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お知らせ

●6月24日の東京シティに、桂さんお誕生日二日前企画のアンケート本を作ります。つきましては、皆様にアンケートをお願いします。名付けて、「銀魂キャラクターなりきりアンケート「ヅラに誕生日プレゼントを用意しよう」です、よろしくお願いしまーす。
●桂マイナーcpアンソロ、2011年6月シティのコタ誕で発行しました。
●アンソロ本文に、誤字を発見しました。
お取り替え、てか修正については こちら をごらんください。
今現在、修正関連のお知らせはhotmailには届いておりません。「送ったけどやぎさんに食べられたっぽいよ!」という方がいらっしゃいましたら、拍手か こちら までお願いします(爆)

星は何処~GrandFinale~Knight tonight:3

更新遅いぞ、何やってんの!←ブライトさん口調で読もう

すみません、水曜木曜金曜と、死亡しました。ヅラ誕金魂編、これで完結です。
メンバーに幾松っちゃんを数えそびれて、慌てて出したのはここだけの秘密(爆死)。


ん、8月5日に、またエキサイトブログが繋がらなくなるようですよ。









 石段に腰を下ろし、ビニール袋の端を破く。薄い木の棒にくっついた薄青のアイスは、安っぽいサイダー味がソウのお気に入りだ。その隣では、溶けそうになるソフトクリームに慌てて口をつけるてる彦がいる。
 歌舞伎町に多くの氏子を持つ花園神社だが、祭りもない平日の午後は人も少ない。ここは、昭和の学生運動の時代に、暴力ではなく音楽を武器にした若者が立て籠もった場所だと聞いている。その、レジスタンスの聖地に佇むに、これほど相応しい人物も珍しいだろう。
 坂本辰馬………新宿争乱時に、桂小太郎をパートナーとして夜の街を暗躍していた人物こそ、今ソウやジミーの視線の先でズラ子にへらへらとした笑みを向けている男だ。坂田金時や高杉晋助など、末期にちょっとだけ名を聞かせた若造に過ぎない。
 かつての英雄であるはずの男は、「今日は蒸し暑いなー、どれ冷たいものでも奢ってやろう」とコンビニでアイスを買い求め、それを年下二人に押しつけて自分はズラ子と話をしている。アイス、というのがまた小賢しい。簡単に溶けてしまうものを目の前にして、大人二人の話に集中して耳をそばだてるなんてできっこない。
 ヒトより何十倍の聴覚を持つジミーには、二人の話を聞き取ることは難しくない。天気のことや景気のことや、明日は時間が取れそうにないから前倒しで悪いけれどこれを、なんてやりとりをしている。暗号を使っての会話、というのでもなさそうだ。
「………坂本さんは。」
 ソフトクリームの上部分を半分ほど食べたてる彦が、ぽつりと口を開く。
「お店のパトロンなんだ。あのお店は、坂本さんがお姉ちゃんのために買ってくれたものなんだ。」
「へー?」
 初めて聞く話だ。「お頭裸」そのものを警戒視するトシーニョの勘は、どうやら当たったらしい。
「俺はあの黒モジャ頭、初めて見るけどねぃ。店にあんまり顔出さねーんだ?」
「うん。晋助兄ちゃんは、坂本さんのことキライだから。」
「何で?」
 溶けかかったクリームがコーンを伝う。てる彦はズラ子の後ろ姿を見つめていて、手の中の現状にもソウの表情にも気づく様子はない。
「くわしく教えてもらえなかったんだけど。坂本さんは、お姉ちゃんにひどいことしたんだって。」
「でも、ズラ子さんは黒モジャ頭嫌ってるようには見えねーけどなぁ。」
「うん。」
 こっくりと頷いてから、流れるクリームに気づき慌てて食べるのを再開する。ソウは自分のアイスをかじりながら、視線をてる彦から坂本へと向けた。
 こちらに背を向けているズラ子に、坂本は大きく口を開けて笑っている。サングラスに隠されて眼は見えないが、他の感情を浮かべてはいないだろう。時折、黒モジャ頭をぺしぺし叩くズラ子のまとう空気も、柔らかい。
「バンザイとかいうグラサン野郎とはえらい違いだなぁ。」
「万斉さんは、よくわからないんだ。もめてるとかじゃないんだけど。」
「うん?」
「万斉さんとお姉ちゃんが話しすると、母ちゃんも晋助兄ちゃん怒る。」
「ふーん?」
 俯くようにソフトクリームを食べる、小さな頭にソウの視線が落ちる。
「どんな風に。」
「もうほっといてやってくれって。」
 母ちゃんが。
 小さな呟きに向けられる赤茶のまなざしは、どんな表情を帯びているのか。
 ジミーはそっと、主人を窺い見る。どんな顔でも恐ろしいが、仮面でなく優しい顔をされていたら、………困るのだが。
「てる坊がズラ子さんに引っ付いてるのは、シンスケニーチャンとやらのためかぃ?」
 問いに、小さな頭はさらに俯く。食べるのを止めたソフトクリームが僅かに傾く。端からこぼれ落ちそうになるのにも、気づいている様子はない。ソウは、自分のアイスの最後のひとかけらをしゃぶり、答えを待つ。
「晋助兄ちゃんは、かっこいいし。」
「うん?」
「俺は、好きだけど。」
「うん。」
「俺は、まだ子供で、晋助兄ちゃんや坂本さんみたいに強くないけど。」
「うん。」
 小さな手に力がこもって、柔らかくなっていたカップが潰れた。うわ、と声を上げたのはソウの方で、てる彦は黙ったままぐしゃぐしゃのアイスを頬張る。
「俺は、できたら、俺の力で、お姉ちゃんを守りたいんだ。」
「………そっか。」
 強い眼を上げたてる彦にソウは笑って、汚れた手にハンカチをかぶせてやる。
「貸してやる。高くつくぜぃ。」
 そう笑う顔にトシーニョ言うところのふてぶてしさはなく、赤茶のまなざしの奥で何を考えているのか、ジミーは判らなくなる。
「お待たせしたかしら?」
 顔を上げれば、数メートルほど離れたところでズラ子が微笑んでいた。坂本はさらに離れたところにいて、てる彦らに手を振ると踵を返す。
「あら、汚れちゃったの? そこの御手洗、貸してもらいなさいな。」
「うん。」
「これは、貴方のかしら。」
 てる彦の手から、ハンカチを取り上げてズラ子はソウへと向く。頷くソウに、「洗って返すわね」と笑うズラ子の首にはさっきまでなかったペンダントが揺れている。
「坂本から、今もらったのよ。質に流していいって言うのに、自分でつけたがるんだから。」
 白くて細い首にかかるのは、淡く蒼い光を灯したような石だ。ムーンストーン、という呟きが、ソウの口からもれる。
「あら、よく判ったわね。」
「まぁ、職業柄ねぃ。」
 口端を吊り上げ、ソウはくるりと振り向く。
「ケチくせーったらありゃしねぇ、あの黒モジャ頭。」
 口にくわえていたアイスの棒を出して、日にかざす。ハズレと書かれたそれをソウが捨てなかったのは、ただズラ子の目があったからだろう。


「あら、いらっしゃい。」
 ソウがのれんをくぐったのは、歌舞伎町の一角にあるラーメン屋「北斗心軒」だ。そこの気っぷの良いおかみさんは、ちょうど厨房から出てきたところだった。
「ごめんなさいね、今からちょっと出前なのよ。」
「ふーん。」
 岡持をのぞく。ラーメン屋なのに、そこに並ぶのは盛りそばが六つ。
「スナックお頭裸、にですかぃ。」
「あら、よく判ったね。」
「ここにそばを出前で頼むのって、あそこくらいじゃねーですかぃ。有名な話ですぜ。」
 ソウの言葉に、幾松は苦笑する。
「名推理ね。」
「まーねぃ。幾松っちゃんも呼ばれてんですかぃ? あそこで今日やってるパーティ。」
「呼ばれたけどね。お店があるから。」
 よく知ってるわね-、と幾松の眼が丸くなる。
 万斉、そして坂本との遭遇から二日後。次の日に、と二人が言ってたわりに、ズラ子の誕生日は今日が本番らしく、そして誕生日当日はスナックは休みで、従業員だけでママを祝うらしい。どんだけ仲良しさんだ、女学生かとは、トシーニョの感想だ。
「頼まれてもらってもいいですかぃ。」
「ものによるけどね。何?」
「コイツ、パーティの主役に届けて欲しいんでさぁ。」
 ジミーの背中から、ピュアホワイトの包装紙に包まれたものを下ろす。大きく平べったいそれには社のロゴとバラを模した青い花がついていて、幾松はさらに目を丸くした。
「随分奮発したんじゃない。」
「そうでもねーでさ。」
「判ったわ、届けとく。」
 包みを潰さないようにバイクのかごに入れてベルトを掛ける。どうやら、幾松はまだ気づいてないようだ。にっこり笑って礼を述べる主人から、ジミーは密かに目を逸らす。直接手渡す男達に対抗して、当日を狙ったのはまだいいとして。
 外国人と子供という二つを隠れ蓑にして、プレゼントに帯を選んだソウの真意に、ズラ子は気づくだろうか。





                                     ~Fin~

by wakame81 | 2009-07-25 07:19 | 小説:星は何処  

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