのか結局出てこなかった。出てきたら、この程度じゃすまなかっただろう。
「一時はどうなることかと思いましたよぉ。何事もなくて良かったですね」
「……沖田は」
「はい?」
 ちゃんと閉められた玄関を見つめたまま、呟く。新八に語るというより、ぽつりと独り言を落とすような声だった。
「銀時の前では、ああいう顔をするのだな」
 視界の端で、新八が首を傾げるのが映る。桂(in銀時)と手の中の紙袋を交互に見やって、それからためらいがちに口を開こうとして。
「新ちゃん、桂さん? ごはんできましたよー」
「はうぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 溢れ出たのは絶望の叫びだった。


 16時23分。
「おや、ここにいたのか」
 ひょっこりと顔を出した坂本に、銀時(in桂)は伏せっていた顔を上げた。余程げっそりしてたのか、あっはっは~と坂本は笑う。
「せんばんことうたちやようだな~なんちゃーがやないか、顔が真っ白だぞ?」
「標準語しゃべれ……」
「あっはっは」
 蒲団も敷いてないのに寝っ転がった銀時(in桂)の隣に、坂本は腰を下ろした。反対側にしゃがんでいたエリザベスが、かつての主人の顔を窺うように覗く。えいよえいよ、と坂本が手を振ると、頭を下げて桂の忠実な?ペットは退室した。
「今日はしょうまっことおだれさん。おんしが立ち会ってくれたおかげで、話もまとまったぜよ。祝いの席が設けられちょるけど、出るか?」
「ケーキ出る?」
「こがな山奥だと難しいろうけど、だんごにあんこじゃったら山ばああるぞ」
「いちご牛乳は?」
「どうろう……いちごがあるかぇ?」
「んじゃ寝てる-」
 顔を腕に埋めて答えると、また笑い声が上がった。広い、と言っても二人分の和室、坂本の部屋とは襖で仕切られている。寒いので眺めの良い窓際に繋がる部分も締め切っていて、その中で坂本の笑い声はよく響いた。
「辰馬、頼むから静かにしてー」
「判った判った。慣れんコトしてことうたちやみたいだしな」
 坂本の大きな手のひらが伸びて、長い髪を梳く。頭から遠く離れたところまでも引っ張られる感覚はどうしても馴染めず、寝返りを打ってその手から逃げる。
「ヅラの替わりは、だらしぃだろ?」
 驚きは、しなかった。顔だけ坂本に向けて、「白ペンギンが?」と問う。
「いや、エリザベスはなんちゃーじゃゆうてないぞ。言いなやも判るから」
「……そう」
「肩もきやろうか? 温泉にあだつ時間はないろうけど、それくらいじゃったら」
「このまま寝ちゃダメか?」
「ダメだ。みんなーが待っちゅうから。桂さんが来るがを、今か今かとな」
「何で。どうせ宴会だろ? ヅラさんいなくても平気だって」
「残念ながらそうはいかんのー。あちらさんにしたら、憧れの桂さんと飲める機会だぞ? 潰しちゃかわいそうじゃ」
「知らねーよそんなの。出ないで憧れのままにしといたほうがいいんじゃねぇの?」
「ヅラならちゃんと出るぜよ」
 ぐったりしたままの銀時(in桂)の身体をうつ伏せにする。着たままの羽織を脱がせて背中を覆う髪を頭の両側へ流して、両肩に手を当てる。
「りぐっちゅうなー」
「てかヅラの奴、羽織りにいろいろ仕込みすぎ。今日は普通の会合なんだろ、幕吏なんか来ねーだろ」
「来るかもしれんよ」
「マジでか」
 肩を揉みほぐす手は小袖の上から肩胛骨に触れる。その僅かに外側にずれたところをぐりぐりと親指で押す。痛さと気持ちよさが、強ばった肩の力をゆっくりと奪っていく。
 晩秋の山奥のこと、訪れる人が寒くないように、宿には温泉だけでなく暖かな仕掛けが施されている。火鉢の炭は赤黒く光り、鉄瓶はシュンと音を立てて湯気を吐き出す。上に人が乗る重み、銀時には馴染みのない重さだがそれはぬくもりを持っていて。
「あー……眠くなりそ……」
「あはははは、ダメじゃ」
 坂本の手は、背骨沿いに腰へと降りる。
「寝てしまうなら、襲うぞー」
「ちょっ、それマジ勘弁っ。いくらヅラの身体だからって穴掘られるなんざ冗談じゃねぇっ」
「あっはっはーなんちゃーがやないだ、半分冗談やき」
「残り半分は本気かよっ」
 坂本をはね除けて起き上がり、襖の隅にまで避難する。ちょっと青ざめた顔の銀時(in桂)に、坂本は笑って羽織を差し出した。
「だれてるのはよお判っちゅうけんどな。まだ、終わっちゃーせん」
 口調は柔らかい。大きな口元も、笑みを浮かべている。けれど、眼は真剣だった。
 これと同じ眼を知っている。忘れるはずもない。宇宙へ行く、と宙を見上げて語った時、一緒に行こうと差し伸べられた視線だ。
「桂さんの真似は、おんしには厳しいろう」
「……ああ」
「自分にもこたわん、高杉にもいかんだ。そればあのことを、桂はしちゅう」
 サングラスの奥で、細い眼がますます細められた。行灯では照らしきれない、薄暗い部屋の中で、坂本がどんな顔をしているのか不思議と銀時は判る。桂や高杉を理解するのとは違う、勘とか経験則とか、そういう理屈づけられる部分で。
「でも、桂にゃこたわんことを、銀時はしちゅう。自分はそうしようとして桂の助けになれちゅうけど、銀時は意識しやーせき、ただおるばあで桂を助けちゅう」
 それがちっくとばあ、羨ましい。
 低く落とされた声は、吐息のようで。
 桂自身には決して向けられないだろう呟きに、銀時は眼を閉じた。


 17時半。
「あれ、まだ仕事か?」
 妙が置いていった暗黒物質を小麦粉に混ぜて練って団子にしてVS家庭内害虫決戦兵器にこしらえるという重労働の後(そりゃもう神楽の胃袋を計算に入れて作るものだから、ご近所におすそ分けできるほどになった)、食材の買い出しを終えて戻ってきた桂(in銀時)は机に向かっていた新八を見つけた。
 今日の食事当番は神楽で、どうせ卵かけご飯だから大した手間はない。大釜いっぱいのご飯が炊きあがるまで、することは大してない。風呂でも沸かそうか、と尋ねようとした声を引っ込めて、新八の向かいのソファに座る。神楽がとててて、とやってきて、その隣に勢いよく腰を下ろした。
「リーダー、もっと静かに座らないと埃も立つしソファも傷むぞ」
「はーいアル」
 いつもの銀時、或いはいつもの桂相手なら、文句や言い訳の一つもつける神楽は、今日ばかりは聞き分けがいい。銀時の外見も、そんな表情をしているとちゃんとお父さんに見える。板についてきた、というか。神楽もそれを感じているのだろうか。
「葉書?」
 新八が並べていたのはウシの絵のついた葉書だ。宛先はどれも万事屋か坂田銀時様となっている。
「今年のか」
「そうです。そろそろ、来年の年賀状の準備をしなくちゃなので。出す人のリストを作ってるんですよ」
 新八は言いながら手帳と葉書の住所を照らし合わせている。年賀葉書が来た人には鉛筆で丸印をつけて、来た分を仕分けていく。
「見ても良いだろうか?」
 積み上がっていく山を、桂(in銀時)は手に取った。良いですよ、の声に、一枚いちまいめくっていく。
 お登勢、たま、屁怒絽に西郷やかまっ娘のメンバーなど、桂のよく知っている人物もある。長谷川の妻や橋田屋の嫁など、名前だけは知っているものもある。宛名の一つひとつを、横から神楽が指を差してこの人はどこの誰でー、と説明をつけていく。
「これは、随分遠いところから出しているのだな」
「それはね、母ちゃんアル!」
「母ちゃん? どちらのご母堂だ」
「八郎の母ちゃんネ」
「時々、取れた野菜を送ってくれたりもするんですよ。八郎さんや『高天原』のみんなの分もあるのに僕らのぶんまで出してくれて」
「でもついてくるお手紙は小言がいっぱいネ。歯を裏までよくみがけとか、万年床はダメだとか、ご飯茶碗は食べたらすぐ水につけなさいとか。ほら!」
 年賀状にも!とめくられた裏側に、桂(in銀時)は眼を細める。
「気の細やかな、良い母上だな」
「ヅラの人妻好きにはミラクルヒットかもアル」
「ぜひお会いしたいものだ。いつか会合であちらを訪ねた時には、顔を出させてもらおう」
「そうしてください。僕らも滅多に会える距離じゃないんで」
「こちらは、温泉宿からか? 写真だな」
「レイはスタンドだから、そうでもしないと鉛筆も持てないネ」
「レイ、というのはこちらの紫のパーマの婦人か?」
「その人は温泉宿の女将のお岩さんて人です。レイさんは、左側の若い人で」
「年季と気合いの入ったいい髪型をしている。ここも随分遠いな、人里からも離れている。さぞ苦労なさったのだろう」
「何でそっちに食いつくんですか」
「レイの映ってるのはみんな心霊写真になっちゃうけど、お祓いもできなくて銀ちゃん困ってるアル。ヅラ、何とか言ってやるヨロシ」
「よし、帰ってきたら厳しく言ってやろう。こんな逞しい婦人の映った年賀状にお札なんか貼るとは何事か!とな」
「頼もしいアル、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
 いつしか、新八も混ざって年賀状をみんなで眺めていた。神楽の腹時計がご飯の炊けた頃を教えなかったら、夜遅くまでそうしていたかもしれない。
 腹が減った、と神楽が駄々をこね始めたのをきっかけに、桂(in銀時)は台所へと立ち、新八も広げたものを片付けて後を追う。
「来年分も、あれだけ出すのか?」
「そうですよ。今から図案をどうしようか、迷っちゃって」
「こんなのはどうだろう。来年は寅年、つまり肉球年だ。定春殿の肉球にインキを塗ってだな、葉書にこう…」
「さっすがヅラアル。冴えてるナ!」
「はみ出ると思うけど」
 冷静なツッコミに、神楽も桂(in銀時)も頭を捻る。
「しかし、あれだけの量を一から書くのは大変だろう。かといって絵柄つきのを買うのは高くつかないか?」
「まぁそうなんですけどね。きっと、今年分以上に書かなきゃいけなくなるし。大変なんですよねー」
「そうだ。新八、酢昆布を摺りおろしたのを筆に溶いて書けばいいアル!」
「酢昆布はあぶり出しにはならないと思うよ」
 あー困ったどうしようと、炊飯ジャーごとのご飯と、卵と漬け物とお茶と、食器を並べながら子供たちは図案について話し合っている。箸を並べる手を止めて、桂(in銀時)はそれを黙って見つめていた。


 翌日、18時。
「だーーっ、ちょっとくらいいいだろここまで我慢したんだからっ」
『何が我慢だ、酒もご馳走も甘味もたらふく味わっただろうが』
「食って太らせろって言ったのはおめーと坂本だからな。それに、それとこれとは話が別ですー。土曜発売のところを今日まで待ったんだからね銀さんは。もうジャンプ欠乏症だかんね銀さんは。一刻も早くギン肉マンと再会しないと淋しくてさびしくて死んじゃいそうです」
『うさぎぶるのもいい加減にしろ。かわいくない』
「あ、言ったなぁ? これヅラ君の外見でもかわいくないんだって。へーイイコト聞いちゃったぁ。ヅラ君聞いたらショックだろーなぁ」
『外見はかわいくても中身がかわいくない』
「あ、テメっ」
 眠らない街かぶき町も、長屋通りの路地を奥に向かえばこの時間は暗さが増す。閉められた戸板の隙間から暖かい光と良い匂いが漏れ出ている。魚を焼いた香ばしさが煙と一つになって鼻の奥をくすぐった途端、腹がぐぅ~と鳴いた。
『駅弁もあれだけ食ってまだ足りないか』
「うっせー、この身体が燃費良すぎなんです。あれだけ食っても太らねーし、何か飼ってんじゃね、虫的なものとか」
「虫的なものじゃない、桂だ」
 聞き慣れた、はずの声に妙に違和感を感じた。あーそういやちゃんと腹に力を入れないと、桂の低い声は出ないんだったとここ数日の我が身を省みる。逆に、坂田銀時の腹筋に力を入れたらああいう、低さに太さを備えたどっしりした声になるんだなぁ。




                           ~続く~

by wakame81 | 2010-01-04 22:47 | 小説。  

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