人気ブログランキング | 話題のタグを見る

お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

この日、君は~8月10日

約二月一月と29日遅れて、高杉誕生日。10月9日じゅうにアップしないと、拗ねられそうだったので(笑)。

8月10日は、はとの日です。最初現在設定で書いたら、暗くなりすぎたのでボツ-。







「きな、目が覚めてみたら、二人とも自分の部屋で寝間着でいたんじゃ」
「ふーん、夢オチ?」
「ほりゃあ判らん。ただ、二人とも、見たんじゃよ」
「何を」
「ふっふーん、何にかぁーらん?」
「もったいぶってねーで早く言えよ」
「何とな、自分たちの飼ってた鳩が、朝の光の中で青く見えたんぜよ!」
 高らかに告げた坂本の顔は、イタズラを成功させた悪ガキのようにも見えた。ただでさえつぶらではない目を更に細くして、びっくりしたろ?と笑う。
「んで?」
「兄妹は悟ったがだ。幸せを呼ぶ鳥はじきねきにいたんだと!」
「灯台元暗しという奴だな。何事も、始める前に己の身の回り、身近なところからまずあらためろということか」
 たぶん坂本の言いたかったことは、桂の感想とは違ったのだろう。笑みの形はそのままに、眉だけが八の字に垂れ下がる。
「つーか、そんな偉そうな教訓のある話だったの?」
「うーん、おっかしいのー」
 銀時の興味は、すでにつまみ代わりの干し芋に移っていた。最後の一切れをいつまでももちゃもちゃと咀嚼している。
「幸せは、じき近くにあるちやーっていう話じゃった筈ながになぁ」
「判るわけねーだろ、このヅラが」
「ヅラじゃない桂だ。大体何だって、こんな話になったのだ」
「んなこと言ったって、斥候帰ってこないと作戦も立てようがないじゃん?」
 皿にこびりついてる欠片を舐めとろうとしている銀時は、たぶん坂本の真意を読みとっている。呆れた目で見やると、高杉と逆方向から桂が銀時を睨みやった。
「だからと言って、暢気に雑談に興じている場合でもないだろう。それに何だ銀時、行儀が悪い」
「まぁ固いことゆうな、ヅラ。酒のつまみとでも思えばえいがやき」
「そーそー。どうせ辰馬に話させてたら、くっだんねー話かエロ談義にしかなんねーんだから」
「どっちもどっちだな……」
 深い溜息をついて、桂は黙り込む。まだ半分以上残っている湯呑み茶碗に坂本がこぼれんばかりに酒を注ぎ足した。
「おい、俺の分あるんだろーな」
「あっはっはー、すまんの金時、はや空じゃ」
「あーっ、何やってくれてんだよこのバカもじゃっ。つーか金じゃなくて銀だって何回言ったら覚えんだよっ」
「暴れるな馬鹿者。埃が立つだろうが」
 緊張感のない賑やかさを無視して、高杉は一度外へ出た。
 やっと夜の更け始めた頃だが、あたりは静かだ。連日の進軍がたたったのだろう、久しぶりに屋根の下で眠れるとあれば、無理もない。本陣を構えた小屋を出れば、見張りに立っていた部下が頭を下げた。変わりはなし。せっこうもまだ戻らないし、一夜の宿を貸してくれた村にも変化はないようだ。
 一回りして戻ると、天パ二人はまださっきの話をしていた。
「やき、たとえば美味い酒と、きれーなおねーちゃんがいたら嬉しくなるじゃろ? おねーちゃんとイイコトしたら、そりゃはや天にも昇る心地になるじゃろー?」
「それと糖分なー。糖分忘れんじゃねーぞ」
「それが、お前らが年中浮かれてる理由か」
 だいぶ酒の回ってるらしい二人に対して、桂は平静、に見えた。少なくとも、見た目は。
「つーか、こんな安酒少しばかりでよく酔えるなテメェら」
「高杉」
 もじゃ二人は放って、桂がこちらを見上げる。
「まだ、戻らないか?」
「あぁ」
「そうか」
 そろそろ、最悪の事態を前提にしているのだろう。柳の葉のような眉が、潜められる。
「おー、晋ちゃんおかえりー。糖分持ってきてくれた?」
「なんだ、随分時間がかかったなー。大のほうか?」
「うるせぇ馬鹿もじゃども」
 腰を下ろして、新しく持ってきたひょうたんから自分の湯呑みに酒を注ぐ。すぐさま差し出された湯呑みをわざと無視してやる。
「んだよ晋ちゃんのケチー」
「テメェは糖分さえありゃぁいいんだろ」
「酒だって、突き詰めりゃ糖分でしょー」
「あっはっはー、晋坊、わしのは?」
「美人に注いでもらえ」
「ヅラー」
「ヅラじゃない桂だ。飲み過ぎだぞ高杉。銀時も坂本も」
「こんくらいじゃ潰れねぇよ」
「ほーら、晋坊も、じき近くの幸せというもんを判っちゅうじゃろー」
 しなだれかかるように肩に回された手を、暑いと引き剥がす。大体、耳元で馬鹿みたいな笑い声を上げられるとうるさくて仕方ないのだ。
「またその話か」
「その話じゃよー。なぁ晋坊」
「晋坊言うな、叩っ斬るぞ」
「何、晋ちゃんはこの話に反対?」
「銀時、テメェ酒いらねぇようだな」
「あーうそうそー。冗談だってば晋ちゃん」
 懲りない白髪頭に、黒もじゃ頭を投げつける。うぉわっと変な声を上げて銀時は坂本をはねのけた。隅にどかした地図をしわくちゃにする勢いで、坂本は畳の上に寝転がる。
「まぁ、否定はしねぇけど」
 言うと、桂は目を丸くした。
「お、判ってんじゃーん」
「うるせぇ黙れ天パ」
「高杉まで」
「いーんだよ、腹が減っては戦はできねーだろ? ついでにそれが美味かったり好物だったりしたら元気出んだろー? つか、おめーだってそば好きじゃん」
「そばは、栄養価の高い食べ物だからだ。荒れ地でもよく育つしな」
 珍しく、銀時らのたわごとに肯定的なことを言う。今度は高杉が目を丸くした。が、続けられたのはやっぱり桂らしい台詞だった。
「だが、食べ物の好き嫌いを言っている場合ではなかろう。それに、腹がくちくなりすぎても、戦はできん」
「あのねヅラくん」
「ヅラじゃない、桂だ」
 寝っ転がったままの坂本から、力のない笑いが上がる。
「まっこと、ヅラは厳しいなー。やけど、人間みんながみんな、そこまで禁欲的にゃなれんぞ」
「理解は、している」
 酒を注いでいた銀時が手を止めた。高杉も、湯呑みを口から下ろす。目を瞬かせたあと、坂本が身を起こした。
「だから、お前達や皆に、浮かれるのを止めろとは言わん。だが、羽目を外すなよ」
 きっと、桂は。今飲んでいるのが酒じゃなくてただの水になっても不平を覚えないし、この先一生そばが食べられなくなっても何とも思わない。ただ一つのものに、桂は己のすべてを捧げてしまった。それは高杉も同じだけれど、おそらく笑いながらそれを為すだろう自分と違い、桂はにこりともしないのだろう。
 それではいけないと、坂本はきっと思い始めている。おそらく、銀時もだ。青い鳥の話は、絶望に向けて進むしかない桂や自分への、せめてもの説得だったのだろう。


 夜明け近くになって戻ってきた斥候のもたらした情報で、作戦は煮詰められた。正確には、こちらの情報が筒抜けになっていることを前提に、だ。
 天人の技術には、対象の記憶を総ざらいしたあげく、自分達の情報を消すというものがある。何度か、この手で敗走を強いられた桂は、それを逆手に取った。
「鬼兵隊を、囮とする」
 その朝告げられた言葉は、部下達の動揺を呼んだ。無理もない。鬼兵隊は大半が農民や町人からなる。正式に武芸の訓練を受けたものでもない。遊撃ならともかく、天人の大軍と正面から相対して持ちこたえられるかどうか。
「怖じ気づいてんじゃねーよ」
 続けて放たれた高杉の言葉がなければ、戦いを前にして部隊は分裂していただろう。桂と高杉、二人の将から交互に説明された作戦に、桂軍も鬼兵隊も最後には納得した。
 作戦はおもしろいほど成功した。
 鬼兵隊と桂軍の混合部隊、《白夜叉》と《狂乱の貴公子》に率いられた桂軍の主力、それぞれが天人軍を引きつけている間に敵陣を抜けた坂本の別動隊が背後を突く。鬼兵隊の特性を知り、遊撃は彼らだと読んだ天人は、見事に足をすくわれた。狭まりつつあった包囲網は突破され、桂軍は東へと進んだ。
 そして、高杉ら鬼兵隊が今いるのは、伊勢は大湊の湊である。


「すげーーーっ」
 広々とした河が海に注ぎ込み、運ばれてきた土砂が豊かな中州を作り上げている。その大きな港町に、部下達は歓声を上げた。海を見て育った高杉すら、口笛を吹いたほどだ。
 堺湊には及ばないものの、港の規模も、碇を下ろす船の大きさや数も、積み降ろしされる荷も、予想以上に多い。そして、荷を求めてやってくる商人や、彼ら相手に商売をしようと集まってくる者の数も。
「このご時世に、随分と繁盛してやがるな」
「お伊勢様と東との中継地点の一つですからねー」
「他にも、ここら近辺の特産物とか集まってきてるらしいですよ!」
 無邪気に喜ぶ部下達に、苦笑してみせる。街のあちこちで、日本人ならぬ姿を見かけた。つまりここは、天人に膝を屈した湊なのだ。そうでなければ、ここまでの賑わいは見られなかっただろう。
 頭を振って、裡に暗く蠢くものをやり過ごす。そして口元を歪ませた。
 武器も糧食も、奴らの手によるものを利用して、奴らの喉元に刃を突きつけてやる。形振り構わなければ追いつめられるだけだと、あの敗戦で知った。
 三々五々に散って、宿をとる。泊まる場所も商人との繋ぎも、坂本が伝手をたどってくれた。こういうネットワークの扱いのうまさは、高杉も桂も銀時もかなわない。
「谷梅之助様でいらっしゃいますね」
 町人を装う高杉の偽名を呼び、丸っこい宿の主人は愛想笑いを浮かべた。
「才谷様より、いろいろ承っております」
「しばらくの間、よろしく頼む」
 こっちもよそ行き用の笑みを浮かべてみせた。ニコ目の裏で、主人が何を考えているかは判らない。商人は信用ならないが、利益を与えてやれば繋ぎとめることはできる。だから高杉は、約束より多い金を払ってやった。
「ありがとうございます。ところで、才谷様より荷が届いております」
「あ?」
 思わず地声が出てしまった。つい先日までともに戦っていた坂本が、何の荷を高杉に託すというのか。
 言われるままに部屋へと案内される。そして、狭くはない部屋に積まれたものに、口をあんぐりと開いた。
「大将こりゃすげぇ、酒ですぜ!」
「しかも、一等の名酒だ」
 部下達がはしゃぐのを遠く聞き、ゆっくりと息を吐く。
主人へと向き直り、「これを、才谷が?」と問う。
「はい、昨日注文を受けまして」
 そんなこと、何も聞いていない。
 眉をひそめる高杉へ、主人は手紙を差し出した。封のされている書簡を開くと、間違いようのないほど見慣れた字が飛び込んできた。
 無理を言ってすまなかったと伝えてくれ。
 流れるような美しい字で書かれたその言葉の後に、飲み過ぎるなだのつまみもしっかり食えだの夜更かしは程々にしろだのと説教が続く。テメェは俺のお袋かよ、と、一人ごちる口から笑みがこぼれる。途中乱入した「十月には三倍返し」という殴り書きには、声を上げて笑いそうになった。
『せっかくだ。祝ってもらえ』
 手紙は最後にそう綴られていた。
「……あの馬鹿」
 青い鳥はいらないなんて言いながら、他人にはそうやって鳥の入った籠を押しつける。それが彼の甘さであり、弱点であり、そして長所だと知っている。
 そして、そんな彼だからこそ。
 《狂乱の貴公子》として、皆を栄光の死に場所へと誘えることも。



                                          ~Fin~

by wakame81 | 2009-10-09 23:54 | 小説:この日、君は  

<< 第177話。 第277訓。 >>